嫉妬と出発
(むぅ~~~~~っ)
明奈は、心の中で、嫉妬していた。
明奈は、勝也のことを、自分の兄とではなく、一人の男性として、昔から見ていた。
それゆえに、ポロポロと涙を流しているシャロロに、優しくしている勝也を見ていて、行き場のない思いを抱いていた。
明奈は、勝也と恋仲になることはできないと、わかっている。
明奈は、そこまでバカではない。
勝也が、自分のことを、一人の女性とではなく、一人の可愛い妹としか見ていないことも知っている。
しかし、それでも勝也のことを、一人の兄としては見れない。
(お兄ちゃんは、誰の事が好きなんだろう?シャロロさんかな?それとも香苗さんかな?それとも他の人かな?)
明奈は、ふいに、そんなことを考えた。
シャロロは、見ての通り、勝也に好意を持っている。
それは、四年前に香苗が抱いていた感情と同じものだ。
明奈は、思い浮かんだ二人に、かなり嫉妬していた。
シャロロが、落ち着いて、勝也から、一歩距離をとった。
「さて、肉もいい感じに焼き上がってるし、食べるか」
そう言って、勝也は、お皿を三人に渡し、それぞれのお皿に、ほどよく焼けたお肉を置いていった。
明奈は、先ほどのことを、頭から消し、楽しくお肉を食べて、とてもよい時間を過ごした。
「………すぅ………すぅ………すぅ……」
明奈が、腕の中で、可愛らしいいびきをかきながら眠っている。
明奈を、ベッドまで運び、布団もかけてやった。
勝也は、そのまま、部屋を出た。
パタン、と小さく音をたてて、扉が閉まる。
「よう」
目の前に、拓斗が右手を軽くあげて、たっていた。
一応顔面を殴ろうとした。
しかし、軽く放ったとはいえ、見事な反射神経で、その拳を避けた。
「ちょ、あぶねぇな!もう少しで当たっているところだったじゃねぇか!」
「うるさい。明奈が起きる」
「はい………」
拓斗は、怒られて小さくなった。
「親父、何のようだ?」
胸の前で腕をくみ、偉そうな口調で、拓斗に聞いた。
「ここじゃなく、リビングに行こう。あそこなら大声を出しても、おそらく起こさないで喋られるだろう」
拓斗は、勝也に背を向けて、とっとと歩き出した。
勝也も、それに続いた。
「ほらよ」
勝也が、拓斗の前の机に、ホットミルクがなみなみと注がれた、陶器のコップを置いた。
向かい合うように、勝也も座り、ホットミルクを一口飲んだ。
拓斗もそれに続いて、ホットミルクを一口飲む。
ことり、と二人の置いた音がきれいにぴったりと重なる。
少しの間、沈黙が二人の間にながれる。
「親父、さっきも聞いたけど、何のようだ?」
「お前、これからどうするんだ?」
「………旅をしようと思う。まず、ボルターナ王国の王都で、サムルナ、香苗、一に会おうと思う。それと、歩いていろいろな国に行きたいしな」
「そうか」
二人の間に、また、沈黙がながれる。
「シャロロちゃんも、連れていくのか?」
拓斗の、そんな問に、勝也は、
「ついてきてくれるんなら、連れていこうかと思ってる」
と言った。
「ナミットちゃんもか?」
「ああ」
拓斗が、背もたれに寄りかかり、ホットミルクを飲み干した。
「必要なものはあるか?」
勝也は、首を横に振る。
「そうか。じゃあお前はもう寝ろ。シャロロちゃんと、ナミットちゃんには、俺から伝えておく。出発はいつだ?」
「五時半」
「そうか。お休み」
「ああ、お休み」
勝也は、ホットミルクを飲み干し、自分のコップと、拓斗のコップを流しに持っていき、ちゃちゃっと洗うと、リビングを出ていった。




