第二十一話 入門式 その一
「それでは、悪態の眼、入門式を只今から開始する! 順番は問わない、まずは縦四、横三で整列しろ!」
「「「はい!」」」
鬼勢豪明が力の籠った声で式の始まりを告げた後、唐突に整列をするよう命じた。その途端、周りにいる入門生たちが戸惑いながらも返事をしたので、俺もそれに倣った。全員が急ぎ足で移動し、縦に四人、横に三人の列を作った。俺は二列目の前から二番目に立ち、姿勢を正す。東朱吉は俺の後ろにいる。耳を澄ますと確実に音が響いてくるから、意識を目の前にいる二人の大人に向けた。
「今後から全体で集まる時は、このように列を整えてから話を聞くようにしろ。それと何か指示された時は必ず返事をするように。間延びせず、短く、そして腹からの声を出せ。分かったな?」
「「「はい!」」」
「よし、その調子だ」
鬼勢が一歩前に足を出した。一呼吸置いてから、深く息を吸う。
「では改めて、十二名の勇敢な諸君、悪退の眼に入門、誠におめでとう! 君たちはこれから半眼生として、まずは昇格試験までの三か月間、存分に稽古に励んでいただきたい。立派な炯眼士となれるよう、俺たちが全力でサポートするから、安心して背中を預けてくれ。そして人演狐と戦うための体力、技術を磨き、第一線で活躍していけるよう尽力してほしい。これからともに精進していこう! どうぞよろしく!」
鬼勢からの力強い目力と祝辞に圧倒される。ドンと構えたその姿を見ると、自らの背を任せたいと思わされる。しかし腹の底の見えない男を信用していいものかどうか。鬼勢から発せられた人演狐という言葉に、赤茶髪の男―――東朱吉を意識してしまう自分がいる。俺の後ろで同じように話を聞く彼の内側では、どんな葛藤を抱いているんだろうと、そればかりが気になる。彼の音に耳を澄ましてみた。
―――相変わらず繊細な響きだ。だけどさっきの音よりかは幾分、力がある。ただし哀しみの感情も消えたわけではない。まあそりゃそうだよな。半眼生になるってことは、自分の種族を否定することに等しいもんな……。
「俺からは以上だ!」
鬼勢が一歩前に出した足を戻し、目線を下げて小柄な男を覗く。今度はその人が杖とともに前に移動し、口を開いた。
「紳士淑女の皆さん、初めまして。私は小内寛治と申します。本日より悪退の眼という由緒正しい組織に入門されたこと、誠におめでとうございます。私は十二名の素晴らしい仲間が増えたことを大変嬉しく思います。さて、皆さんは現在、どんな気持ちを抱いているでしょうか。期待に胸を膨らませていますか、それとも不安に包まれているでしょうか。炯眼士として立派に活躍する未来の姿を思い浮かべる人もいれば、決して楽ではない稽古に対する危惧を抱いている人もいることでしょう。私は皆さんの全ての思いを受け止める覚悟です。しかし一つだけ、お伝えしたいことがあります。それは、私は皆さんの味方だということです。皆さんが素晴らしい炯眼士として成長していくために、私は努力を惜しみません。私が得た経験、知恵、知識を惜しみなく、教授させていただきます。時には厳しい言葉をかけることもあるでしょうが、それは皆さんを成長させるための必要な助言だと受け取ってください。したがって私の助言を素直に受容し、自分を強く律し、まずは三か月後の昇格試験に合格できるよう、たゆまぬ努力を続けてください。改めて、入門された皆さん、誠におめでとうございます」
小内寛治と呼ばれる小柄な男が笑顔を保ったまま丁寧な祝辞を述べ、最後はお辞儀をしてから一歩後ろに下がった。
(俺たちの味方……ね)
俺は小内寛治からの安心できそうな言葉を聞いても不信感を拭えなかった。穏やかで優しそうな人ではあるが、彼も多分、この中に人演狐が紛れていることを知っている。それなのになぜ―――何食わぬ顔で祝いの言葉なんて述べられるんだよ。東朱吉をどうするつもりなんだ。本当にこのまま野放しにさせるのか、それとも―――。ああ、考えたくもねえ。
「俺たちの祝辞は以上とする。次は入門生、一人ひとり、今後の意気込みを起立して伝えてもらうぞ! 一言で構わねえから、名を名乗った後に大きな声で宣言してくれ! それでは、お前から行こうか!」
「はい!」
鬼勢が、俺から見て左の列の一番前に座る短髪の男を指さし、その人が勢いよく立ち上がった。俺よりも断然背の高い男だ。
「俺の名前は高城勇です! いち早く憧れの先輩方に追いつけるように精進努力し、人々の役に立てるような存在になりたいと思います! どうぞよろしくお願いします!」
高城勇という男が快活に話す様子を聞きながら、自分の番が来るのを待っていた。
内心は冷静でいられず、何を言おうかと頭を悩ませ続ける。まさか一人ずつ意気込みを語る時間があるとは……俺こういうの初めてなのに、いきなり大勢の前で決意表明しなきゃいけないなんて聞いてないぞ。さっきから東朱吉の心配ばかりしていたが、今だけはそれどころではない。
(まずい、順番が迫ってる……)
高城勇以外の人間からは俺自身の内容を考えることに夢中で上の空だった。だから他の入門生の発表は、ほとんど覚えられてねえ。
「次!」
鬼勢が俺を見ながら、短くそう言った。
急いで立ち上がり、大きく息を吸う。
「俺の名前は音在暗之助です! 俺はドジでのろまですけど、頑張って成長していきます! よろしくお願いします!」
「音在、頑張れよ! 次!」
発言中に声が裏返った気がするし、言葉を噛んでしまった。恥ずかしさから目を瞑りながら腰を下ろした。
俺が座ったと同時に、後ろにいる―――東朱吉が立ち上がる。
「僕は東朱吉と申します! 悪である人演狐を殺すための技術を学び、諸先輩方のような立派な炯眼士となれるよう精一杯努力していきます! ご指導のほど、よろしくお願いします!」
はっきりとした声を上げて、東朱吉が堂々たる態度で宣言を述べた。
「パ……キキ、パ……キ」
―――なんだよ、何なんだよ。辛くねえのかよ。
(やっぱり音は嘘つけねえ)
彼からの聞こえてくる哀感の音に、今すぐ耳を塞ぎたくなった。
最後まで読んでいただきありがとうございます!
悪退の眼、入門式の場面が二十一話の内容でした。
新しいキャラクターも続々と登場し、盛り上がってきましたね。
音在暗之助がどのように仲間たちと成長していくのか、今後がとても楽しみです。
二十二話も気長に待っていただけると助かります!
どうぞよろしくお願いいたします!




