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義妹は、私だけを見ていた。―妹に愛されすぎた女の話―  作者: 桐原悠真
第2章 光のズレ

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第20話 光の違和感

「あのさ……俺、旅行に行きたいなって思ってて」


少しだけ言いづらそうに、直哉が言う。


「その前に、一回ちゃんとデートするのもいいなって」


「旅行は……近場でいいからさ」

「温泉とかどうだ?」


一瞬、間が空く。


「当たり前だけど……二人で泊まって」

「部屋に露天風呂とかあったら、いいなって……」


「……駄目かな」


少しだけ、頬が熱くなるのを感じた。


「ちょっといいところに泊まってさ」

「今まで、あんまり行ってないし」


「……良くない?」


「そうね」


美咲は、ふっと笑った。


「楽しみだな」


「色々、行きたいわ」


その言葉に、少しだけ空気がやわらぐ。


美咲は、ほんのり頬を染めていた。


「普通に付き合ってる人たちって……こうなのかしら」

「恋愛結婚の人とか」


「え?」


「そうじゃないのか?」


「わからないけど……」


少しだけ考えてから、ゆっくりと続ける。


「でも――」


「俺たちも、したくない?」


「……したい」


一拍。


「できなかった分……これから、楽しもう」


「うん」


「俺……結婚してるってわかってるし、美咲が嫁だってわかってるのに」


直哉は、少しだけ視線を逸らした。


「緊張する」


「え?」


「なんかさ……好きな人に、初めてデートを申し込む気分なんだよ」


「美咲とのデートは、初めてじゃないけど」


「でも、旅行は初めてよ」


「……そっか」


一拍。


「じゃあ、やっぱり初めてか」


「うん」


顔を見合わせて、ふっと笑う。


「私たち……何してたんだろうね」


「さあな」


「でも、恋愛結婚なんだよね?」


「そうだけど」


少しだけ、間。


「結婚の時、本当に私のこと好きだったの?」


「好きに決まってるだろ」


即答したはずなのに――


どこか、引っかかる。


あの時は……

今とは、何かが違った。


「好きだったけど」


ゆっくりと言葉を選ぶ。


「今の方が……もっと好きかも」


「……そうやって、ごまかそうとしてるでしょ」


「そんなことないって」


「どうせ……私じゃなかったんでしょ?」


ほんの少しだけ、視線を逸らす。


「違う」


一拍。


「美咲だけだって」


「浮気、しちゃ駄目だからね」


「わかってるよ」


「美咲もするなよ」

「俺の方が不安だ」


「わかってる」

「しないよ」


一瞬、空気がやわらぐ。


――けれど。


「でも……ちょっと怖いんだよね」


「何が?」


「誰かに見られてる気がするの」


「え?」


「たまにね……直哉がいないときに、インターホンが鳴ることがあって」


「ここ、オートロックだぞ?」


「そうなんだけど……」


少しだけ、間。


「さすがに陽菜はそこまでしないと思うけど」


「陽菜はしないだろ」


「でも……一人じゃない気がするのよね」


「え?」


「一人じゃ……ない?」


言葉にした瞬間、少しだけ背筋が冷える。


「まさか……あの花屋じゃないだろうな」

「相沢さんか?」


「さすがに、そこまではしないでしょう」


「……よくわからないな」


相沢さんが一人だとしても、だぞ。

疑うのはよくないけど――


それでも、もう一人いるってことになるよな。


……どういうことだ?


直哉は、少しだけ考える。


「美咲……お前、本当にどこでも好かれるな」


苦笑混じりに、そう言った。


「やっぱり、美人だからか?」


「私の勘違いかもしれないけど……」


美咲は、少しだけ言い淀む。


「スーパーに、新しく入った子がいるの」


「その子にも……よく見られてる気がして」


「……何となく、なんだけど」


一瞬、空気が止まる。


「え……?」


「それと……その人は、まだわかるんだけど……」


美咲は、言葉を選ぶように続ける。


「もう一人、いる気がするの」


「相沢さんじゃなくて」


「私の勘なんだけど……」


美咲は、少し迷いながら続けた。


「スーパーの人は、普通寄りっていうか」

「別に、大したことない気がするの」


「ただ……よくいるお客様として見てるだけなんじゃないかしら」


一拍。


「相沢さんに関しては……ちょっと、わからないけど」


視線を落とす。


「でも、それとは違う感じの視線を感じるっていうか……」


直哉は、少し考えてから口を開く。


「じゃあ、相沢さん以外に……もう二人いるってことか?」


「……うん」


「それに、相沢さんって物理的に無理じゃない?」


「だって……相沢さんは花屋にいるわ」


「陽菜だって働いてるし、さすがにありえないでしょ」

「そんなことする子じゃないし……友達よ」


「陽菜なら普通に会いに来るよな?」


「……そうよね」


俺たちは、二人で花屋に来ていた。


「こんにちは」

「こんにちは。いらっしゃいませ」


「ヒマワリ、お願いできますか」


「かしこまりました」


花を選びながら、直哉が何気なく口を開く。


「相沢さんって、シフトいつなんです?」


「え?」


「どうせなら、いるときに買いに来ようと思って」

「ちょっと仲良くなった気もするんで」


自然な調子で、そう言った。


「俺ですか? 基本的に水木以外は入ってますよ」


「そうなんですね」


「ヒマワリでよろしいですか?」


「はい」


少しだけ、間。


「そういえば、休みの日って何してるんですか?」


「普通に、近くの店で買い物してますね」

「一人暮らしなんで、休みの日はだいたい買い出しですよ」


「そうなんですね」


「やっぱり、そうなりますよね」


会話は、何事もなく終わる。


――普通だ。


相沢は、どこまでも普通だった。


(……どういうことだ?)

(相沢は普通だし、陽菜も違う)

(なら、誰なんだ……?)

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