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第64話【父の影】

「何でこんなになって気づかないの!?」


 マリンがパンチの足を見て顔を歪めている。


「興奮してたからじゃねぇかな……。今になってちょっと痛いかも……」


(ちょっと?)


 この言葉には長い付き合いのマサムネもさすがに呆れていた。


「痛いかもなんてもんじゃないよ。うぇっ、ダメだ見てられない!」


「ワタシも…」


「でもまぁ治療してもらえるし!な!」


 楽観的なパンチに対して、マサムネが今の状況を冷静に伝えた。


「メカリさんは今バスカルだよ。治癒の能力者がいたとしてもメカリさんほどでは……」


「そんなぁ……!」


「とにかく医務室に行こう、ヒーロー」


「ああ、手伝う。皆んなは着替えててくれ」


 マサムネとヒーローはパンチに肩を貸して医務室へと向かった。


「いてて!!」


 ドアが閉まるまで見届けた後、セドは首を振りながらマリンに言った。


「……ちょっと単細胞すぎないか、あいつ」


「昔はもっと酷かったのよ?」


「…………」




 夜になりホテル12(トゥエルブ)の夕食ビュッフェ会場で、五人は明日の決勝へ向けて話し合っていた。


 ヒーローは足が不自由なパンチの為に料理を取ってあげている。


「ほら」


 パンチは野菜が山盛りの皿に不満そうだ。

 前なら大袈裟に突っ込みを入れて笑い合うような関係性だった。

 しかし最近のヒーローに慣れたせいか、これが本気なのかいたずらなのか判断がつかない。


 パンチは結局弱めの言葉を選んだ。


「ありがとう、ヒーロー。もっとガッツリ系がいいんだけどよ……」


「野菜食べないとな!」


 ヒーローは満面の笑みで答えた。


 (あぁ、いたずらだ)


 そう思ったパンチは一気に目が据わってヒーローを見つめている。

 その横ではマリンが医務室での様子をマサムネに聞いていた。


「治療はどうだったの?」


「ここにも治癒の能力者がいたんだ」


「本当!?なら──」


「でも明日はダメだ」


「……そう」


「三日間はかかるらしい」


「あれが三日で治るってのも凄いんだけどね……」


 セドが期待を込めてヒーローへ切り出す。


「リザーバーの出番だぞ」


 ヒーローは明らかに曇った表情になった。

 料理をそのままに、無言で立ち去ろうとするヒーローへセドが声を荒げて止めようとしている。


「どこに行く!?」


「散歩だよ、ちゃんと戻るって」


 ヒーローは振り返りもせずに行ってしまった。


「ちょっとセド!!」


 マリンが語気を強めてそう言うと、セドは眉間に力を入れて答えた。


「お前らは甘やかしすぎなんだ」


「そんな問題じゃないよ!ワタシたち三人はずっと……」


 そこへローザとリッチが通りかかり、パンチが無神経にも声をかけてしまう。


「お、リッチ!!」


「あっ、パンチさん!」


「同じ年なんだからパンチでいいよ!席探してるのか?一緒にどうだ!?」


「まぁた、勝手に……」


 マリンはそう言いながらも、いつもの事だと諦めている。


「えっ?いいんですか?」


「もちろんよ。リッチがいいなら座って!縁があるよね。敬語もやめてよ!」


 勝手に決めたパンチに憤ってはいたが、リッチたちが座る事には快諾したマリン。

 気にしていたのはリッチたちの事情を無視してパンチが席へ誘った事だ。


 リッチたちが良いのならば同席する事に抵抗はない。


「う、うん!」


 リッチは敬語をやめて拙い返事をした。

 座ると同時に空席の前の皿が気になる。

 さっきヒーローが会場を出た姿を見たリッチは、この綺麗に盛り付けられた皿はヒーローの物だろうと結論付けた。


 リッチはまるでヒーローの好みを把握するように、無言で皿を見つめていた。

 ローザもセドたちに用があるみたいで、マサムネの隣に行って話しかけた。


「丁度君たちに聞きたい事があったの。座らせてもらうわ」


 マサムネが顔を赤くして緊張し、イスを引く。


 ローザはホテル前でマサムネを見かけた時からずっと気になっていた。

 大会の握手の時には長い間マサムネの手を離さなかったくらいだ。


「ど、どうぞ!」


「ありがとう(やっぱり、なんて可愛いコなの……!)」


 これも勿論、偶然通りかかったのではない。


 料理を取るマサムネを見かけて、偶然を装いここへ来たのだ。

 全てはマサムネと話す為の執念。

 ローザは態度とは裏腹に、情熱的だった。


 セドがカレーを食べながらローザの質問について訪ねる。


「それで、聞きたい事とは?」


「まず、なぜカレーが三皿もあるのか……。後は──」


「カレーはオレが強くなる為だ」


「質問の答えになってない……。まぁそれはどうでもいいわ。さっきの試合、ニノを一番先に倒したのは偶然?」


「オレはマサムネの指示を聞いただけだ」


「──っ!」


 ローザがマサムネの方を見ると、マサムネは察したように説明を始めた。


「ローザさんとリッチは手をかざしながら技を放ってたから、近距離だと思って」


「最初の高温のスチームもあなたが?(喋っても可愛い……)」


「はい。セドとマリンは拘束状態だったので、敵を視認しなくても引き離せる技を、と考えました」


「あなたの思った通りになったわけね(何の香水……?まさかナチュラルでこの匂い!?)」


「そいつは頭がいい 。オレたちはただの駒で、試合の全てをマサムネが動かしてた」


 セドがマサムネを褒める。

 今大会を通じてマサムネへの態度が一変した。

 実力を認めての事だろう。

 セカンドを馬鹿にしていたセドはもういない。


「全て……?最後、セド君に攻撃が行くように二人を遠ざけたのも……(黒幕感がいいじゃない……!)」


「はい、ボクです。万が一セドに催眠や重力が効いても、マリンなら二人を捕らえられる。結果セドのパワーが凄くて効かなかったので嬉しい誤算でした」


「俺もチャームに引っかからなきゃなぁ」


 パンチはまだ試合の序盤を悔いている。


「そう言えばセド君は──」


「セドでいい」


「俺もパンチでいいぞ!」


「──セドは私のチャームは効かなかったの?スリープも」


「全て効いていたが、耐えていただけだ」


「驚いたわね、パンチには効いたのに」


「こいつはバカだからな」


「そんな理由!?」


「おい、セド!俺だって考える頭くらいはあるぞ!!」


 リッチがマリンへ不思議そうな顔をして聞いた。


「マリンも効かなかったよね?」


 セドが答える。


「こいつはヒーローに惚れてるからな」


「ちょっ、セド!!」


 マリンは照れてそれ以上何も言えなかった。


「マサムネは試合前からローザに夢中だったぞ」


 パンチにばらされて、マサムネは慌ててローザを見た。


「パンチ!すいませんパンチが変な事を」


「ふふっ、チャームもかけてないのにおかしなコ(イエッス!!イエス!イエス!!)」


 ローザには悪癖があった。

 普段は素直だが、気になる異性には異常なまでの天の邪鬼で、思っている事と逆を言ってしまう。


 そして心の声はちょっと口が悪い。


「最初、ホテルで見かけた時に見とれてしまって……」


「そう、悪いけど年下には興味ないの(ファック!ある!!ど真ん中!!君にしか興味ない!!なんて事言うの私は!?)」


 ローザは自分でもこの悪癖が嫌いだった。

 しかし性格は中々変えられない。


「そ、そうですよね……」


「君がもうちょっと大人になったらね(今!ジャストナウ!クソッ!伝われこの想い!!)」


「はい!いい男になってきます!!」


「ガハッ!(ガハッ!!)」


 マサムネの実直さにローザは心と言葉がリンクし、勝手に鼻血を出して大ダメージを受けていた。


「大丈夫ですか!?」


「だ、大丈夫よ。ちょっとビーンズが喉に引っかかっただけ(まっ、眩しすぎる……!!)」


「なんかいい雰囲気だな」


 パンチはマリンに話しかけたが返答はない。

 マリンはずっと思い詰めた表情でうつむいている。

 パンチはすぐに理由を察した。


「マリンちゃん。大丈夫だよ、あいつなら」


 マリンはずっとヒーローの事を心配していた。

 それはパンチも同じだ。

 助けたい、少しでも気持ちを楽にしてやりたい。

 しかしヒーロー自身が解決しなければ……。

 仲のいい三人はこの三年、ずっとこのジレンマに悩まされてきたのだ。


「うん……」




 ヒーローは一人ホテルを出て、高層ビルが建ち並ぶ夜の街を歩いていた。


(父さん……)


 観光用の大きな電動バスがゆっくりとヒーローを横切っている。


「──!?」






「父さん……!」







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