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人演狐  作者: 幸人
第五章 試される心身

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第四十三話 模核の攻守 その二

「攻守を交代してください」


俺は荒角(あらかど)から渡された模核(もかく)を頭に巻いた。

木板と手ぬぐいに圧迫され、早く紐をほどきたくなった。


いかんいかん、集中せねば。

頭を振って邪念を取り除き、そっと目を閉じる。


(次こそは勝ちたい)


先ほどの荒角の動きを振り返ってみよう。


俺がこいつを模核を突こうとした時――。

一度目は、虫でも避けるかのように軽々と体を右に避けた。

二度目は木刀を盾にして攻撃を防いだ後、片手の力だけで俺を投げ飛ばした。

三度目は足元を狙われたが、易々と後方へ飛び上がり、距離を離した。

四度目は……五度目は……。

思い出せば思い出すほど、こいつの身体能力の高さを思い知らされる。

反射速度が速く、かつ腕力で相手を打ち負かす。

言いたかないが俺には敵わなかった。

すげえムカつくけどな。

ただ――。


(核を破ることは無理でも守るだけなら)


できるかもしれない。

俺だって、何も考えずにキツイ稽古を受けているわけじゃない。

入門してから一カ月以上もの間に得たものは沢山あるし、忍耐力もついた。

あの恐ろしい山を走り、攻撃から身を守る力も培ってきているはずだ。

だから二分間だけなら逃げ切れるかもしれない。

いや――弱気になるな。

俺は模核を守り切ってみせる。


そして目を開き、木刀を強く握りしめた。


「それでは一同、開始!」


小内の声がこだました、その瞬間。

荒角が一気に襲い掛かってきた。

狙うは一つ、俺の頭上だ。

それを知っているからこそ、俺も右側に体を傾けた。


(よしっ、避け――)


「パキッ……」


――え?

一瞬、思考が止まった。

ただちに視線を上げる。


(模核にヒビが入った)


戦いが始まる前に想定していた避け方だった。

腕力では及ばないからこそ、俺の全力でこいつの突きをかわせたはずだった。

なのに……なんで割れ欠けてるんだよ。


(これはまずい)


次の仕掛けを待つ間、心臓がドクンと速まり、木刀を持つ手がガタガタと震える。

荒角がまた一直線に向かってきた。

右腕を後ろに引き、俺の模核めがけて一息に押し出す。


「ッッ!!」


俺は言葉にならない声を出し、なんとか体を後ろに倒した。

尻餅をつき、左手を床につくと、真上にやって来た荒角が木刀を突き下ろす。

右手に持っていた木刀で無謀にもそれを弾き飛ばそうとしたが、逆に刀を降り飛ばされてしまい、白縄より外に落っこちてしまった。


「バキッ!!」


その刹那、頭上にある模核が硬い音を立て割れた。

俺の頭に衝撃と痛みが走る。


「ピ――!」


二分が経過したことを告げる呼子笛が地下稽古場に鳴り響く。

この音が左耳を刺激した。


「グッ……」


俺は力が抜けたように、その場に胡坐で座り込んでいた。


(なすすべなしかよ)


万が一にも勝つことを期待した自分を情けなく思った。

荒角を倒すには越えなければならない壁があるんだ。

そのことを嫌でも感じさせられる時間となってしまった。



◇◇◇



気性の荒い男との攻守戦を終えてから、組み合わせを入れ替えて、他の半眼生(はんがんせい)とも戦った。

今回は高城(たかしろ)と葉山(はやま)、それに空丸(そらまる)。


高城は情熱にあふれ、笑いながら刀を突いた。

荒角よりは速くないまでも力のある突きだったが、正確性はあまりなく、俺の模核は割られなかった。

一方で高城は防御するのも苦手らしく、俺の攻撃を避けては当たり、当たっては避けを繰り返していた。

この調子で彼の模核を割るぞ、と調子ついたけれど、最終的にほんの少しかすらせることができた程度だった。

結局は引き分けに終わった。


葉山は小回りの利く動き方で、攻め守りともに瞬発力を活かせていた。

俺が攻めの時は全く模核にありつけず、彼が攻めの時は、思いも寄らぬところから突かれて核を破られた。

結果は、葉山が勝った。


空丸は、正確な突きだったと思う。

「僕の計算によると……」とか何とか言いながら、角度や速さ、強弱にいたるまで、細かく計算している風だった。

高城のような能天気さはなく、考え抜かれた突き姿。

ただ、彼の計算がはずれる時もあった。

そんな時は「おかしいな」と一言放ち、また考えながら迫ってきた。

攻め守りともに正確性は出ていたが、荒角や高城のような圧というか勢いはなかった。

結果は俺の模核にヒビを入れた彼が勝利した。



◇◇◇



攻守戦は予想以上に頭と体力を使うため、終わった頃には尻をつき、両足を投げ出していた。


(もう何もやる気が起きねえ)


早く休憩したい。

早く飯を食いたいと願ったが、


「次は一万回の素振りをするぞ!」


と気力の漲る声を鬼勢が上げた時、俺は現実の辛さを痛感させられた。

最後まで読んでいただきありがとうございます。


模核の攻守戦、初戦が終わりました。

結局、荒角には勝てずじまいでしたね。

まあ現実は思うようにいきません。

これからも音在には精進努力してもらいましょう。


第四十四話もよろしくお願いします。

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