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第73話【ヴィゴVSヴェローチェ】

『──悲鳴!?』


 控え室から聞こえた悲鳴に驚いて、アリーナのスタッフは急いで扉を開けた。


『どうかしました!?』


 スタッフは部屋の様子に戸惑っていた。

 確かにこの部屋から悲鳴がしたのに、開けると皆で仲良くアニメを見ているだけ。


 世間では変異したヘビが街を襲い、HERO(ヒーロー)たちはまだ可視化されていないホールを探し回っているというのに、平和なものだ。


 そう思ってスタッフがドアを閉めようとしたものの、白目をむいて座っているヴェローチェに気付いた。


『ヴェローチェ選手!ここにいたんですか!?探してたんですよ!』


「タス…ケテ……」


 ヴェローチェの絞り出すような声はスタッフには伝わらない。


『え?何です?最終イベントの主役なんですよ!?早く行きましょう!』


 スタッフはソファに座るヴェローチェの腕を引っ張って連れて行こうとするが、やっと周囲の異常性に気付いてゾッとする。


(なんだこの集団は……。ぶつぶつと何か言っているわりに目の焦点が定まっていないぞ?)


『ヴェローチェ選手、これは一体……?』


「【バチファン】だ……」


『──なっ!?はっ、早くここを出ましょう!』


 スタッフはバチファンと聞いて事態の深刻さをようやく理解した。

 早く逃げなければとヴェローチェを無理やり連れ出そうとする。


「ま、待ってくれ……」


 ヴェローチェはセドの手を引き、一緒に連れて行こうとするが、既に取り込まれる寸前の状態になっている。


「第一部の構成が静とするなら第二部の構成はまるで──」


「起きろ!」


 ヴェローチェがセドの頬をパチンと叩くと、セドは正気を取り戻したように周囲を見て、事態を把握した。


「た、助かった!」


 スタッフが時計を見て二人を急かす。


『時間がありません!行きましょう!』


 やっと解放された二人は足取りがおぼつかない。ヴェローチェはスタッフに手を引かれ、セドはそのヴェローチェに手を引かれてようやく控え室を脱出。


 ──バタン!


 と一際大きな音でドアが閉まり、全員がやっと正気に戻る。


「あれ?セドたちは?」


 ヒーローがキョロキョロと辺りを見回すと、マサムネたちも一緒になって見回していた。


 《──もう少々お待ちくだ……あ、ヴェローチェ選手が到着した模様です!皆さん拍手でお迎え下さい!》


 ヒーローたちがこのアナウンスを聞いて不思議そうにしていると、トムが気を回してイベントの説明をした。


「ああ、これは大会の締めですよ。最後に現チャンピオンの兄さん、つまりヴィゴ対今大会の学生チャンピオンがバトルするんです」


「へぇ!そりゃ楽しそうだ!ヴェローチェはめちゃくちゃ強いからヴィゴも相当苦戦するんじゃねぇか!?」


 パンチは楽しみなあまり、早く行こうと皆を両手でドアの方へ促す。

 マサムネがパンチへ肩を貸し、ドアを開いた。


「ありがとうな、マサムネ」


「パンチさ、また大きくなったんじゃない?」


 いかにも重そうにしているマサムネをヒーローとマリンが支える。


「お、ヒーローもマリンちゃんもありがとうな!」


「重いよパンチ!」


 パンチが礼を言うとマリンはすぐに皮肉で返した。

 ヒーローは何も言わず、少し照れたように下を向いて笑っている。


 トムは先生としてこの光景が誇らしい。

 そしてトムも隣から手を添え、皆でパンチを支えながら観客席へと向かった。


 アナウンスが流れているのを聞きながら通路を進んで席に行くと、既にセドが座っている。

 セドはまだ皆が正気かを疑っているように見える。

 しかし皆がパンチを支えているのを見た途端、すぐに肩を貸してパンチを座らせてあげた。


 これを見たトムは親心にも似た感情を抱く。

 この五人を生徒に持てた事、そしてここまで指導して来れた事は素直に誇らしい。

 成長してゆく姿を見れる。

 先生としてこんなに嬉しい事はない。


「もう始まってるね」


 マサムネがそう言うと、パンチを気にかけていた皆は闘技場へ目を向けた。

 既に二人のバトルが始まっているではないか。

 ヴェローチェは最初から全力で飛ばしている。


「クイック!」


 ヴェローチェがこの技を唱えると、無詠唱かつ凄まじい速さで技を繰り出し、辺りはまさに火の海だった。


「去年の借りはここで返す!」


 そう、ヴェローチェは去年も優勝し、ヴィゴと戦っていたのだ。

 そして負けた。

 雪辱を果たそうと、去年よりも進化した技で追い詰めようとする。


「この耐久値ってのが厄介だよなぁ。このバトルスーツも地味で慣れないしよ」


 ヴィゴは試合中だというのに、まるでそこらを歩いているかのように喋っている。


 学生バトルと同じく耐久値で勝敗を決める為、いつもは派手なスーツを着ているヴィゴも支給された黒いスーツを着用している。

 これが気に入らなかったのだろう。


「もうちょっとカッコよくできなかったかねぇ?」


 ヴィゴは次々とスーツへの不満を漏らしている。

 驚くべきはヴィゴの動きだ。こんな軽口を叩きながらもヴェローチェの猛攻を難なく避けている。

 当然ヴェローチェにとっては面白くない。


「なぜだ……!」


 絶対的な自信があった【クイック】という技。

 それがなぜこうも簡単に避けられるのかわからなかった。


「なぜかって?観客にもわかるように説明してやるよ。理由は二つある」


「何だ!?」


「まずお前さんが絶対的な自信を持ってるディレイ計算によるクイックネス。HERO(ヒーロー)は驚くんだろうが、そんなものは対人戦をメインしてるアリーナの選手は当たり前にやってる。ここはな!バトルアリーナだぜ!!」


 このヴィゴの言葉に観客が大いに沸いた。


『いいぞヴィゴ!』『これを見に来たんだ!』


 ヴィゴは避けながらヴェローチェの動きを注視すると、タイミングを計って技を放った。


  「エアカッター!」


 ヴィゴの両手に浮かぶ風の刃が出現。

 クイックによる素早い技の繋ぎ目のみを狙い、腕を交差させると正確に風の刃が飛んでいく。


「うぁああっ!!」


 いとも簡単にヴェローチェへ直撃。

 なんとかロストは免れたものの、吹き飛ばされて後ろへ倒れてしまう。


「な?手加減はしてやったぜ」


 そう言いながら倒れたヴェローチェへ近づくヴィゴ。

 その隙を狙ったかのようなヴェローチェの無詠唱によるファイアボールが襲う。


「おっと、無駄だって」


 容易く避けられたが、一瞬の時間稼ぎはできた。

 ヴェローチェは倒れた身体を後転させ、その勢いを利用して腕で後ろに飛んで距離を取った。


「さぁ終わりだ」


 ヴィゴはバトルを終わらせようと手を上に掲げる。


「ま、待て!もう一つの理由は──」


 ヴェローチェが全て言い終わる前に、ヴィゴは掲げた手を後ろに振り下ろし、再び振り上げて一周させた。


「もう一つの理由はな、このヴィゴ様がアリーナのチャンピオンだからだ!」


「くっ!!全力だぁ!ファイア!!」


 ヴェローチェは策を労している場合ではないと全力を込めて技を放つ。

 ヴィゴも腕を一周させ終わると技を詠唱した。


「ストーム!」


 全力のファイアは威力が大きく、アリーナ中央を覆うほどに見えたのだが、すぐにヴィゴのストームにかき消されてしまう。


 まさに嵐、まさに災害。轟音と共にヴェローチェは飲み込まれていった。


「──あぁあああああっ!!」


 防護壁へと吹き飛ばされて、ヴェローチェ無念のロスト。


 《決まりました!我らがチャンピオン!ヴィゴの勝利です!!しかしヴェローチェ選手も大健闘!皆さん拍手をお願いします!》


 間近で観戦していたセドは憤る。


「ど、どこが大健闘だ……くそっ!こんなに……こんなに差があるのか!!」


 セドは悔しそうに目の前のテーブルを『ドン』と拳で叩いた。

 自分が勝てなかった相手がこんなにもあっさりと敗れてしまった現実に歯噛みしている。


「俺もあそこまで差があるとは思わなかったなぁ…...」


 バトル前にヴィゴが苦戦すると思っていたパンチも唖然としていた。

 どこかヴィゴを軽く見ていた。

 ヴィゴの普段の発言や態度を見て、観客も軽く思っていた。が、実際はさすがチャンピオン。

 確かな実力と知恵でヴィゴはチャンピオンに君臨し続けている。


 ヒーローがヴィゴを見る目は、幼い頃にアリーナを見ながらヴィゴのフィギュアで遊んでいた時の憧れの目に戻っていた。

 マサムネがマリンに目配せしてヒーローの方を向かせる。

 マリンは目を輝かせているヒーローを見て幸せそうに微笑み、見守っていた。


 アリーナ全体が大会の終わりを惜しんだが、音楽が流れ、アナウンスで退場を促された観客たちはしぶしぶ席を立った。

 今大会の総評や、ハイライトを話し合いながら楽しそうに帰る観客たち。


 ヒーローはすぐさまヴェローチェの控え室に向かった。気になる事がある。

 ずっと引っ掛かっていたヴェローチェの言葉。

 控え室を訪ねると意外にも落ち込んでいない、明るい様子のヴェローチェがいた。

 何やらガンに今日のバトルの反省点をまとめているようだ。


「ちょっといいかな?ヴェローチェ」


「うぁああああ!!」


「ミツバチ王子の事じゃないんだ……!落ち着いて!」


「ゼェ、ゼェ、なんだい……?脅かさないでくれ」


「まずは、お疲れ様。残念だったね」


「ありがとう。バトルは面白いな!今回も改善点がたくさんある」


 さすがバトルマニアと呼ばれるだけはある。

 ヴェローチェはバトルの事になると顔が明るくなり、嬉しそうにしている。


「ダダ様の事でちょっと聞きたい事が……」


「ダダ様?」


「何で雷帝を見て怯えてたって言ってたね?どんな様子だった?」


「ああ、その事か。とても言い辛いんだが……君の、父上の名前を言っていたよ」






「──父さんの!?」







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