第31話 光の伝染
武志は、少し考えていた。
(あいつ……)
一瞬、嫌な考えが浮かぶ。
(まさか、美咲さんに何かしてないよな?)
すぐに頭を振った。
(……いや、そんなわけないか)
湊は、普通にいいやつだ。
店長にも気を遣っているし、人当たりもいい。
でも――
(……あいつくらいしか、いないんだよな)
喉が、ひりつく。
(あの時だって、多分シフト入ってたし)
偶然。
そう思いたかった。
(そんなこと、あるわけない)
でも。
(……あいつ、危ういんだよな)
美咲の話をしている時の顔を、思い出す。
夜風が、少し冷たかった。
***
(……でもさ)
武志は、夜道を歩きながら考える。
(あいつ、昔からモテたよな?)
学生の頃から、女が寄ってきていた。
顔もいいし、距離感も近い。
だから――
(その関係、とか?)
考えた瞬間、自分でも嫌な気分になる。
(……わかんねぇ)
小さく息を吐いた。
今のところ、自分の周囲には何もない。
いや。
(スーパーには、あるけど)
花。
人影。
妙な視線。
でも、それって――
(美咲さんを、見に来てるってことだよな?)
胸の奥が、ざわつく。
(……美咲さん、大丈夫か?)
武志は、直哉へ連絡を入れた。
本当は、美咲へ直接送りたかった。
でも――
警戒される気がした。
だから、旦那である直哉へ送る。
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武志
『ストーカーの件、大丈夫ですか?』
『あの……花屋も、やっぱりあったみたいで』
『俺の友達も、被害に遭ったっぽいです』
『だから、本当に気をつけてください』
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直哉
『ありがとうございます』
『今のところ、何とかやってます』
---
武志
『それなら良かったです』
『少し安心しました』
***
「……なあ、美咲」
直哉が、スマホを見せる。
「これ、見てくれ」
美咲が、画面を見る。
「花屋もあって……友達も、って言ってるよな?」
一拍。
「これ……相沢君だよな?」
直哉の声が、少し低くなる。
「……どういうことだ?」
「……でも、相沢君っておかしくないか?」
直哉が、低く言う。
「……おかしい気はする」
美咲も、小さく頷いた。
「でも……実際、ストーカー被害には遭ってるんだよね?」
「ああ……」
直哉が、眉を寄せる。
「そこが、よくわからない」
一拍。
「本当に被害者なのか」
「それとも――」
そこまで言って、止まる。
言葉にしたくなかった。
二人は、少し混乱していた。
***
そのとき、詩織から連絡が来た。
「お兄ちゃん」
少し早口だった。
「とりあえず……やばいと思うから」
「今、高木さんと一緒にいる」
「ああ」
直哉は、短く返す。
「とにかく、つけられないように気をつけろ」
「わかった」
一拍。
「念のため、部屋の中も確認したけど……何もなかった」
「多分、大丈夫だと思う」
でも。
その声に、安心はなかった。
「……だいぶ、おかしいよね」
「……美咲は、大丈夫なの?」
詩織が、不安そうに聞く。
「俺と一緒にいる」
直哉は、短く返した。
一拍。
「うちは……盗聴器、仕掛けられてたからな」
空気が、重くなる。
「……やべぇよ」
直哉は、小さく息を吐いた。
「とにかく、高木と一緒に行動しろ」
「うん」
詩織が、小さく頷く。
「警察にも言ったし……少しは良くなるかもしれない」
「巡回も、してくれるみたいだからな」
「……うん」
返事はあった。
でも、安心した声ではなかった。
***
詩織の荷物を運び込みながら、高木は少し考えていた。
部屋の中を見回す。
そのとき、ふと違和感があった。
(……あれ?)
美咲の写真。
昔、一緒に遊びに行った時のもの。
グループで撮った写真。
何気なく置かれている。
でも――
(……多くないか?)
思ったより、美咲との思い出が多い気がした。
写真。
小物。
何気ない話題。
やけに、美咲の痕跡が多い。
(……これ、大丈夫なのか?)
一瞬、そんな考えが浮かぶ。
でも。
(……いや、気のせいだろ)
高木は、小さく頭を振った。
「……この服、美咲も着てなかったっけ?」
高木が、ふと聞く。
「お揃いだよ」
詩織が、あっさり答えた。
「ああ……そうなんだ」
「うん。一緒に服買うこと多いし」
「双子コーデとか、たまにするの」
「ああ……そういうことか」
高木は、小さく頷いた。
「仲いいもんな」
少しだけ、安心する。
確かに、ずっと一緒にいる時間が長い。
それなら、服が似ることくらい普通か。




