鼠の病
「嘘だ……本当は……」
嵐が止み、屋上を月光が照らす、
話し切る前に風を切るを音。
「……ここにいたか、蛇」
旗が靡く剣、葉っぱを散らす月桂冠。
「ウェルギリウス!!」
ダンテがの声で気がついた、
ウェルギリウスが来たと。
「ヒースクリフ!大丈夫!あれっなんでウェルギリウスさんがいるの?さっきまで中庭にいたのに……」
遅れてネリーが来た。
「皆さんお揃いですがさようなら、結婚式で会いましょう」
「天叢雲剣」
蛇は手を振ってどこからか現れた剣を振り、
空間に亀裂ができる、
そこにヒンドリーと共に消えて行く。
「……まて、まてよヒンドリー……まだ終わってないだろ!!」
ヒースクリフが涙の混じった声を出す、
胸の揺らぎ、崩壊、罪に呑まれる。
「逃げられたな、私の失態だ、私はに先に追う、……ヒースクリフはダンテ、トミノ、ネリーさん任せますよ」
ウェルギリウスは素早く後を追う。
「全部……俺が悪かった、俺がいなければキャサリンは幸せになれた、キャサリンは……俺を忘れて……幸せに」
自己否定、絶望、後悔。
空虚に邸宅が浮かぶ。
――エリカが咲き誇り、嵐の無い丘。
「ヒースクリフ、貴方はどんな花が好き?」
「俺は……花はよくわからないな」
「あの丘を見て、私はそこに咲く花が好きなの」
ある時キャサリンは、
あの丘に咲く花の束を持ってた。
誰のためかはわからないが、
大切に持っていた。
誰に向けた花束か聞くのが恐ろしい。
モヤモヤを抱えていたある日聞いた。
「キャサリン様、またエドガー・リントン様に会いに行くんですか」
「ええ、お見合いですから、行かないのは失礼ですよ」
知った、花束のいく先を。
その先を……先を知りたく無い。
俺は嵐の中逃げ出した。
ヒンドリーあいつにする復讐を頼りに、
掃除屋になった。
いつか戻ってくる時……
キャサリンを見ても嫉妬しないために。
ヒースクリフの姿が変わる。
鼠、群れから離れて独りになった鼠の怪物。
孤独で抜け落ち毛、
自分自身を傷つけるほど鋭く伸びた牙と爪、
嵐を浴びて濡れた皮、傷から漏れ出る血。
「シャドウに呑まれたね、ヒースクリフ」
ダンテが吐いた息のように、
小さくつぶやいた。
「ヒースクリフ……ごめんね、私何もわからないや」
ネリーさん、謝り方を知らない、
そんなふうに見えた。
僕は……
「ヒースクリフさん……それは……」
事実を伝えても変わらない気がする。
理解してあげないと救えない、
だから言うべきことは……
「ヒースクリフさん……逃げないでください、受け入れないと……わからないんですよ!!感情は!!知ったフリをやめて聞いてください……」
ヒースクリフは聞く耳を持たない。
空虚に声は響か無いだから……今は、
憤怒でいい嫉妬でいいから、感情が必要だ。
「ネリーさん、ヒースクリフに何か感情を刺激する物はありますか?」
「えっと……手帳!あの手帳の日記なら……」
「手帳って塗り潰されたやつだよね……」
「塗り潰された?私がここに来る時、キャサリン様の部屋ドアの前に吊るされてたけど、見た感じ全部読めたよ?」
さっきまではヒンドリーの部屋にあった。
何で今は塗り潰れて無くて、
ドアに吊るされてる……
「手帳の日記に、蛇が言ってたって……そもそも何でヒンドリーが持ってた?」
「偽物ってこと?だったらあるかもね、ヒンドリーならやると思うわ」
「いや違うかも、天叢雲剣、場所を変えることができる、塗り潰されたのはわから無いけど……多分どっちも本物」
ヒースクリフがこちらにやってくる。
「やば、向かいながら話そう……」
ダンテはそう言って走り出す。
「キャサリン様の部屋はこっち!」
ネリーが位置を教えながら先頭を走る。
ヒースクリフは血を撒き散らしながら、
目に映る物全てを喰らっているが、
お腹の傷から漏れ出る。
空虚に本来物はたまら無い、
だからあれが……
蛇が異常なだけなんだろう。
「塗り潰されてたらどうするのダンテさん……」
「どうもこうも無いよ、でも前にウェルに教えてもらったんだ遺物のこと、それに確かにたのがあった気がする……文字を一時的に消すのが……」
「多分消滅インクのことですよそれ、昔は遺物だったけど今は技術として販売されていますよ……違ったらすみません……」
ヒースクリフは全てを傷つける。
誰も幸せに出来ない事を恨んで。
もう何も見え無い、全部空虚だから。
「あそこを曲がればキャサリン様の部屋の前です……少し時間を稼ぎます」
ネリーさんはそう言って武器を出した。
「ヒースクリフごめんね、少し痛いかも……」
ヒースクリフの足に少し長いナイフを刺す。
ヒースクリフは足に刺さったナイフを、
外そうと踠く、地面に刺さったナイフを、
ネリーは踏む。
「ヒースクリフもう少しだけ大人しくして……」
角を曲がると手帳が、
吊るされている扉が見えた。
だけど手帳には栞が挟まれていた。
「やっぱり同じ」
「中身は……ちゃんと読める!」
よかった、ちゃんと読めたみたいだ。
「見せてください」
栞の挟まったページを読む。
「ヒースクリフは今日もわかってくれない、
ヒース花が好きといっても、
気づかなかった。
私のことが好きじゃないのかな。
明日ヒースの花束をあげようきっと喜んでくれるはず、明日が楽しみ」
「今日、ヒースクリフがどこかへ行ってしまった。花束は渡せなかった、
私が嫌になってしまったのかヒンドリー兄様に耐えられなくなったのかわなからない、
私はヒースクリフを、
理解してあげられなかった。
ちゃんと伝えればよかった、
ヒンドリー兄様にやめてと言えばよかった、ヒースクリフを不幸にした、
全部私のせいだ」
このページはさっきのヒースクリフに、
見えた光景と同じヒースクリフが、
逃げてしまった時のキャサリンが、
考えていたこと、きっと誤解は解ける。
でもなんで栞が挟まってたんだ?
蛇……何がしたいのかわからない。
なんでもいい、見せないと。
「ネリーさん、ありました!!」
「よかった、じゃあ見せて押さえてるから」
ネリーは服は傷ついてたけど、
血は一滴も垂れていなかったし、
まだかなり余裕がありそう。
ヒースクリフにあのページを見せる。
「キャサリン……キャサリン!!」
ヒースクリフは嵐のような涙を流す、
「俺が……俺は……キャサリンを……」
――ヒースクリフ!!
キャサリン……俺は……
「ヒースクリフ……私はあの花が好き」
「なんでだ?」
「貴方みたいだから」
「……?」
「……馬鹿」
キャサリン……俺はやっとわかったよ。
ヒースクリフの姿が徐々に戻る。
抜け殻のようになった、
鼠は塵のように消えていった。
そこにはもう、
独りじゃないヒースクリフがいる。
――ヒースの咲く丘
「もう逃げれないぞ、蛇」
「怖いですね、でももう少しで彼はヒースクリフは完成する、完成するまでに私を止めれますか、貴方に」
「止めはしない、殺すからな」
「完成したら、すぐに逃げますから、殺せませんよ、ウェルギリウス」




