ロンドン防衛戦
イギリス・ロンドン イギリス軍統合航空打撃群所属 対巨獣戦術運用部隊 武装攻撃ヘリコプターAH-64改 パイロット兼編隊指揮官 デイビッド・アラン
ベルゼブブ軍のロンドン侵攻に備え、俺たちはアイルランド軍航空隊との統合任務部隊として編成され、共同で迎撃に当たった。
当時の俺の任務は単なる操縦じゃない。
前線航空支援と対巨獣攻撃の中核を担う攻撃ヘリ編隊の指揮、地上部隊とのリアルタイム連携、さらに上空からの戦況判断と攻撃優先目標の選定──要するに、“どこに火力を集中させれば防衛線が維持できるか”を、その場で決める役目だった。
ヨーク、マンチェスター、オックスフォードと、連中は都市を踏み潰しながら南下してきた。
あれはもう、従来の巨獣の群れとは別物だ。
進行ルートの選定、戦力の分散と集中、包囲の組み方──事前偵察で判明していた通り、明確な戦術に基づいて動いていた。
数の暴力だけじゃない。
考えて動いている。
だからこそ、イギリスの主要都市を順に陥落させながらロンドンへ迫るその動きは、“侵略”そのものだった。
俺たちはロンドンに戦力を集中させ、多層防衛線を構築した。
外縁部では機甲部隊と砲兵が足止めを行い、その後方で俺たち航空隊が機動打撃を担当する。
市街地上空では、常に数個編隊がローテーションで滞空し、侵入個体の排除と被害拡大の抑制に当たった。
さらに、地理的に近いアイルランドからの増援によって航空戦力は大幅に底上げされた。
そして同時に、最悪の事態も想定されていた。
ロンドン陥落──その場合に備えて、イギリス王室および政府中枢を国外へ退避させる計画が、水面下で進められていたんだ。
俺たちは空で奴らを待ち構えながら、その事実を共有されていた。
ただ戦うだけじゃない。
防衛線が破られた後に何が起きるのか、その“次の段階”まで理解した上で、持ち場についていた。
つまり、自分たちが押し切られた瞬間、この国は“戦いを継続するために退く”段階に移行する。
俺たちは、ロンドンを守る盾であり、イギリスが生き延びる時間を稼ぐための部隊でもあった。
ベルゼブブ軍がロンドン郊外に到達した時、最初に視認したのは上空の編成だった。
無数の飛行型が高度と間隔を揃え、明らかに“防空スクリーン”として展開していた。
その後方──いや、正確にはその内側だな。
飛行型に守られる形で、爆撃型が数十体、密集陣形を維持したまま進行していた。
さらに異常だったのは、その運搬構成だ。
爆撃型の背部や脚部には歩兵型がしがみつき、尻尾のハサミで砲撃型、あるいは盾型を一体ずつ保持していた。
つまり、空中機動による“降下部隊”だ。
着地と同時に、歩兵、砲撃、防御の各機能が即座に展開できる編成──完全に実戦的な強襲構成だった。
俺は編隊の先頭でそれを確認した瞬間、優先目標を爆撃型に設定し、全機に共有した。
あの編成を地上に降ろせば、市街地戦は一気に崩壊する。
目標補足、射程圏内到達──その直後、全編隊に攻撃開始を指示した。
対地ミサイル、機関砲、ロケット弾。可能な限りの火力を一点に叩き込む、初動の飽和攻撃だ。
だが、前線を飛行していた飛行型が、ほぼ同時に反応した。
連中は一斉に火炎弾を放ち、こちらの弾道に対して“壁”を作った。
結果として、俺たちの攻撃は空中で誘爆、あるいは逸らされ、爆撃型への直撃はほとんど発生しなかった。
それだけじゃ終わらない。
迎撃で発生した爆炎と破片、そして撃ち損じた火炎弾の一部が、そのままこちら側の陣地へ流れ込んできた。
空と地上の両方で回避行動を強いられ、陣形が一瞬、崩れた。
ほんの数秒──だが、あいつらにとっては十分すぎる隙だった。
次の瞬間、爆撃型が保持していた砲撃型が動いた。
地上へ降ろされるよりも早く、空中のまま射撃体勢に入ったんだ。
放たれたのは、飛行型のものよりも明らかに大口径の火炎弾だった。
狙いは俺たちではなく、後方に展開していた戦車隊──防衛線の要だ。
一発ごとの威力が桁違いだった。
直撃すれば砲塔ごと吹き飛び、至近弾でも装甲が焼かれて機能を停止する。
編隊越しに見えた限りでも、数両が同時に炎上した。
戦車砲と同等、あるいはそれ以上の破壊力を持った面制圧攻撃だった。
あれは偶然でも反射でもない。
弾速、距離、発射タイミング──すべてを読んだ上で、こちらの攻撃を迎撃し、その結果生じる混乱まで“織り込み済み”で次の一手を重ねてきている。
要するに、対空迎撃を理解しているだけじゃない。
迎撃によって生じる戦場の乱れを利用して、地上戦力を叩く──連中はそこまで含めて運用していた。
しかも即興じゃない。
最初から、そのための配置と役割分担が組まれていた動きだった。
そうして奴らは、大した損害も受けないまま防衛線に到達した。
爆撃型が順次降下し、抱えていた歩兵型、砲撃型、盾型を地上へ展開していく。
ここまでは予測の範囲内だった。
問題は、その後の動きだ。
普通の巨獣なら、降下直後に一気に突撃してくる。
だが連中は違った。
着地と同時に即座に散開し、それぞれが一定の距離を保ったままグループ単位で再編成を始めた。
俺は上空からその様子を見て、思わず息を呑んだ。
あれは“部隊行動”だった。
砲撃型を中心に据え、その周囲を盾型が取り囲む。
外周には歩兵型が展開し、接近する敵に対して遊撃と迎撃を担う。
役割が、完全に分かれている。
しかも、それぞれが独立して動いているわけじゃない。
砲撃型の射線を確保するように盾型が位置を調整し、歩兵型はその外側で、こちらの接近や側面への回り込みを牽制している。
俺たちが戦車部隊でやっている運用と、ほとんど同じ構成だった。
どれだけ火力があっても、どれだけ装甲が厚くても、孤立した戦車は簡単に潰される。
だが、歩兵が周囲を固め、視界と近接防御を担えば、その脅威度は一気に跳ね上がる。
それをベルゼブブ軍が、何の迷いもなく実行していた。
しかも一部隊だけじゃない。
着地した連中すべてが、同じ要領で、同時に陣形を完成させていく。
訓練された部隊としか思えなかった。
あの時点で、勝ち筋はほとんど見えていなかった。
本当に最悪な戦いだった。
単に火力が強いとか、数が多いとか──そんな話じゃない。
あいつらは、戦場そのものを“設計”してきていた。
飛行型は単に火炎弾をばら撒いているわけじゃない。
高度ごとに層を分け、上層は広範囲への制圧射撃、中層は迎撃、下層は近接防空と、役割が分かれていた。
俺たちのミサイルやロケット弾は、中層の連中に捕捉され、弾道上で叩き落とされる。
仮に抜けても、下層が角度を変えた火炎弾で軌道を潰す。
さらに厄介なのは、攻撃の“間”だ。
連中は絶え間なく撃ち続けているように見えて、実際には波状になっている。
回避行動を取らせるための散発的な弾幕の直後、本命の飽和攻撃が来る。
回避で陣形が乱れた瞬間を狙って、次の一撃を叩き込んでくるんだ。
爆撃型が編隊単位で進入し、大規模な面制圧攻撃を仕掛けてくる。
それも無差別にばら蒔いているのでなく、防衛線の“継ぎ目”──部隊間の隙間や補給線、指揮所がある位置を優先的に狙っていた。
あれは事前に把握していなければできない精度だった。
砲撃型はさらに露骨だ。
狙い澄ました一撃で防衛線の要所──戦車や自走砲といった重火力を最優先で潰し、次に防空火器を狙う。
つまり、こちらの“反撃能力”を段階的に削いでいく。
盾型はただ守るだけじゃない。
砲撃型の射線に合わせて位置を微調整し、必要なら自ら前に出て被弾し、砲撃の隙を作らない。
歩兵型はその外周で、盾型の隙間を埋めながら、対戦車火器や対空火器を持った部隊を優先的に襲撃していた。
明らかに“脅威度”で目標を選別している動きだった。
空と地上が、完全に連動していた。
空からは飛行型による火炎弾の雨と、爆撃型による面制圧。
地上では砲撃型の一撃が要所を吹き飛ばし、その周囲を盾型と歩兵型が固める。
防衛線は、面じゃなく“点”で崩されていった。
重要な拠点から順に潰され、気づいた時には線として機能しなくなっている。
反撃しようにも、飛行型と爆撃型の機動性は武装ヘリを軽々と上回っていた。
高度の取り方、旋回、加減速の反応──どれを取っても、機械の制約に縛られたこちらより自由度が高い。
旋回も加速も、こちらの常識を無視してくる。
連中は“機体”ではなく、“個体”として空を使っていた。
それでいて数の暴力だ。
1体を落とすまでに、こちらは何機も持っていかれる。
編隊の維持すら難しくなっていった。
指示を出しても、その時にはもう僚機がいない──そんな状況が何度もあった。
砲撃型を優先的に潰そうとしても、盾型の外殻がそれを許さない。
ミサイルも、機関砲も、有効打にならないまま弾かれる。
距離を詰めれば歩兵型に迎撃され、空からの支援を入れようとすれば飛行型に潰される。
そして、そのどちらかに意識を割いた瞬間、砲撃型の一撃が飛んでくる。
防ぐ手段がない。
当たれば終わりの攻撃だった。
イギリス軍とアイルランド軍の合同戦力──あの時点で投入できる最大規模の防衛戦力が、段階的に、計画的に、削り取られていった。
本来なら、この規模で押し負けることはあり得ないはずなのに、防衛線は目に見えて削られていった。
それでも、俺たちは戦った。
この防衛線が潰されれば、イギリスの要であるロンドンに奴らは雪崩れ込む。都市機能は破壊され、火に包まれ、統制そのものが失われる。
ロンドンを失うというのは、単なる都市の喪失じゃない。
王室、政府中枢、軍の指揮系統──そのすべてが機能不全に陥るということだ。
そうなれば、国家としてのイギリスは維持できない。
生き残るために、国土を捨てて外へ出るしかなくなる。
それはつまり、この国を奴らに明け渡すということだった。
その結末だけは、どうしても避けなければならなかった。
だから俺たちは戦った。
戦場にいた全員が、最後まで持ち場を離れなかった。
命が尽きるまで、ここを通さない。
一体たりとも、市内には入れない。
誰もが、同じ覚悟で動いていた。
だが、司令部からの一報が、その前提を根底から覆した。
「各部隊に伝達。バッキンガム宮殿地下よりベルゼブブ軍の奇襲発生。国王陛下を含む王室関係者、複数の喪失を確認──繰り返す──」
無線が流れた瞬間、時間が止まったように感じた。
俺は操縦桿を握ったまま、次の指示を出せなかった。
頭では理解していたが、意味が追いつかなかった。
──防衛線は、まだ破られていない。
それなのに、守るべき中枢が、すでに落ちている。
その瞬間、はっきりした。
俺たちが相手にしていたこの大部隊は──“陽動”だった。
本命は別にいる。
しかも、最初から“内部”を狙っていた。
地下からの侵入。
王宮直下への奇襲。
外の防衛線を無視して、国家の中枢だけを刈り取る一撃。
戦場で積み上げてきた前提が、すべて崩れた。
俺の中で、戦意が音を立てて折れたのを、はっきりと自覚した。
それは、俺だけじゃなかった。
上空の編隊も、地上の戦車隊も、動きが目に見えて鈍った。
回避の遅れ、射撃の間隔、隊形の維持──どれもがわずかに崩れ始めていた。
無線は生きている。
命令も届いている。
だが、それを“実行する意思”が、明らかに削がれていた。
戦意が落ちていた。
守るべきものが、すでに失われていると知った瞬間、前提が消えた。
そうなれば、防衛線はただの線でしかない。
そこに留まる理由が、戦う意味そのものが、成立しなくなる。
そんな中で、司令部からの続報が入った。
「各部隊に通達。優先任務を変更。王子殿下の国外退避を最優先とする」
短い一言だった。
だが、その一文で、戦場の意味が完全に切り替わった。
防衛から、撤退支援へ。
“守るために戦う”から、“残すために退く”へ。
俺は即座に編隊へ指示を出した。
交戦を切り上げ、高度を取り、後退ルートへ移行する。
誰一人として異を唱えなかった。
むしろ、全員がそれを待っていたようにすら感じた。
限界は、とうに見えていたからだ。
こうして、俺たちは防衛線を放棄した。
前線はすでに崩壊しかけており、ロンドン内部にはベルゼブブ軍の奇襲部隊が侵入している。
防衛線そのものが、意味を失っていた。
ロンドンの陥落は、時間の問題だった。
その現実を前にして、俺たちに残された選択肢は一つだけだった。
──国を、残すことだ。
土地や都市を失ってもいい。
だが、政府を失えば終わる。
歴史を失えば、誇りを失う。
国民を失えば、国家そのものが消える。
そして──王族を失えば、二度とイギリスは立ち直れない。
だから、国民を、歴史を、国家という“形”を守る。
たとえ祖国の大地を失っても、いつか再興する。
それだけが、最後に残された“抵抗”だった。
だから俺たちは退いた。
アイルランド軍にも通達し、全部隊を防衛線から撤退させた。
もはや、都市を守るためではない。
最後に残された王族──王子殿下を、生かして外へ出すために。
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イギリス・ロンドン 英国陸軍航空隊・第16空中強襲旅団所属 対大型個体攻撃任務担当 武装ヘリコプター AH-64アパッチ パイロット リック・ルイス・ミラー
ロンドン防衛戦の頃には、あいつらベルゼブブの“生態”や“階級構造”はある程度明らかになっていた。
歩兵型、隊長型、砲撃型、飛行型、盾型、爆撃型、指揮型、そしてそれらを統率する女王。
重要なのは、ただ種類が違うって話じゃない。
それぞれが役割を持ち、その役割に徹して動いているという点だ。
群れでありながら、統制が取れている。
単独行動はほとんど見られず、必ず複数の個体が組み合わされて運用される。
──まるで軍隊だ。
俺たちはそう結論づけていた。
そして、その構造を理解した上で、優先的に叩くべき対象もはっきりしていた。
指揮型。
戦術を組み立て、各個体に役割を与え、戦場全体を動かす中枢。
通常の戦闘であれば、まずそこを潰すのが定石だ。
だが、それすら“中枢の一部”に過ぎなかった。
指揮型よりもさらに頂点に立つ女王──ベルゼブブ・クイーン。
あれは単なる上位個体でも、繁殖要員でもない。
確かに膨大な数の個体を生み出すが、繁殖そのものは、歩兵型でもある程度は可能だった。
にもかかわらず、クイーンが最重要目標として扱われた理由は別にある。
あれは、戦力を“生み出す”と同時に、全体の意思決定に関与している存在だ。
指揮型が“軍のトップ”だとするなら、クイーンは“国のトップ”だ。
あれが存在し続ける限り、いくら前線を削っても、戦いは終わらない。
むしろ時間をかけるほど、あちらの戦力が増えていく構造だった。
クイーンの存在が明らかになった時点で、奴の撃破は、勝利の鍵とされた。
指揮型以上の権限を持ち、なおかつ最上位の繁殖能力を備えた存在。
前線の戦力をいくら削っても、あれが生きている限り補充される。
逆に言えば、あれを潰せば全体の連携と継戦能力の両方が一気に崩れると判断された。
いわば“中枢コンピューター”であり、“工場”であり、“指揮官”でもある存在。
だからロンドン防衛戦の裏で、俺たち航空隊には別系統の命令が下った。
限定戦力による斬首作戦──クイーンの排除だ。
ベルゼブブ軍の主力がロンドン防衛線へ集中している隙を突く。
その間、クイーンは後方で拠点を形成していると推定されていた。
実際、偵察で確認された拠点は簡易的なものだった。
防衛個体も少なく、外周の警戒も薄い。
一度きりの好機だった。
大規模戦力の移動に合わせ、俺たちは低空侵入で防空網をすり抜け、拠点内部への突入に成功した。
ここまでは、計画通りだった。
目標は明確だ。
クイーンの所在を特定し、最短で叩く。
だが、上手くいったのは、そこまでだった。
クイーンの居室に到達した時点で、すでに“待たれていた”。
内部には、盾型の上位個体──通称“親衛隊”が配置されていた。
単なる防御役じゃない。
位置取り、間合い、反応速度、どれも通常個体とは別物だった。
こちらの侵入経路も、攻撃の意図も、最初から想定されていたとしか思えない配置だった。
奇襲は成立していなかった。
それでも、やるしかなかった。
あの距離まで入れた以上、撃たずに引く選択肢はない。
問題は、そのクイーンの外殻がとんでもなく硬かったってことだ。
奴は体高50mを超える巨体を持ち、さらに強化外殻で全身を覆っていた。
対戦車ミサイルを直撃させても、装甲がわずかに剥離する程度で、致命傷には到底届かない。
数発、十数発と叩き込めば違ったのかもしれないが、その“次の一発”を撃たせてくれないのが、親衛隊だった。
クイーンの周囲10m以内に入った敵は、すべて優先的に殺すようプログラムされてるかのような動きをする。
装甲は厚く、反応は速い。
こちらの照準に割り込むように前に出て、弾道を遮る。
ミサイルの軌道を瞬時に読んで、自ら盾になる。
……つまり、ただのヘリパイロットがロケット弾で撃ち込めば終わるような相手じゃなかったってわけだ。
あれを落とすには、火力も戦術も足りない。
必要だったのは──突破口を作るための“犠牲”と、そこに賭ける運だった。
誰かが囮になって親衛隊を引き剥がす。
その一瞬に、別の誰かがクイーンに叩き込む。
そういう戦い方しか、現実的じゃなかった。
出撃前、俺たちは軽口みたいに言い合っていた。
“あれを撃墜できた奴の名前は、歴史に残る”って。
だが実際は、名前が残る前に、ほとんどが消えた。
編隊は分断され、各機が個別に狙われた。
回避も、援護も、まともに機能しない。
撃たれる、落ちる、それだけだ。
気がついた時には、部隊は壊滅状態だった。
結局俺たちは、誰一人としてクイーンに決定打を与えられなかった。
撤退命令が出た時、正直、安堵したのを覚えている。
あれ以上続けていれば、全滅していた。
尻尾を巻いて逃げた──そう言われても、否定はできない。
そうして、命からがらロンドンに戻った時だ。
既に、イギリス軍とアイルランド軍が総力を投入していたはずの防衛戦は、俺たちの想定よりも遥かに早く、劣勢へと傾いていた。
ベルゼブブの単体は、それほど強いわけじゃないからといって、「数」と「戦術」を使い分けてくる奴らの群れの前に、防衛線はまともに陣形すら維持できなかった。
輸送ラインは寸断され、補給は尽き、司令部からの通信すら妨害され始めていた。
その時点で、実質的にイギリスは敗北していた。
政府は“防衛線維持より、指導層の退避を優先”と決定し、国家は首都を放棄する道を選んだ。
つまり、ロンドンを明け渡す決断を下したってことだ。
俺たち兵士には、「まだ諦めるな」とか「市民の避難を助けろ」なんて命令が飛んできたが、正直、内心ではみんな分かってたさ。
“もう終わった”ってことを。
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