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義妹は、私だけを見ていた。―妹に愛されすぎた女の話―  作者: 桐原悠真
第2章 光のズレ

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第22話 光の余熱

「とりあえず……警察に来られたなら、少しは安心ですね」


「はい……」


美咲は、小さく頷いた。


「念のため、早めにご主人に連絡した方がいいです」


「……そうですよね」


一瞬迷ってから、スマホを取り出す。


「今、電話してみます」


発信音。


すぐに繋がった。


「美咲、どうした?」


「あの……今、警察で」


「え?」


「つきまとわれてて……スーパーの店員さんと一緒に来てるの」


「……大丈夫か?」


「うん……あの、代わるね」


スマホを差し出す。


「新木さんっていうの」


「……こんにちは。新木と申します」


少しだけ姿勢を正して、新木は話し始める。


「今、奥様が付きまとわれていた可能性があって……僕が警察までご一緒しました」


「スーパーの前で異変を感じまして。缶が転がってきて……周囲に人がいなかったので」


一瞬だけ、言葉を切る。


「……タイミングが、妙だったんです」


「忘れ物を届けた流れで、不自然だと思い、そのまま警察へ」


落ち着いた口調で、淡々と説明する。


「警察には一通り話しています。見回りは強化されるそうですが……正直、どこまで効果があるかは……」


一瞬、視線を落とす。


「……僕の勘ですが、ストーカーの可能性は高いと思います」


「いつからかは、わかりませんが」


「ですので……」


少しだけ間を置いてから、続ける。


「今日はこのあと、警察を出る予定です」


「迎えに来ていただけますか」


短くやり取りをして、通話を切る。


「ご主人、今から来てくれるそうです」


スマホを返す。


「……ありがとうございます」


「助かりました」


「いえ」


軽く笑う。


「それまで、一緒に待ちましょうか」


「……はい」


ベンチに並んで座る。


「怖いですよね」


「……はい」


少しだけ沈黙が落ちる。


けれど――


安心できたはずなのに、

どこか落ち着かない。


何もわかっていないままだった。


そして――


「よかったら……番号、交換しませんか?」


「え?」


「もちろん、変なことには使いません」


慌てて付け足す。


「何かあったときに、連絡できた方がいいと思って」


「ストーカーの情報共有、みたいな感じで」


苦笑する。


「ご主人がいないときでも……俺、基本スーパーなんで役に立たないかもですけど」


「でも、休みの日とかなら動けますし」


「できることは、やります」


一拍。


「あと……別に雑談でもいいです」


少し照れたように笑う。


「友達になったと思って、連絡ください」


「俺も……連絡します」


そこで、ふっと気づいたように言葉を止める。


「……あ、ご主人に怒られるか」


小さく笑った。


そのとき――


「美咲」


直哉が、警察に入ってきた。


その声に、美咲はほっとしたように振り向く。


「直哉……」


その隣で、新木が一歩前に出た。


「初めまして。新木武志と申します」


軽く頭を下げる。


「今回の件なんですが――」


新木は、落ち着いた口調で説明を始めた。


スーパーでの違和感。

缶が転がってきたこと。

忘れ物を届けた流れ。

そして、そのまま警察に来たこと。


警察官も補足するように話し、

場の空気は一応の整理を見せる。


けれど――


完全に、終わったわけではない。


「……なるほど」


直哉は、短く頷いた。


一拍。


「ありがとうございます」


「いえ」


新木は軽く笑う。


「大したことはしてないので」


少しだけ間を置いてから、続けた。


「あの……」


視線を直哉に向ける。


「もしかしたら、スーパーの近くにいる可能性もあると思うんです」


「なので……奥様とは連絡先を交換させていただきました」


一瞬だけ、空気が止まる。


「……そうですか」


直哉は表情を崩さないまま、頷いた。


わずかに、目だけが鋭くなる。


新木は、すぐに言葉を重ねる。


「変な意味じゃないです」


「もしよければ……ご主人とも交換しておいた方がいいかなと思って」


「情報共有というか……何かあったときのために」


静かに、まっすぐ言う。


「……わかりました」


直哉はスマホを取り出した。


短いやり取りのあと、連絡先が交換される。


「ありがとうございます」


「いえ」


新木は、少しだけ安心したように息を吐いた。


「協力できることは、協力します」


「僕もスーパーで働いてるので、すぐに何かできるわけじゃないですけど」


「いないよりは……マシかなと」


一拍。


「多分……近辺にいますよね」


「……はい」


直哉は、静かに答えた。


「ありがとうございます」


少しだけ、頭を下げる。


「家内がお世話になりました」


「本当に、助かりました」


「いえ」


新木は、いつもの調子で笑った。


「本当に、大したことしてないので」


そう言って――


一歩、後ろに下がる。


「じゃあ、僕はスーパーに戻ります」


背を向けて、歩き出す。


その背中を――


直哉は、少しだけ目で追っていた。


なぜか、違和感だけが残った。


「美咲……」


少しだけ間を置いて、直哉が言う。


「新木さん、いい人だと思うけどさ」


視線を逸らす。


「美咲が優しくすると……男、勘違いするから」


一拍。


「駄目だからな」


「……え?」


「俺がそうだったから」


苦笑する。


「勝手に、好きになって」


「勝手に、勘違いして」


少しだけ、声が低くなる。


「だから……ああいうタイプは、余計に危ない」


「若いし、イケメンだし」


「……距離も、近いし」


美咲を見る。


「気をつけて」


一言だけ、静かに落とした。


「直哉と……ちょっと似てるかも」


「え?」


「俺と?」


思わず聞き返す。


美咲は、少しだけ考えてから頷いた。


「うん。なんとなく」


「……それってさ」


直哉は、苦笑する。


「好きになっちゃうやつじゃん」


一拍。


「やっぱり、駄目だな」


小さく呟く。


「え?」


「いや……」


視線を逸らす。


「俺、ちょっと焦ってるだけかも」


「……でも」


もう一度だけ、美咲を見る。


「ちゃんと気をつけて」

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