第35話 光の優先順位
「でもさ……さっきの中にストーカーいそうじゃないか?」
高木が、低く言った。
「小野田も小林も、家知ってるだろ?」
「あのさ……もう一人、変なやつ思い出した」
「たまにだけど、見てるだけのやつ」
「何かするわけじゃなくて……」
「和田君」
詩織が、小さく息を呑む。
「高校一緒だったらさ……家知ってそうだよな」
「……うん」
少し、空気が重くなる。
「ねえ」
詩織が不安そうに言った。
「三人が仲良しだって知ってる人よね」
「それと……私達を仲間割れさせるっていうか、遠ざけようとして、一人にさせようとしてるとかないかしら」
「そのうちに狙うとか?」
「……ないわよね」
「ありえる」
高木は、真顔だった。
「逆にさ……四人でいた方がまだマシかもしれない」
高木は、そのまま直哉へ連絡を入れた。
話をまとめる。
ストーカー疑惑の件。
そして――狙いが、仲間割れをさせることなんじゃないかということ。
それと。
詩織は、本当にやっていない気がすることも。
その結果。
俺達は、四人でホテルに集まって整理をしようという話になった。
***
直哉と美咲は、少し不安だった。
詩織が全面的にやっているとは思えない。
でも、完全に否定もできない。
ただ――信じたい気持ちもあった。
それに、高木が言うならという思いもある。
そして、花屋の件も話すべきだろう。
二人は、色々と考えていた。
「なあ、美咲」
直哉が、小さく口を開く。
「お前はさ……どうしたい?」
「え? 私?」
「俺は、これから先も美咲とずっと一緒にいられたらって思う」
「どんな時もな」
美咲は、少しだけ目を伏せた。
「でもさ……俺と結婚して良かった?」
「俺、いい旦那じゃないだろ?」
「旅行も連れて行ってやれなかったし、デートだってさ」
「……確かに、寂しかったかも」
美咲が、小さく笑う。
「詩織ばっかりだったし」
「それは妹だし」
「本当かなあ」
「いや、俺……白状する」
直哉は、小さく息を吐いた。
「変な時はあったかもしれない」
「ずっと美咲のことは好きなのに、何かわけがわからない時があったんだ」
「本当に、何でなのかわからない」
「お前のことが一番だって、ずっと思ってるのに」
「ごめん」
「なんか変だった」
美咲は、黙って聞いていた。
「でもさ、紹介してもらった時から、かわいいなって思ったんだ」
「すげぇ好きになっちゃって」
「一緒にいるようになって、たまらなくなって」
「それは本当で」
直哉は、少し視線を落とす。
「……俺、あいつが義理の妹だろ?」
「なんか、あいつが妹になった時に、ちゃんとお兄ちゃんしないとって思って」
「頑張らないとなって思ったんだ」
「甘えてきて、かわいいなって思ってた」
「まあ……保護者な。それはわかってた」
「でもさ……義理なんだよ」
「中学の時に妹になって、中学生の俺にはちょっと刺激的で、免疫もなかったからドキドキはした」
「でも、それは妹だし」
「少し意識してたかもしれない」
「俺、頼られると駄目で……甘えられるとな」
直哉は、苦笑する。
「でも、そういう関係はまずいだろって思ってた時に、美咲に出会った」
「俺は、すごく好きになった」
「ごめん。最初は、そういう気持ちを消すために利用したところもあったかもしれない」
「でも、めちゃくちゃ好きになったのは本当だから」
「出会ってすぐ、俺は落ちた」
「彼氏になれて、すごく嬉しかった」
「でも……何もできなかっただろ?」
「三人だったし、普通に手も繋げなくて」
「俺だけ好きなのかなって思ってた」
「自信なくてさ」
「美咲はモテるから、だんだん俺でいいのかって不安も積もっていった」
「それで、甘える妹と美人の彼女」
「彼女を毎回優先してるつもりだった」
「でも、甘えられると、ちゃんとしないとって思ってしまって」
「俺は……変になっちゃったかもしれない」
直哉が、ゆっくりと言う。
「俺が美咲をちゃんと見なかったからだ」
「ごめん」
「だから、隙ができたのかもしれない」
「それと……ずっと不安にさせてたよな」
「正直、花屋の男とかの方がイケメンだろ?」
「だからさ……俺も不安なんだ」
「ん?」
美咲が、不思議そうに首を傾げた。
「直哉って格好いいと思うけど」
「……は?」
「ずっと格好いいのに」
直哉が固まる。
美咲は、少し寂しそうに笑った。
「私のことなんか、どうでもいいって思ってたんだよ」
「だから我慢してたのに」
「二番目だからって思ってたし」
「なのに、別れられないまま今まで来てるんだよね」
「本当は何度も……別れようと思ってた」
「今だって迷惑かけてるし、これ以上はって思ってて」
「それなら離婚した方が良くない?って」
「馬鹿なこと言うなよ」
直哉が、すぐに否定した。
「好きだから、迷惑かけたくないの」
「好きだから、甘えられなかった」
「詩織みたいに甘えられたらいいなって思ったけど、私には無理だった」
「だって二番目でしょって思ってたし」
「妹キャラじゃないもの」
「俺は、ずっと美咲と手を繋ぎたかったし、ずっと好きなんだぞ」
「ちょっと困った男だっただけだ」
「なんか見えてなかったっていうか」
直哉は、少し考える。
「でもさ……なんとなくだぞ?」
「俺、少しだけ変にさせられてたような気がするんだよ」
「お前に手を出させないようにされてたっていうか」
「わざと三人にさせて、何もできないように」
「二人になれるようになってから、いきなりストーカーだぞ?」
「おかしくないか?」
直哉が、低く言う。
「まるで、お前といちゃつくなって言われてるみたいなんだよ」




