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人演狐  作者: 幸人
第三章 不吉な幕開け

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第二十話 表裏の乖離

目前にいる、赤茶色の髪の男を凝視する。


「なんでお前が()()にいるんだよ」


そんな言葉が俺の口をついて出た。


「だってお前はじん―――」

「君は誰でしたっけ?」


赤茶髪の男が話を遮り、きょとんとした顔のまま、首を傾けた。


(俺のこと覚えてないのか……?)


「君といつどこで会いました? すみませんが、心当たりなくて。それになぜここにいるのかと言われても、今日から悪退の眼に入門するからに決まってるじゃないですか。なぜ僕が問い詰められないといけないんです?」

「……」


あたかも初対面であるかのような態度だ。俺への不信感を隠そうともせず、強気に反論してきた。

その様子に俺は動揺し、口を閉ざす。彼から忘れられたことへの悲しみに加え、当たり前のように入門することを告げたからだ。


(こいつまさか……ここがどんな組織か知らないわけじゃないよな)


言わずもがな、悪退の眼は人演狐を殺すために作られた組織だ。俺たちは当然の如く、人演狐を殺すための能力を磨きに来てる。だから赤茶髪の男の場合は、言ってしまえば俺たちと敵対関係にあるはずなんだ。なのになぜ、この場所にいるんだ? 前に会った時も「僕は人間だ」と断言していたが、音は嘘をつけなかった。

彼は人間じゃない。人間の皮を被った人演狐なんだよ。

だからこそ理解できない。

まさか自ら殺されにでも来たって言うのか?

だとしたらこいつは馬鹿だ、俺より阿呆だよ。


「その上に、君は僕のことを「お前、お前」と呼ぶけれど、僕にはれっきとした名前があるんですよ? いいですか、よく聞いてくださいね。僕の名前は東朱吉(あずましゅきち)です。これからともに過ごしていく仲になるんですから、ちゃんと名前で呼んでください」

「東……朱吉」


俺の焦りをよそにペラペラと話し続ける赤茶髪の男―――東朱吉を俯きがちに見つめる。

彼には聞こえない程度の声で彼の名をぼそりと呟いた。


「パキパパ……キ」


―――あれ、何だろう。

さっきの音とは違い、今聞こえてきた響きの中に……()()()が含まれているような気がした。

なんで感情まで読み取れてしまうのかは、はっきりと言えないが……。だけど、なんとなくそう思ってしまう。


ああ、東朱吉という男の真意が分からなくなってきた。表では堂々とした装いなのに、彼から届いた音には切なさが込められていた。だとしたらこいつは多分……腹の中で()()()()()()()に違いない。

きっと重たい何かを背負ってるんだ。

そうじゃなきゃ、そもそも敵の本拠地に来るはずがないしな……。


「おいお前ら知り合いなのか?」


東朱吉と向かい合う俺の背後から鬼勢豪明の声が飛んできた。彼の隣にいる、杖を突いた白髪交じりの背の低い男と何やら言葉を交わしていたはずが、いつの間に終わったのか、こちらをまじまじと見ている。


「いえ僕に限っては知らない人ですよ。突然この人から問い詰められたので、言葉を返しただけです」

「そうなのか! 向かい合って何をしてるのかと思ったら、音在お前、東に何言ったんだよ。ったく、初日から喧嘩はやめてくれよなあ」


平然とそう言ってのけた東朱吉に再び傷付けられながらも、呆れたように溜息をついた鬼勢豪明に弁解しようと思った。だが他の人間も俺たちを見守っている。だからこそ黙りこくるしか選択肢がなかったんだ。先ほどは危うく言いかけてしまったが、よく考えたら―――いや考えなくても、もし俺が今ここで「東朱吉は人演狐だ」と言ってしまったら、大騒ぎどころの話じゃないよな。他の入門生は東朱吉の正体に気付いてるはずがないのだから。

でも大人はどうなんだろう。


(鬼勢はこのことを知っていたのか?)


この点も大きな疑問なんだ。鬼勢豪明は人演狐を悪だと主張し、存在してはならないとまで明言していた。それなのになぜ人演狐である東朱吉を悪退の眼に入門させてしまったのか。それが解せないんだ。もしかして東朱吉が人間でないことを知らなかった……? いやそれはないな。俺たちの師となる人間が人演狐かどうかを見破れないというのはあり得ない話だ。

じゃあ知ってて入らせたってことか……?


(そんな残酷なことをさせんなよ……)


考えられねえ。人演狐を狩る側の人間が、どんな理由があって、人演狐を味方につけるんだ。鬼勢豪明が何を考えてるのか、全く理解できねえよ……。

俺は人知れずに嘆息を漏らした。


「てことで時間になったから、早速、入門式始めるぞ!」


鬼勢豪明の張りのある声が周囲に反響した。

気持ちの整理が全くもってつかない中、いよいよ本格的な稽古が始まってしまう。

半眼生としての日々が、胸騒ぎのするような音とともに幕開けする。

最後まで読んでいただきありがとうございます!


二十話目に突入しましたが、まだまだ先の見えない展開が続きそうですね。そして赤茶髪の男―――東朱吉はなぜ悪退の眼に入ったのでしょうか。音在暗之助が必死にその答えを出そうとしていましたが、結局分からないままでした。

ということで今後は東朱吉の思いにも注目していただけると嬉しいです!


二十一話目以降も読者の皆様に楽しんで読んでいただけるように頑張りたいと思いますので、気長に待っていただけると幸いです!

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