第24話 光の残る花
「ねえ、本当に詩織と高木さん、大丈夫なのかな?」
「どうだろうな」
「でも、高木さんは詩織のこと大好きだよね?」
「そう思う」
「ずっと好きみたいだぞ?」
「……なら、大丈夫ね」
しばらくして、詩織から電話がかかってきた。
「美咲、ストーカーって大丈夫なの?」
「一人だと危ないから、行くよ?」
「いや、詩織も危ないから駄目だって。それに、土日は直哉がいるから大丈夫」
「本当に?」
「うん」
一拍。
「私、早く高木さんと結婚したい」
「……そうしたら、平日も一緒にいられるでしょ?」
「え? そこ?」
「高木さんのこと、ちゃんと好きなの?」
「いい人だよね」
「結婚したいって思うよ」
「……そうなんだ」
「本当に私のこと好きなんだとは思うの。……愛されてる感じは、あるわね」
――その頃。
高木は、ひとりで考えていた。
「結婚したいね」って言われた。
でも――本当に、俺のこと好きなんだろうか。
美咲さんと仲がいいのは知っている。
それも、前からだ。今に始まったことじゃない。
仲が良すぎるくらいで、正直、少し嫉妬する。
でも――それでも、好きなんだよな。
詩織は、もしかしたら俺よりも美咲さんのことが好きなんじゃないか。
そんなことを、考えてしまう。
……でも。
それで、俺と結婚したいっていうのは、どうつながる?
一緒にいるときは、ちゃんと俺のこと好きって感じはする。
――やっぱり、それもかわいいと思ってしまう。
直哉からも聞いた。
詩織が「結婚したい」って言っていたって。
それなら――
「それなら……信じていいんだよな」
――もし違っても、それでもいいと思えた。
***
その頃、直哉は――
詩織のことよりも、美咲のことで頭がいっぱいだった。
ストーカーって、どうしたらいいんだよ。
とりあえず、早く帰るようにはする。
でも――いない間はどうする?
一人で、この家に置いておくのか?
危ないだろ。
……いや。
美咲の実家に送るのはどうだ?
毎日、理由を話して預かってもらって、帰りは一緒に帰る。
それなら――
「……ありだな」
小さく、呟いた。
「なあ、美咲。やっぱり危ないからさ……」
少しだけ間を置く。
「美咲のお母さんって、家にいるよな?」
「うん」
「じゃあさ――しばらくの間、毎日実家に送るのはどうだ?」
「行きは一緒に行って、帰りも一緒に帰る」
「お母さんと美咲が大丈夫ならだけど」
「……そのほうが、安心できると思う」
「……迷惑じゃないかな」
「俺が送迎する。できるだけ定時で帰るから」
***
「じゃあ、うちでご飯を食べてから帰ればいいよ」
「……え?」
「いや、そのまま泊まっていってもいいし」
さらっと言われた。
「落ち着くまで、こっちにいたらどうだ?」
「そのほうが、直哉君も美咲も楽だろ」
「気兼ねしなくていいよ」
「……いいんですか?」
「休みの日だけ帰るとかでもいいし」
「平日はこっちにいれば安心だろ?」
「まあ、休みもいたっていいけどな」
少しだけ、笑う。
「……じゃあ、お言葉に甘えてもいいですか」
「ああ」
短く、頷く。
俺たちは――
しばらくの間、美咲の実家でお世話になることになった。
***
「美咲、明日からさ……実家でお世話になることになったから」
「本当は俺の実家っていうのもあるんだろうけど――」
少しだけ、言葉を選ぶ。
「美咲の実家のほうが、気も遣わないかなって思って」
「俺がそう言ったんだけど……大丈夫だった?」
「うん。私は、そのほうが気楽だわ」
「……だよな」
少しだけ、力が抜ける。
「……直哉と一緒なら、どこでもいいけど」
「え?」
思わず顔を見る。
俺の頬が、少しだけ熱くなる。
……俺、愛されてる。
「俺も、美咲のお父さんとお母さんと仲いいしさ」
「特に問題はないと思う」
***
俺は、少しだけ思った。
あのスーパーも、花屋も――
ストーカーも、これで少しは離れるはずだ。
それに……詩織も、高木がいる。
これで、少しは距離ができる。
――大丈夫だ。
そう、思いたかった。
俺たちの結婚生活を――
ちゃんと、守りたい。
俺は、これからのことを考えないといけない。
いつでも、美咲のそばにいられるように。
そのためには――
今のままじゃ、駄目だ。
だから、最近は勉強している。
美咲と、一緒にいるために。
資格を、取る。
――そうしないと、守れない気がした。
翌朝。
「ねえ……これ」
美咲が、少しだけ震えた声で言う。
玄関の前に――
見覚えのある花が置かれていた。
昨日、あの花屋で見たものと、同じ花。
――どうして、ここにある?
同じ頃――
高木のスマホが鳴った。
詩織からだった。
『ねえ、さっきから変な人がいるんだけど』
その直後。
『今、こっち見てる』




