16.翠のカラー決め(1)
翠が再びリクレンジャーの本部を訪れたのは、あのテロ事件から二週間後のことだった。
メインルームに入ると、立花が円卓に座りタバコを吹かしていた。その隣には由紀がボケーと座っている。真理亜は壁に背をあずけながら、こちらを睨む。
「もう、怪我はいいのかい?」立花が気遣うような言葉をだしたが、表情は不機嫌そうだ。
普段からこうなのだろう。
「おかげさまで」翠は笑顔で返して席に座った。
ほどなくして、京子がメインルームに入ってきた。円卓の前に立ち、挨拶もほどほどに本題を口にする。
「先日はご協力ありがとう。早速だが、提案があって皆さんには集まってもらった。陸軍主催のボランティア活動に参加してみないか?」
「三上さんのことを、少し調べたよ」タバコを消し、立花は粘っこい視線を京子に向ける。「ボランティアってのは、リクレンジャーとかいうやつだろ」
「だったら話が早い。いかがだろう。立花さん」京子は下でにでるわけでもなく、威圧的にいうわけでもなく、さらっと立ち話でもするようにいった。
「なんでもリクレンジャーってのは、三上さんの左遷用ポストらしいな。その一員になって、なにをさせようっていうんだ?」
「先日のようなことがあったら、協力してほしい」
「なるほど。この前みたいに手柄をかっさらって、酷い仕打ちをした古巣を見返してやりたいってわけか?」
悪意があるとしか思えない立花の言葉だが、京子の表情に変化はなかった。
「あのテロを解決したのは海軍ということになっている。私たちのことは陸軍に報告していないし、するつもりもない」
「いいのか? 返り咲くためのポイントをみすみす捨てちまって」
「かまわない。ビルの爆破を防いで多くの人命を救えた。その事実だけで満足だ」
「満足ねぇ」立花は疑わしそうに目を細めたが、やがて打算的な笑みをうかべた。「まあ、手伝ってもかまわないが……軍と警察は仲が悪い。軍人と仲良くしているのがバレたら職場で嫌われちまうなぁ……」
「それも問題ない。リクレンジャーのメンバーや活動内容は、一切軍に報告するつもりはない。私としても、軍からいらぬ干渉を受けたくないのだ」
「そうかい。だったらよろしく。ただ、もちろん警察の仕事のほうを優先させてもらうがな」
「それで、かまわない。ありがとう」京子は頷き、微笑んだ。
「歓迎しますわ」と翠も微笑んでやったが、心中では立花の態度に憤慨していた。
「由紀さんは、どうだろう?」京子は由紀に視線をやった。
「パパがいいなら、私もいいよぉ」
「ありがとう。……では、真理亜さんは?」
「アタシは結構忙しいんだけどな。まあ、暇なときはつき合ってやるよ」
「わかった。ありがとう」
「俺はそろそろ帰るが、いいかい?」
立花が立ち上がろうとするのを、翠が呼び止めた。
「お待ち下さい。みなさまのカラーを決めなくてはなりませんわ」
「カラー?」
「そうですわ。ワタクシの名は星川翠。その名のとおりグリーンを希望しますわ」翠は立ち、胸元のペンダントをつまみあげた。緑色の宝石が輝いている。「母の形見のエメラルドです。是非ともグリーンは私にくださいまし。というか、総帥にはすでにグリーンを任命いただいていますの。あとはみなさまのカラーを決めたいのですわ」
「まあ、俺は何色でもいいが……。いや、リーダーカラーのレッドだけは辞退する」
しがない刑事にレッドを任せるつもりなんて、毛頭ありませんのよ。翠は心中で毒づいた。
「だったらアタシはピンクだな」真理亜が面倒くさそうにいった。「由紀に女の魅力は欠片もない。ヒロインカラーは無理だ」
由紀さんにヒロインカラーが無理なのは同意しますけど、コールガールのような品性の足りない真理亜さんにも、相応しいとはいえませんわ。
その思いはおくびにもださず、翠は笑みを作りこんで真理亜に向けた。
「真理亜さんには、イエローを推薦いたしますわ」
「イエローだと! カレー好きのおちゃらけたデブじゃねーか!」
「最近のシリーズではひょうきんな盛り上げ役が多かったのも事実ですが、以前のシリーズではイエローがヒロインカラーだったこともありますのよ」
「知らねーよ! とにかくアタシは、イエローなんてイヤだからな!」
「ただのイエローではありませんわ。ゴールドです。金色の美しい髪はもちろんのこと、その美貌と正義の心で眩い光を放つ真理亜さんだけが、イエローをゴールドに変えることができるのです。ワタクシなどでは、とても真似できませんわ」
「わかったわかった、やりゃーいいんだろ!」真理亜は投げやりに応じつつも、照れ臭そうにそっぽ向いた。
おめでたい脳ミソで羨ましいですわ。翠は肩をすくめたくなるのをこらえた。
「私がピンクなのぉ?」由紀がいった。
「いいえ。由紀さんはブルーをお願いしますわ」
冷静で知的なナンバーツーであるブルーは、由紀とはかけ離れたカラーだ。しかし、消去方でそうなってしまった。
レッドとピンクは特別なカラーだ。由紀ごときに与えてやることはできない。
「はぁーい。わかりましたぁ」由紀は知性を感じない表情で、手を挙げた。
「さっきもいったが、レッドは嫌だぜ」立花が眉をよせた。
「ええ。ですので、立花さんにはピンクをお願いしますわ」
翠はさらりといい、立花は顔をしかめた。




