第参拾捌話【記憶の片隅に】
私はベッドの上で目を覚ました。
なんで病院にいるのか思い出せない……。
「なんで私……全然思い出せない……」
両親が来てくれて説明を受けると、私は道で倒れていたらしく、お医者さんが言うには貧血で倒れていたみたい……。
特に外傷はないので、今日病院で泊まって検査して異常が無ければ明日には退院だ。
そして母は泊まってくれることになり、色々と飯綱荘での話しを聞いて来た。
奏の事を話すも母は一人暮らしは心配だから戻って来ないかと聞いて来る。
私が答える事はもちろん! 戻るつもりは無い! でしょ?
だって飯綱荘にはみんなが……あれ? みんなって誰の事だっけ?
なんだろう……なんで何も思い出せないんだろう?
大切な……何か大切な事だったはずなのに……。
私は必死に思い出そうとすると頭が痛くなる……。
しばらく母と話しをしていると、奏がお見舞いにやって来た。
「トモモ〜!!」
奏は病院のベッドにいる私に飛び込んで来た。
「心配したよ〜」
「こめん、ごめん……」
「もう大丈夫なの?」
「うん……あのさ、奏にちょっと聞きたいんだけど……」
「なに?」
私は奏に思い出せない記憶の確認をした。
「飯綱荘のみんな? 飯綱荘ってトモモが住んでるアパートだよね? あそこはトモモの一人暮らしじゃなかった?」
「そう……だよね?」
そう、私はお婆ちゃんが住んでいたアパートに一人で暮らしていた……。
奏が帰った後も何かの違和感をベッドの上で天井を見ながら考えていた……。
「なんだろう……この落ち着かない気持ち……」
そんな事を考えている間に眠ってしまっていた。
母が帰る前、男の子の友達と名乗る人がお見舞いに来てくれたと告げられた。
「友達? 私に男子の友達なんて……いたっけ?」
私はいつも学校では奏と一緒だった……そんな私にお見舞い……?
「いったい誰だろ?」
私には誰だかわからなかった……。
そして退院して飯綱荘へ帰り、今日は母も一緒に泊まる事になる。
真っ暗な飯綱荘……誰もいない……。
薄暗いキッチンの冷たい大きなテーブルを手でなぞりながら、何かの影を感じる。
傷のあるテーブル、私しか使っていない椅子は綺麗に並んでいる。
そして……冷蔵庫にはプリンが一つだけ入っている。
【俺のだ!】
プリンの蓋にはそう書かれている。
私は書いた覚えが無いし、俺って一体誰なんだろう?
なんだか懐かしくも感じる……。
ふと、涙が溢れ始めた……。
「なんで? 私はなんで涙なんか流してるの?」
わからないのにどんどん涙が溢れて来る。
胸のざわめきを感じながら、この日は母と過ごした。
次の日、母は仕事で帰って行くが、また何かあったら大変だから家に帰って来るようにと強く言われてしまった……。
奏と離れるのは寂しいけど、こんな広いアパートに私だけってのもね……。
部屋が埋まってないなら家賃も取れないし、無駄になっちゃうし……。
私は奏に連絡して、飯綱荘で二人だけのお別れ会をやろうと言う話しになった。
その買い出しにいつも行くスーパーに向かう。
「このスーパーを使うのも今日が最後になるな……」
使い慣れた場所を離れるのは少し寂しい気分。
スーパーの中でも思い出のように何かを感じる……。
『これは俺が買うんだ!』
『僕だって食べたい!』
『兄さん達いい加減にしてください。 他の人に迷惑です! ※※兄さんも言ってやってください』
『いつものことだろ』
『も〜、※※兄さんは試食ばっかりしてないで※※兄さんを見習ってください』
『うるせ〜な、買い物に付き合ってやってんだからいいだろ。 お、これ美味いじゃん』
スーパーの周りを見るだけで影となった情景が浮かぶ。
なんなんだろう……私どうしちゃったんだろう……。
わからないけど買い物を続け、奏が来るのを準備しながら待っていた。
「トモモ来たよ」
「奏いらっしゃい」
「お邪魔〜……それにしてもトモモは良くこんなアパートに一人で住めるよね」
「う〜ん……私も不思議なんだよね……」
「まあいいか、それより始めよ」
「そうね」
私と奏がパーティーの準備を始めていると、玄関のチャイムが鳴る。
「は〜い」
誰だろうと玄関に出ると、立っていたのは……。
「お爺ちゃん!?」
「智子や、久しぶりじゃな」
私が学校に通うため飯綱荘に住む事を許してくれた祖父。
最後に会ったのはお婆ちゃんの葬儀以来だ……。
「どうしたの?」
「智子が入院したと聞いての……大丈夫そうで安心したよ。 それと、大事な用事はもう一つなんじゃが」
お爺ちゃんの隣には一人の男性が立っていた。
「そちらの方は?」
「こちらは飯綱荘の入居希望者じゃよ」
「入居希望者!?」
「初めまして、赤井と申します」
「は、初めまして……」
「せっかくだから案内してあげて欲しいんじゃが?」
「う、うん……良いけど……」
奏にはちょっと待っててもらい、赤井と名乗る人を部屋へと案内する。
「(ちょっとお爺ちゃん、なんで急に入居者入れたの? 私もうここを出て家に戻ろうと思ってたのに)」
「そう言うな、この人が入ればここにいても良くなるじゃろ? 友達とも離れずにすむぞい」
「そうだけど……」
知らない男性と一緒に暮らせって……無理だよ〜!
「それにの、これから入居者が増える予定じゃから安心して良いぞ」
「増えるの!?」
まさかここに来て入居者が増えるなんて……思ってもみなかったわ……。
「(トモモ、トモモ)」
「奏、どうしたの?」
「今のイケメン誰?」
「なんか入居者なんだって……お爺ちゃんが連れて来たのよ……」
「そうなの!? 入居者がいるって事はトモモここから出なくて良いんじゃ無い? そ・れ・に、あんなイケメンと一緒に暮らせるなんて羨ましいわ」
「そうは言っても……」
「今からやるトモモのさよならパーティーは入居者おめでとうパーティーに変えてその入居者さんも参加してもらおうよ」
「え〜! いきなりそんな事言っても……」
「大丈夫、大丈夫。 なんなら私が話して来るよ」
「ちょっと奏!」
奏が声をかけに行っちゃった……。
本当に大丈夫かしら……?
読んで頂きありがとうございます。
不定期連載ですが頑張って書いていきますので、モチベを上げてあげようと思っていただけるようでしたらブクマや★評価をつけていただけますと作者が喜んで踊りながら遅い執筆も早くなると思いますので、どうぞよろしくお願いします。




