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人演狐  作者: 幸人
第四章 痛苦の序章

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第二十一話 入門式 その一

「只今より悪退(あくたい)の眼(め)の入門式を行う! 順番は問わない、まずは横三、縦四で整列しろ!」

「「「はい!」」」


鬼勢(きせ)が力を籠めて式の開始を告げた後、唐突に整列するよう命じ、半眼生(はんがんせい)全員が戸惑いながらも急いで列を作った。

俺は前から二番目の二列目で、右横に東が立っている。

そんな彼から響く繊細な音に意識を向けないよう、二人の大人に注目した。


「今後から全体で集まる際は必ずこのように列を整えろ。そして何事かを命令された際も返事は忘れずにな! 間延びせず、短く、腹からの声を出せ。分かったな?」

「「「はい!」」」

「よし、その調子だ」


鬼勢が一歩前に足を出す。

半眼生を見下ろしながら、大きく息を吸った。


「では改めて、十二名の勇敢な諸君! 悪退の眼に入門、誠におめでとう!」


大男が仰々しく拍手をし、口角を上げた途端、俺の左耳の奥が痛みを上げた。


「諸君らは半眼生として、昇格試験までの三か月間、稽古に励んでもらう! そして人演狐と戦うための体力、技術を磨き、第一線で活躍していけるよう全力を尽くしてくれ!」


鬼勢の言葉が耳に入るたび、小さな違和感が胸の内に積もっていく。

本当に信用に足る男なんだろうか。

そう思った矢先――。

隣から響く東の脆い音が、彼の発言を否定するように耳へと突き刺さる。

胸の奥がざわついた。


「これからともに精進していこう、どうぞよろしく頼む!」


鬼勢が「俺からは以上だ!」と叫ぶと、大股を出して後ろに下がった。

今度は横に並んでいた白髪交じりの小男が杖とともに前に出る。


「紳士淑女の皆さん、初めまして。私は小内寛治(おさないかんじ)と申します」


名前の通り、小さな男が控えめに微笑んだ。


「本日より悪退の眼という由緒正しい組織に入門されたこと、誠におめでとうございます」


彼はそう言うと一礼し、悪退の眼に新しい仲間が増えたことへの喜びを語り、さらに十二名の大切な仲間と手を取り合い、ともに切磋琢磨していってほしい、と伝えた。


「そして私――小内は皆さんの絶対的な味方であり、師でもあります。

どんな時も皆さんのためだけを思って、この場にいることを忘れないでください」


(俺たちの味方……ね)


表向きは柔和そうな印象の小内だが、俺は不信感を拭えない。

だって、こいつも東が人演狐だと気付いた上で何食わぬ顔でいるわけだ。

東を道具としてしか見ていないんじゃないか。


「我々の助言を素直に受容し、自分を強く律し、まずは三か月後の昇格試験に合格できるよう、たゆまぬ努力を続けてください。改めて入門された皆さん、誠におめでとうございます」


この言葉を最後に、小内が祝辞を終えた。

彼は笑顔のまま丁寧にお辞儀をしてから一歩下がった。


「俺たちの祝辞は以上とする。次は入門生、一人ひとりの今後の意気込みを伝えてもらう! 起立した後、名を名乗り、大きな声で一言ずつ宣言してくれ! それではお前から行こうか!」

「はい!」


鬼勢が俺から見て左の列の一番前に座る短髪の入門生を指さすと、その人が勢いよく立ち上がった。

俺よりも断然背の高い男だ。


「俺の名は高城勇(たかしろいさむ)です! いち早く憧れの先輩方に追いつけるよう精進努力し、人々の役に立てるような存在になりたいと思います! どうぞよろしくお願いします!」


高城勇という快活な男の姿を見つめる。


(自信に満ちあふれてる)


高城とは正反対であろう俺は動揺しっぱなしだ。

さっきから東の心配ばかりしていたけど、今はそれどころじゃなくなった。

他人の前で決意表明なんて人生で一度もしたことがない。

何を言うべき?

無難なやつでいいのか?

ほら「これから頑張ります」みたいな感じで、適当に。

でもこれだけじゃ明らかに少ないよな。あれどうしよう!


(まずいまずい、順番が迫ってる……)


高城から始まり、次々と決意を述べる入門生たちを半ば聞き流した。

緊張からか多量の手汗が出始める。


「次!」


鬼勢が俺を見ながら短くそう言った。

慌てて立ち上がり、大きく息を吸う。


(もう何とでもなれ!)


「俺の名前は音在暗之助(おとありくらのすけ)です! ドジですけど、頑張ってせ、成長していきます! よろしくお願いしましゅ!」


その瞬間、かすかに笑いが起きた。

失笑の部類のようだが。


「あはは! 最後に噛んじまったな! 音在頑張れよ! 次!」


さいっあくだ。

声は裏返るし、よりにもよって最後に舌まで絡まっちまった。

俺は恥ずかしさから目を瞑り、即座に座った。

と同時に、後ろにいる――東が立ち上がる。


「僕は東朱吉(あずましゅきち)と申します! 悪である人演狐を殺すための技術を学び、諸先輩方のような立派な炯眼士となれるよう精一杯努力していきます! ご指導のほど、よろしくお願いします!」


はっきりとした声を上げて、東が堂々たる態度で宣言した。

もう穴が合ったら入りたい俺とは違い、立派な表明だった。

だけど……。


「パ……キキ、パ……キ」


――なんなんだよ、こいつ。


(やっぱり音(・)は(・)嘘(・)つ(・)け(・)ね(・)え(・))


彼からの聞こえてくる哀感の音に、自然と耳を塞ぎたくなった。

最後まで読んでいただきありがとうございます!


悪退の眼、入門式の場面が二十一話の内容でした。

新しいキャラクターも続々と登場し、盛り上がってきましたね。

音在暗之助がどのように仲間たちと成長していくのか、今後がとても楽しみです。


二十二話も気長に待っていただけると助かります!


どうぞよろしくお願いいたします!

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