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第42話【同じ匂い】

 しばらくしても熱気冷めやらぬアリーナ。

 ファーストのHERO(ヒーロー)が、意識のないコーエンを逮捕するために十数人は押し寄せている。


 通路に避難したギースとヒーロー。

 チケットがなくとも一目見ようと集まった観客が警備すら押しのけ、通路は混雑していた。

 ギースはヒーローとの久しぶりの再会を喜んでいる。


「ヒーロー、久しぶりだな」


 ギースがそう言うと、ヒーローは軽く頷く。

 はっきりとは覚えていないが、ギースは優しく、話に聞いてた通りの好青年に見えた。


「ギースはパパと仲が良いんでしょ!?」


「ああ、家族だと思ってるよ」


「いつもガービィはギースの話をしてたよ!でも……俺はあんまり覚えてないんだ……」


 黙っている事もできたが、ヒーローは正直に覚えていないと言ってしまう。

 ライゼとサリーの『正直に、誠実に』という教育があるからだろう。


「そうか……。僕がバスカルに行った時、ヒーローは小さかったからな。入学式にも行ったんだよ?ヒーローとは会えなかったが」


「うん!それもちゃんと聞いてるよ!あの時はギースが危なかったってパパが言ってた」


「フッハハ!死にかけたよ。あの時はヒーローがリュックを背負う姿を見たくて頑張れたよ。ありがとう」


「ギースもリュックありがとう!ケチなギースが買ってくれるなんて、ってパパたちがいつも言ってる!」


「フッハ!一生ネタにして言われそうだ」


「ハハハッ。しつこいくらい言ってるよ」


 ギースは驚く。笑っているヒーローがライゼと重なる。


「パパと笑い方がそっくりじゃないか。ここまで似るものなんだな……」


「そうかなー」


「パパたちの所に行こうか!」


「うん!」




 アリーナ中央では、イリオスを失った日から続く物語に、やっと区切りをつけたライゼ、サリー、ガービィ、エイリアスの四人が抱き合っていた。

 観客は四人に歓声を送り、いつまでも拍手が鳴りやまない。


 観客席にあるライブカメラや、超小型の球体ドローンが四人の周囲を飛び回り、世界中にその映像を伝えていた。


 ガービィは涙し、エイリアスは支える。ライゼとサリーは見つめ合っていた。


 ライゼが一番先にぽつりと口を開いた。


「終わったな」


 他の三人はライゼに目をやり、静かに頷いた。


 皆、イリオスの名前は出さなかった。

 四人の頭にはイリオスがいつものように、胡散臭く微笑んでいた。


「ガイザ…ガービィ?」


 エイリアスがガイザビィズと言いかけて、訂正する。そしてあの時言えなかった会いに来てという言葉を伝えようとする。


「これからは、もっとアリーナにも──」


「いや、アリーナはもういい」


「そう……」


 最後まで言えなかったのもあるが、はっきりと断られエイリアスが残念そうにしていると、ガービィは照れながら言った。


「今度、飯でもどうだ……?」


 エイリアスは誰が見ても幸せそうな表情で、子どものように返事をする。


「うん……!!」


「じゃあライゼさんの家に集合な!いやぁライゼさんの料理が更に美味くなっててよ、俺なんかこんな太っ──」


 バチン!!


 二人の食事だと思ったエイリアスは拍子抜けし、ガービィの肩を叩いた。


「そういうとこだぞガービィ」

「そういうとこですよ」


 なんて鈍い男なんだ。ライゼとサリーが呆れている。


「えぇ……?あ?」

 

 ガービィは全くわかっていない表情でたじろいでいると、後方からヒーローが大きな声で呼びかけた。


「パパ!!」


 ヒーローが駆け寄り、ライゼに抱きつく。

 ライゼはヒーローの頭を撫で、やっと緊張が解けたように見える。


「ヒーロー!!」


 サリーもヒーローに向かって大きく手を広げる。


「ママ!」


 今度はサリーに抱きつき、安心したようにお腹へ顔を埋めた。


「ママもかっこよかったでしょう?」


「最高にかっこよかった!」


 《最高にかっこよかった!》


 集音マイクがその声を拾うと、観客はまた沸いた。

 観客の声援にヒーローはビックリして真っ赤になって照れている。


 今までのアリーナ中央での会話も全て聞かれていたと思うと、学園でイジられるんだろうな、などと考えていた。


 ドローンには昔のようなプロペラなど無く、小さい上に無音で気づかない。

 音声だけでなく甘えている映像も流れているのだが、ヒーローはその事に頭が回らない。


「ギース、ありがとうな」


 ライゼがギースに礼を言う。間違いなく今日の影の功労賞はギースだろう。


「いきなりガンに連絡があったんでビックリしましたよ!メカリを連れて来いなんて」


「嫌な予感がしたんでな、メカリちゃんもいつもありがとう」


「いえ!里帰りだと思って楽しめてますよ!」


 メカリが楽しめていると聞いたギースは話が違うとばかりに言った。


「えっ?アリーナに来ると知ったらあんなに怒ってたじゃないか。怒ってたのはウソだったのか?」


 バチン!!


 とメカリがギースの肩を叩いた。


「そういうとこだぞギース」

「そういうとこよ」


 またライゼとサリーが声を揃えた。ガービィとまるで一緒だ。


「えっ?え?」


 ガービィと同じく、全くわかっていない様子のギースは皆を見回している。


「師弟でこんなに似るものなんだな」


 ライゼがそうつぶやくと皆が笑った。

 何気ない一時を取り戻せたこの瞬間をライゼは楽しんだ。


 ガービィがエイリアスにギースを紹介する。


「こいつは俺の愛弟子だ!家族だ!」


「よろしくお願いします!」


 疑似家族、それはわかっている。

 が、身寄りのない者が多いリーガ出身であれば当たり前の光景だ。

 この結束が、血よりも濃く皆の繋がりを強固なものにしている。


 エイリアスも快くギースを迎え入れた。


「よろしくね。あなた……メカリちゃんだっけ?」


「はい!メカリと言います!」


「あなたも大変ねぇ?」


「──!!」


 想い人が鈍すぎると想っている側が割りを食うものだ。メカリとエイリアスは同じ匂いを感じていた。


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