10.合流?(1)
五分ほどで七十七階についた。そこで階段は爆破され、途切れていた。
「中に入って別の階段を探す必要があるな」呼吸の乱れを誤魔化しながら立花はいった。
「じゃあ、早く行こーぜ」マリアが応える。
「そう簡単な話ではない。おそらく、いや確実に、この先には武装したテロ犯がいる」立花は腰のホルスターから銃を抜いた。
「だったら、アタシの出番だな」マリアも二丁の銃を抜く。
銃刀法違反! とはいうまい。戦力は多いほうがいい。ただ、二人だったらなんとかなるものでもなさそうだが。
「敵の数は不明だが、二人より少ないというのは、ありえない。なるべく戦闘は避けたい」
「何人いようが関係ねーよ。アタシの射撃は神の領域だからな」
「そうか」
「なんだよ、信じてねーな。だったら、オッサンの銃でアタシを撃ってみろ。その銃弾を撃ち落としてやるぜ」
「なにをバカなことを」立花がぼやいた瞬間、非常階段のスチール扉に四つの穴が穿たれた。
そして扉を蹴飛ばし現れたのは、銃を持った黒ずくめの男だ。
「隠れろ!」と怒鳴りながら、柱の裏に滑り込む。
ユキは立花の後ろにピタリとついてきたが、マリアは黒ずくめの男と対峙していた。
「バカ野郎!」と叫びながら銃をかまえるが遅かった。
男が立て続けに三発放つ。マリアも同時に三発撃った。三つの火花が空中で爆ぜる。
男が唖然と口を開けた瞬間、マリアの四発目に眉間を撃ち抜かれた。
「バカな……弾丸を弾丸で撃ち落としたというのか? 偶然だよな……」
「偶然じゃねーよ。地球上でアタシにしかできない神業なのさ」得意げにマリアはいって、扉をくぐり中に入る。
「おい。不用意に入るな」いいながら、立花も中に入る。
七十七階は展望エリアで、店舗などはなくひらけた空間になっている。見える範囲では、テロ犯はいないようだ。
立花はコンソールをだしてニュースを確認した。このビルでのテロ発生が、速報ニュースとなっている。どうやら軍の投入も決定したようだ。
「軍か……。あいつの望む展開になったということか」つぶやきながらコンソールをスーツのポケットに入れて顔をあげると、状況が一転していた。
若い女が、マリアの首に腕を回して絞めあげながら、コメカミにも銃を突きつけていたのだ。
この一瞬で何があったのだと、立花は目を見開く。状況の理解にはげむ余裕もなく、あっさりとマリアは失神し、女の銃口は立花に向いた。
「銃を捨てろ」女が命令する。
立花の手にも銃はある。だが、銃口は下を向いたままで、勝負にならない。
立花は銃を落とした。
「所属と名前を」女がいった。
女は二十歳そこそこでショートボブの可愛い顔立ちをしており、桜が舞うワンピースは季節外れなものの、一見ではイケてる女子大生といった様相だ。
だが、黒目勝ちな大きな瞳に宿る鋭い輝きが、別種の人間であることを悠然と語っていた。
「所属だと……なんのことだ?」
「持っていた銃から警察官と判断した」
しばらくの沈黙のあと、立花は口を開いた。「コウベ署マフィア対策課の立花だ。あんたは?」
「陸軍のミカミだ」階級や所属は不明だが、女は陸軍であることを明かし、続けた。「このテロの主犯は警察官だという情報があるのだが」
「俺はテロの一味ではない。たまたま、巻き込まれて逃げてるだけだ」
「たまたま?」ミカミはマリアとユキに視線をやった。
「ずいぶんと愉快そうな道中に見えるだろうが、成り行きってやつだ」
「あなたの知ってることを全てしゃべってもらおう」ミカミは淡々といった。
「その前に、俺に向けている銃を下ろしてくれるか?」
「断る。まだあなたが、犯人の一味ではないと判断していない」
立花とミカミは睨みあう。不穏な空気が流れるなか、パタパタと緊張感のない足音がした。
姿を現したのはセーラー服の少女だ。お人形のように整った顔立ちをしている。
「あら、ソウスイ。こちらの方々がテロの犯人ですの? 下品そうな金髪に、頭の弱そうな小娘、ひねた顔の中年。ブレーメンの音楽隊の方が、まだ大事にふさわしいですわ」
「ブレーメンの音楽隊ってどんな人たちなの?」ユキは首を傾けた。
「まあっ、『人たち』ですって。本当に頭がお悪いのですね」少女は肩をすくめる。
「少し黙っていてくれ」ミカミは少女を制してから、銃口を下ろした。「先ほどの続きだ。あなたの知ってることを全て、話してもらおう」
立花は大きく息をはいてから、「わかった」と頷いた。




