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棘弾

電力供給

日本・広島 発電所職員 大久保良久


 巨獣の襲撃が続く中、私たちは常に電力不足に悩まされていました。

 広島に限らず、日本各地の町は壊滅的な被害を受け、発電所もまともに稼働できず、停電が日常茶飯事。

 最低限の設備しか動かせない中、生き残った人々は電気をほとんど使えず、寒さや暗闇の中で耐え忍ぶしかなかったのです。


 私たち発電所の職員も、限られたリソースの中で復旧作業を進めていましたが──正直に言えば、まともな電力供給など夢のまた夢でした。


 火力発電所や原子力発電所は、燃料そのものが不足していました。

 化石燃料や核燃料は海外からの輸入に大きく依存しており、世界中で巨獣災害が頻発するこの状況下では、輸送網そのものが壊滅的で、日本のような資源を持たない国にとっては致命的な状況でした。


 それに加えて、一部の大型発電所は過去の襲撃によって完全に破壊されたまま放置され、再建には莫大な費用と時間が必要でしたが、どちらも足りていない。

 原子力発電所に関しては、巨獣襲撃による炉心損傷や冷却設備の崩壊で放射能汚染が深刻化しており、作業員を近づけることすら困難な場所もありました。


 そのため、水力、太陽光、風力といった再生可能エネルギーを総動員しても、供給できる電力はごくわずか。

 最低限のライフラインを辛うじて維持できるかどうかというレベルで、とても街全体を支えるには足りませんでした。


 それに、たとえどこかの発電所が運転を再開できたとしても、肝心の送電網──変電所や電柱、地中ケーブルの多くが破損していたり、老朽化していたりして、まともに電気を届けられないのです。

 整備には人手と資材が必要ですが、それらは電気関係に限らず、あらゆる分野で逼迫していました。


 医療、食糧、水道、交通──どこも壊滅的な状況で、全方位で復旧作業が求められているにも関わらず、それを分担できるだけの余裕は日本にはありませんでした。


 政府から支援があったとしても、それは焼け石に水でしかなく、私たちがどれだけ全力を尽くしても、すべてが常に足りなかった。

 結果として、復旧作業はいつも遅れがちで、目の前のトラブルに対処するだけで精一杯というのが現実でした。

 

 仮に、すべてが奇跡的に整ったとしても──巨獣が一度でも襲来すれば、それだけで全てが水の泡。

 数年かけて復旧させた施設が、わずか数分で灰になることだって珍しくありません。

 防衛設備を強化しようにも、こちらも人手も資源も足りず、どうしても対応には時間がかかる。


 そんな余裕がある時に限って、皮肉なことに襲撃が起きる。

 本当に、どうしようもない、絶望的な状況でした。


 状況が一変したのは、“ガクラ”が初めて出現したあの戦いの後でした。

 

 ただでさえインフラが壊滅している中で、さらなる巨獣の群れと、謎のガクラの激闘。

 その余波でどれほど被害が広がったかと調べていた矢先──信じられない事態が起きていたのです。


 それは、ガクラが戦ったキルゾーン周囲の区域で、突如として電力供給が劇的に回復していたということです。


 私たち発電所の監視チームは、最初それを信じられませんでした。

 発電所のメーターを確認したところ、明らかに異常な量の電力が流れ込んでいたんです。


 本来なら、あの戦闘のずっと前から通電していない区域。

 既に変電設備は破壊され、送電線も寸断されていたまま手付かずの区域のはずなのに──なぜか、“通って”いた。


 あまりにも唐突でした。

 まるで何事もなかったかのように、その区域だけが異様なまでに潤沢な電力に満たされていた。

 破壊された発電設備が復旧された形跡はなく、電源となるはずの場所にも変化はなかった。

 一体、どこから電力が来ているのか。誰も説明できなかったんです。


 当初は、地下の老朽化した配線か、何かの残存設備が奇跡的に稼働しているのではないかと考えました。

 しかし、直ちに派遣された調査チームが現地を確認する中で、驚くべきものが発見されたんです。


 ──ガクラが戦闘中に発射していた“棘弾”。


 あの棘弾のうち、数十本がキルゾーン周囲の電柱、地面、配電設備、あるいは単なる構造物に突き刺さっていたんです。

 その棘弾の根本からは“ツタ”のようなものが伸びており、それが電柱や電線に直接接続されていた。


 調査の結果、判明したのは、想像をはるかに超える事実でした。


 そのツタを通じて、棘弾からは信じられないほど膨大な電力が供給されていたのです。

 1本の棘弾が持つ発電能力は、既存の原子力発電所すら凌ぐレベル。

 しかも、燃料も排出も不要で、まるで自然の呼吸のように静かに、そして継続的に電力を生み出し続けていた。


 それは、純粋な意味での“クリーンエネルギー”でした。


 さらに驚くべきは、その棘弾から伸びたツタが、自律的に配電インフラと接続されていたことです。

 人間の手による工事も指示も不要。あたかも送電網の構造を理解しているかのように、正確に、必要な位置にツタが這い、接続されていた。

 その結果、寸断されていたはずの配電系統が、自然に、何の前触れもなく再稼働していたのです。


 しかし異常は、電力供給だけに留まりませんでした。


 棘弾が突き刺さった地点の周辺──そこには明らかに“環境変異”が起きていたのです。


 調査班の報告によれば、棘弾の刺さった一帯では、土壌が通常の有機物を保ちながらも、金属や半導体に似た性質を持つ未知の物質へと変質していました。

 また、周囲に生えていたのは、もともと雑草だったと見られる植物──しかし、それらは異様なまでに巨大化し、中には栄養価の高い食用の実や、爆発性を帯びた実を実らせるものまで確認されたのです。


 この“異常な自然”は、資源としての価値も極めて高いものでした。

 変質した土壌からは、武器の修繕や製造に必要な素材が採れ、植物の実は新たな食料源として機能。

 広島の物資不足と電力難を同時に補える、まさに奇跡的な存在だったのです。


 学者たちは到底説明ができず、まるで自然の法則を無視した存在のようだと言っていました。


 この事実が判明するや否や、広島の行政機関は急ぎ“棘弾”の回収と電力インフラの修復──いえ、棘弾を中心とした“新たなインフラ”の構築に乗り出しました。


 あの黒い巨獣が放出した棘弾が、どのような仕組みで電力を生み出し、環境を変質させているのか。

 あるいは、そこにどれほどの危険性が潜んでいるのか。

 そのすべてが、未だに謎に包まれたままでした。


 それでも──それが電力問題、資源問題、食糧問題すら解決する“答え”であることだけは、明白だったのです。

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