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義妹は、私だけを見ていた。―妹に愛されすぎた女の話―  作者: 桐原悠真
第2章 光のズレ

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第27話 光の内側で

 警察で防犯カメラを調べてもらったが――

 顔は、映っていなかった。


 しかも、ちょうど死角にいる。


「……わかってやってるな、これ」


 無意識に、そう呟いていた。


 その帰り。


 家の前に立った瞬間、違和感に気づく。


「……ポスト」


 半開きだった。


 鍵をかけていたはずの郵便ポストが、わずかに口を開けている。


 中を覗くまでもなく、嫌な予感がした。


「……鍵、かかってたよな?」


「ああ……」


 答えながら、喉が乾く。


 ありえない。

 でも、目の前にある。


 俺と美咲は、その場で固まった。


 血の気が、すっと引いていく。


「……なんだよ、これ」


 誰に向けたかわからない言葉が、こぼれる。


 動けない。

 ただ、立ち尽くすしかなかった。


 そのとき――


「詩織に連絡して」


 美咲の声が、震えた。


「詩織も……何か変なこと、なってないよね?」


「……ああ」


 スマホを取り出す手が、少しだけ鈍い。


 呼び出し音が、やけに長く感じた。


「……もしもし?」


 詩織の声。


 それだけで、肺に空気が戻る。


「こっちは大丈夫」


 短い言葉。

 でも、それで十分だった。


「……大丈夫らしい」


 美咲に伝える。


「よかった……」


 肩の力が、わずかに抜ける。


 ――けど。


「……なあ、これ」


 自分でもわかるくらい、声が低くなっていた。


「本当にやばいんじゃないか?」


 返事はなかった。

 でも、美咲の表情が答えだった。


 俺たちは、ゆっくりと家に入る。


 ――何か、あるかもしれない。


 そう思いながら。


 けれど。


 中は、拍子抜けするほど普通だった。


 何も変わっていない。

 何も、起きていない。


 ……だからこそ、余計に怖い。


「これ……」


 口を開く。


「実家も、やばそうじゃないか?」


 一拍。


「……私も、そう思った」


 静かに、同じ結論に辿り着く。


 ――範囲が、広がっている。


***


「あのさ……実家に行くの、やめるか」


 直哉が、少しだけ声を落として言った。


「被害が広がるだけかもしれない」


「それに……一戸建てだし、簡単に引っ越しもできない」


「……うん」


 美咲が、小さく頷く。


「お父さんとお母さんには、ちゃんと説明するよ」


「……ああ」


 一拍。


「それと――」


 言いかけて、言葉を選ぶ。


「盗聴とか……されてないよな?」


「……」


 美咲が、言葉を失う。


 俺も、同じだった。


 考えたくなかった。

 でも――可能性は、ゼロじゃない。


(盗聴って……どうやるんだ?)


 スマホを取り出す。


 検索する。


 出てくる。

 いくらでも。


 小型の機器。

 コンセント型。

 時計型。

 充電器に偽装されたもの。


 ――どこにでも、置ける。


「……」


 喉が、ひりつく。


 知りたくなかったことを、知ってしまった気がした。


「なんだよ……これ」


 思わず、呟く。


 ただ“見られている”だけじゃない。


 もっと近くにいるかもしれない。


 そんな考えが、頭から離れなくなった。


***


 俺は、部屋を見回した。


(……ないよな)


 そう思いながらも、落ち着かない。


「美咲。見覚えのないもの、あるか探してくれ」


「……わかった」


 二人で、部屋を見て回る。


 リビング。

 キッチン。

 寝室。

 風呂。

 トイレ。


 いつもと同じはずの場所。


 なのに――


 どこか、空気が違う気がする。


 しばらくして。


「ねえ……これ、あったっけ?」


 美咲の声。


 振り向く。


 そこにあったのは、小さな雑貨だった。


 見たことが、ない。


「……俺も、見つけたかも」


 別の場所を指さす。


「こんなの、あったか?」


 言いながら、違和感が広がる。


 ここは――寝室だよな?

 じゃあ、あっちは――リビングだよな?


 頭の中で、位置がずれていく。


 知っているはずの部屋なのに、

 どこか“違う場所”みたいに感じる。


 ――いつからだ?

 誰が、触った?

 それとも――


 最初から、あったのか?


 わからない。


 でも、一つだけ確かなことがある。


 俺たちの知らないものが、ここにある。


***


 俺は、美咲が見つけた小物を手に取った。


 ――かすかな音。


 耳を澄ます。


「……今、音したよな?」


「うん……」


 美咲の声も、わずかに震えていた。


 小さな、本当に小さなノイズ。


 でも――確かに聞こえた。


「……電源、入ってる」


 言葉にした瞬間、背中が冷たくなる。


 間違いない。

 これは――


「……」


 何も言わず、もう一つも掴む。


 そのまま外へ出る。


 足が、少しだけ速くなる。


 ゴミ置き場まで行って、迷わず叩きつけた。


 鈍い音。


 もう一度。


 形が崩れるまで、壊す。


「……なんだよ、あれ」


 息が荒い。


 ただの不安じゃなかった。


 “いた”んだ。


 ここに。


 俺たちの生活の中に。


(……どこに行けばいい?)


 安全な場所が、思いつかない。


 家は、もう信用できない。


 スマホを取り出す。


 高木にメッセージを送る。


『やばい。盗聴器あった。今すぐ確認しろ』


 送信。


 画面を見つめたまま、息を吐く。


 ――終わってない。

 むしろ、ここからだ。


***


 高木からは、返信が来なかった。


 既読も、つかない。


「……」


 画面を見つめたまま、指が止まる。


 さっきまでは、すぐ返ってきていたのに。


 タイミングが、悪すぎる。


「……返事、来ないの?」


 美咲が、不安そうに覗き込む。


「……ああ」


 短く答える。


 嫌な想像が、頭をよぎる。


 ――今、確認してるだけかもしれない。

 ――気づいてないだけかもしれない。

 ――電波が悪いだけかもしれない。


 どれも、ありえる。


 でも。


 どれも、安心には繋がらない。


「……多分」


 口に出すのを、一瞬ためらう。


 それでも――


「向こうも、やばいんだと思う」


 静かに言った。


 その言葉で、空気が一段冷える。


 俺たちだけじゃない。


 あっちにも――いるかもしれない。

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