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11.合流?(2)


    ■□■□■




『テロ撲滅』の名目で、陸軍は警察業務に干渉することが多くあり、現場レベルの刑事からは目の敵にされている。


いかにもその手の刑事に見えるタチバナだが、素直に応じたことに京子はやや驚いた。


「今からする話は、あるマフィア幹部から俺個人に流れた情報だ。俺の他にもネタをつかんだ刑事がいるかもしれんが、警察のオフィシャルとはなっていない」


そのような前置きからはじまった話はこうだ。



テロの主犯はコウベ署所属の刑事、有本。有本は二年前、家族をテロで失っている。妻、七歳の娘、二歳の息子だ。


そのテロも今回と同じようにショッピングビルの爆破だった。対応したのはもちろん陸軍で、ビル内の三千人が人質となっているにも関わらず強行突入した。


結果、犯人は自爆し、避難できなかった民間人五百人が犠牲になった。


それに対して、万全の装備で挑んでいた陸軍の突入班には一人も犠牲者がいなかったことに、SNSから疑問が投げられた。


やがてマスコミにまで飛び火したが、「だったら軍人も多少死ねば納得がいくのか⁉」と、陸軍が議論のすり替えを戦略的に展開して、うやむやになっていった。


世論はそうでも、遺族の心が癒えたわけではない。有本はできるだけ多くの軍人を巻き込んで心中するテロを計画し、多くの同志を集めることはできたが、資金面がネックでテロ実行には遠い状況にあった。


そんな状況を一転させたのは、奇特な投資家が現れたことだ。その投資家は、この日、このビル、という条件付きで大金をだし、計画は一気に進んだ。


最後にタチバナはこう付け加えた。


「有本とは同期だった。クソが付くほど真面目な男だ。テロ犯をかばうつもりなど毛頭ないが、陸軍が突入したら、人質はほとんど解放する可能性がある。有本が憎むのは軍人だけだ」


「わかった、ありがとう。こちらの情報では主犯が有本という警察官であることはわかっていたが、動機までは判明していなかった」


「動機なんて、そもそも調べるつもりなどなかったのだろ? 軍としてはテロ犯を皆殺しにできればそれでいい。人質の命なんぞは二の次だ」


タチバナの皮肉に対していってやりたいこともあったが、時間の無駄なのでやめておいた。まずは状況の訂正が先なのだ。



カフェのテラスで三度目の爆発を目撃してからすぐに、一条からテロ発生の連絡があった。


その後も逐次、一条から報告を受けている。なんでも、京子の古巣であるテロ制圧部隊から、名前はあかせないとの条件で、陸軍調査中の情報を横流ししてくれている、というのだ。


「では陸軍の情報も共有しておこう。有本が人質を解放する可能性はない。このテロはすでに乗っ取られている。典型的な中抜きテロだ。有本の同志など何人いることやら」


「なんだと!」


「業者によるビジネステロだ。どこが犯行声明をだすかは、オークションによって決められる。死人は多い方がテロは高く売れるから、業者としては人質解放に応じるはずがない」


「本当にビジネステロなのか? ニホンでのテロは金になりにくいはずだ」


「一部の隣国を除くと、確かにニホンに対するヘイトは少なく、宗教的な紛争もない。そういった国でのテロは値があがらない。だが、タチバナさんもいったように、奇特な投資家がいた。場所と日付の指定をするかわりに、業者が飛びつく好条件が提示された」


「その投資家の目的は?」


「ワタクシを殺すことですわ」翠が一歩前に出た。「星川翠と申します。星川グループ会長、星川永太郎の娘になります。ワタクシたちの一族では、複雑な問題がありますの」


「星川財閥……」タチバナは眉を上げて翠を見る。


「ただの憶測だ。確定情報ではない。忘れてくれ」京子は強い口調で割り込んだ。


タチバナはしばらく考える表情をしてから口を開く。「陸軍はどう動く。やはり問答無用でテロを制圧にかかるのだろ。あとどれくらいで、本体が到着する?」


「陸軍はまだ動けていない。そのまま動かない可能性も高い」


「どういうことだ⁉」


「このビルが海に浮かんでいるのがまずかった。海軍が干渉してきた。どちらが出るか、上層部で揉めている」


「海軍がテロの制圧に乗りだしたらどうなるのだ? 陸軍より酷いことになるのか?」


「陸軍はテロ犯の要求には応じないが、救出活動にも全力をつくす。一方の海軍だが、普段はテロ犯の相手などしていない。純粋な戦争屋だ。ビルにミサイルを撃ち込むことすらありえる」


「海軍のレスキュー部隊は有名だが……」


「彼らは大人数を避難させる部隊ではない。災害に巻き込まれた政治家や将官、まれにマスコミ対策として芸能人やアスリートだとかを、ピンポイントで救う部隊だ」


「なるほど、納得した」タチバナは皮肉な笑みを浮かべた。「てことは……軍が内輪揉めしてる間に、俺たちがテロ犯を殲滅するしかないわけだな」


「そのとおりだ。協力してほしい」京子がいうと、タチバナはギョッとした表情を見せた。


先ほどの言葉は、半分ジョークだったのだろう。それでも、少しのあいだ沈黙しただけで、「わかった」とタチバナは頷いた。


「ええー、早く屋上に逃げようよぉ、パパぁ」中学生ぐらいの少女が甘ったるい声をだした。


「屋上からヘリを呼ぶつもりでいたのなら、それは不可能だ。これより上はテロ犯に占拠されている」


「どのみち助かるには、テロ犯を殲滅するしかないってわけか……」タチバナはため息まじりに首をふったが、すでに覚悟を決めた眼をしていた。


「おそらく」京子はいいながら、足元を見た。


絞め落とした白人の女が目を覚まし、ゲホゲホと咽だしたのだ。



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