第三十一話 一万の直線
「続いては、木刀を使って素振りをしていきます」
俺たちは森からまた地下に戻り、稽古場の中央辺りで、幅を取りながら列に並んだ。
鬼勢が半眼生用の木刀を持ってくる間に、小内が前に立つ。
「指南の時にお見せしましたが、人演狐と戦うための武器の一つに刺突刀という刀があります」
なんでも、この刀は悪退の眼ができる前、組織が殺狐連と呼ばれていた時代から使用されてきた由緒正しい刀らしい。
「多くの人演狐を亡き者にしてきたこの刀こそ、最初に扱えるようにならなければなりません」
俺が驚いたのはこの刀以外にも刺突針や刺突弾と呼ばれる武器があることだ。
「これらも後に扱ってもらいます」
と小内は続けた。
「しかし」と言葉を溜めた後、俺たちを見下ろした。
「皆さんにはまず、刀を振るっていただきます。その後で適性や好みに沿った武器を選んでください。ちなみに三等炯眼士に昇格する試験においても木刀を使って技能を計る項目がありますので、必ず学ばなければなりません。人演狐との戦いも基礎ができていなければ始まりませんので、しっかりと素振り稽古に励んでいきましょう」
(なるほどねえ……)
一週間前、刺突刀を握った鬼勢による実演を見たことを思い出した。
俺もあんな風に刀を扱うようになれるのか、はたまた別の武器が合うのか。
うーん、どれも上手く操る自信がないな。
昇格試験までもう三か月もないが、その試験でも木刀を使うとは思わなかった。
どんなことをするんだろう……。
さっきの木の実みたいな硬い何かを割るのかな?
できる気がしねえ……ってダメだな、全部悲観的に考えちまう。
小さく丸まる背をどうにか正して前を向くと、木刀の入った蓋のない箱を軽々と持つ鬼勢がやって来た。
「木刀を持ってきたから、お前ら一列に並んで取りに来い!」
声を大にして鬼勢が叫び、半眼生全員が小走りで彼のところまで取りに行き、それぞれが手に持つと、また元いた場所に整列した。
ふたたび粛とした空気の中、小内が息を吸う。
「それではただ今から『突き』の素振りを一万回していただきます」
事もなげな顔で小男はそのように言った。
(……はあ!?)
俺は内心動揺せずにはいられなかった。
百回とか千回ではなく、一万回も素振りをしなければならないから。
他の半眼生も「え?」という戸惑った顔をしている。
三人の落第生はすでに分かり切ったことなのか、無表情を貫く。
「一万回の素振りは毎日行っていただきますからね。本日は両手で木刀を握り、素早く突く練習をしていきます。手本を見ますので、皆さんも真似してください。それでは鬼勢さんお願いします」
現実を受け止めきれない俺の前で、同じように木刀を持った鬼勢が突きの姿勢を作った。
右足を一歩前に出し、両手で木刀の柄をぎゅっと握ると、それをシュッと勢いよく前に押し出した。
「ダン!!」
木刀を思い切り前に出すと同時に、右足も力強く踏み込んだことで、その足音が稽古場に鳴り響く。
(すげえ威力だな)
鬼勢の迫力に圧倒されながら、溜息をこぼした。
彼と同じような動作を一万回もやんなきゃならないのかよ。
俺、腕もげちまうかもしれねえ。
「このように動いてみてください。突く時は俊敏さと勢いが大事ですので、一瞬で突く、強力に突くことを心がけてください。そして突いた時は動かず、ピタッと止まるように。数は皆さんで数えましょう。数を数える速度はこれくらいです。いち、に、さん。素振りと素振りの間を二秒ほど開けてください」
(そんなん言われても、無理だって……)
素振りをする前から、気力を失いそうになる。
しかしやる以外に選択肢がないから仕方なく木刀を両手に持ち、突きの体勢を作った。
小内が肺に空気を入れる。
「では始めます。せーの!」
「「「いち! に! さん! よん!」」」
地獄の素振り稽古が始まった。
俺はもう心を無にして、できる限りの声を出しながら、次々に突いていった。
最後まで読んでいただきありがとうございます。
続いては素振りの時間です。
実際にやるとなると気が狂いそうになるほどキツそうですが、炯眼士になるための大事なステップなので音在たちには頑張っていただきましょう。
ということで三十二話もよろしくお願いいたします!




