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人演狐  作者: 幸人
第四章 痛苦の序章

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第三十話 真髄の片鱗

手に収まる殻付きの木の実に目を落す。


(割れる気がしない……)


自分の握力を恨めしく思う。

だってヒビすら入ってないからな。


(他のやつはどうなんだろう)


悔しさを滲ませながら、周りにいる半眼生(はんがんせい)に注目してみた。


先ほど瞬く間に実を潰した荒角(あらかど)は、退屈そうに重りのある石を上げ下げしている。

高城(たかしろ)や胸板の厚い男――棟方(むなかた)、上背のある女――力石(りきいし)、東(あずま)にいたっても、すでに割り終えたようだった。

まだ苦戦してる人といえば、妖動山(ようどうざん)で下位を競っていた薫兵藏(くんぺいぞう)だ。

彼は垂れ下がった眉をさらに下げながら、「フン!」と力を込め続けている。

さらに異国顔の十王(じゅうおう)も、「何だいこれ、堅すぎっぞ!」と一人で騒いでいた。


(思ったより手こずってるやつ少ねえな……)


半眼生の半数以上が木の実を割り終えているため、逸る気持ちが先走る。

――あいつらどうやったんだよ。

俺なんかどんだけ踏ん張ってもこの様だぜ?

誰でもいいから一つくらいコツとか教えてくれよ、どうせ時間を持て余してんだから。

はあ……いやこの際だ、意地張ってないで聞きにいこう。


そうと決めた俺は半眼生――ではなく、教官の小内(おさない)のもとまで歩み寄った。


「あの小内さん、どうしても割れないんですけど、何かコツとかってありますか?」


自分よりも背の低い男が上目のまま、冷徹に言う。


「コツですか。それは自分で見つけてください。聞いたら意味がありませんので」


聞く人を間違えてしまったかもしれないと後悔した。

泣く泣く元いた場所に戻り、


(自分で見つけろったって。無理だから聞いたのに……)


と心の中で嘆きながら、投げやりに力を入れ続けた。

しかし両手でやっても、木の実を足で踏んづけてみても割れる気配ない。

なんとも虚しい時間だけが過ぎていく。


そんな時――。

誰かが俺の側に寄って来た。

振り向くと、髪を編んでいる女の半眼生がニコニコ笑いながら立っていた。


「いやいや大変だねえ。ただ君の場合は、そうやって力任せにやっても無理だと思うよう」

「は、はあ? な、何だよ、お前……」


俺は露骨に不信感を示しながら、その女を睨んだ。


「お前って失礼だなあ! 僕(・)は感応(かんのう)だよお、音在くん!」


感応が腰に手を当てながら、ほっぺを膨らませる。

その瞬間、俺はある言葉に違和感を覚えた。


(ぼ、僕……?)


こいつは女なのに「僕」という一人称を使っている。

俺は難しい顔をしながら、


「……はあ? 急に来て何が言いたいんだよ」


と冷たく突き放した。

しかし感応は気にも留めずに、「いやね、困ってそうだから一つ手がかりを授けようと思ってねえ」と口角を上げた。

そして俺が握る木の実を覗き込み、指を差す。


「ほらこの実の殻をよく見ると、つなぎ目があるんだよお、分かる?」

「つなぎ目……?」

「うん! 指のかたい部分をここに思い切り押し当てると、なんとパカッと割れちゃうの! 僕もそれに気付いてあっという間にこんな状態にい!」


三日月のように口を広げながら、感応が二つに割れた木の実を出した。

殻の中に入った白く丸い実が見える。


「あ、でもあんまり言うと教官に怒られちゃうから僕はこの辺でえ! じゃあ頑張ってねえ」

「え……」


助言だけするとそそくさとその場から離れていった感応を茫然と眺める。

頼んでもいないのに、わざわざ来てくれるなんて……。


(もしかしてあいつ……いいやつ?)


思ってもないことが起きて混乱する中で、彼から伝えられたことをすぐに実践しようと、片手を顔の側まで近づける。


(つなぎ目がどうとか言ってたな)


俺は目を凝らして殻のつなぎ目を探した。

しかし、探しても見当たらない。


(そんなのあるのか?)


いやでもあると言っていたし……だけど全く見つからな――あ、見つけた。

薄っすらとだが、線のようなものを捉えることができた。


(指のかたい部分で押し当てるんだよな)


感応から言われた通り、そのつなぎ目の上に親指の一番かたいところを置き、他の指を反対側で支えると、渾身の力を込める。


「グッ……!」


――くそ、かたくて割れねえ!


何度試してみても同じだった。

結局、実を割る前に「終了!!」という教官の声が森の中に響いてしまった。


「今日割ることができなかった人も心配は無用です。積み重ねていけば必ずできるようになりますので」


小内のそんな慰めを聞きながらも、俺は目を背けることのできない現実を思い知らされていた。

できない自分に対する歯がゆさと、できる半眼生たちに対する嫉妬心と焦燥感。

まだ入って一週間だというのにどんどん生まれていく差に気を揉んでばかりいる。

そしてこんなことを考える自分を情けなく思う。


「次は地下に戻って素(・)振(・)り(・)の練習を行います」


小内の感情の薄い声が落胆する俺の体にとどろいた。

最後まで読んでいただきありがとうございます。


そしてお久しぶりです。

大変長らくお待たせしてしまい申し訳ございませんでした。


やっと三十話を投稿することができて本当に嬉しいです。

木の実割りの続きでしたが、相変わらず音在は苦戦中ですね。

まあ最初は上手くできないのが当たり前、徐々にできることを増やしていけばいいのです。

そんなアドバイスを彼にしたいなと思いましたね。


ということで三十一話もよろしくお願いいたします!

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