Data 73. 不二を巡る戦い
Data 73. 不二を巡る戦い
(口寄せの術)
(朱鳥ノ式:聖灰ノ護摩)
術によって呼び出した朱き鳥の放つ聖なる火炎。
それにより俺を取り囲んでいた周囲の魔物は灰のように消えていった。
「天霊の名の元に。 其方へ力を貸そう」
呼びかけに応じてくれた杏ちゃんが、霊剣・八重垣に宿っていく。
(口寄せの術)
(蒼龍ノ式:放流ノ罪過)
青龍のエネルギーを持つ化身が召喚され、魔物の津波が嵐によって一まとめとなっていく。
(口寄せの術)
(月虎ノ式:月代ノ息吹)
顕現した白虎の雄たけびが激しい息吹となり敵の大群を吹き飛ばした。
穢れを祓う浄化の準備は整った。
(玄冥ノ式:幻滅ノ業魔)
リリスから受け取っていたエネルギーを駆使して、最後の術により敵の大群を消滅させた。
後退せず後ろに控えていた仲間たちは、俺が残る事に納得したのかその光景を見て八重垣へと退いていく。
皆にはこのまま八重垣を守ってもらおう。
早々に切り札を切ってしまったが、これは序盤の困難にすぎない。
これが、敵の第一陣……。
これから続けざまに敵は押し寄せるだろう。
だが、この世界の守護者たちもこのまま黙っているわけじゃない。
「四天霊達。 力を貸してくれ」
―――――
防衛体制の整った八重垣では、後退する仲間の後を追い迫りくる魔物を新たに確認していた。
「前線は破られたか。 Irukaはどうなった?」
主力部隊の一つを率いるSigridは、戻ってきたIrukaの部隊へ問う。
その副隊長は、Irukaが最前線で群れの数を減らすため足止めをしている事を、Sigridへと告げる。
「Irukaは一人で足止めをしている……!」
「やはり一人では全て捌ききれないか、剣を取れ! 迎え撃つぞ!」
魔物の津波は今まで以上の規模を誇る大群だったが、この日のためにしてきた準備が功を成し八重垣は英雄や軍によって守られていった。
霊峰を背にするその都市の姿はまるで、不動の王が佇んでいるかのようだった。
「残影だ!」
ギルド連合の一人が叫んだ。
その叫びに呼応したかのように、プレイヤーを模した残影が八重垣の周囲に生まれていく。
魔物の大群と合わさり、それは無慈悲な滅びの渦のように防衛軍を飲み込んでいった。
「怯むな! ここは守り切るんだ!」
求道者たちも善戦していたが、敵の膨大な数と無尽蔵のような力に次第に追い込まれていく。
だが、八重垣の防衛隊は自分たちの故郷を守るために諦めなかった。
必死に生を繋ごうとするその様をみて、ギルド連合の心の中にも熱い想いが芽生えていく。
「諦めるな! この世界の人間は生きてるんだ!」
「必ずここを守れ!」
エインヘリヤルの中では感じたことのない生の実感が、絶望の渦中にいる彼らを鼓舞していた。
やがて、その希望が届いたかのように新たな戦力が次々に光の柱と共に天から舞い降りて、滅びの大群を挟み撃ちにする。
「増援だ!! 押し返せ!!!」
将軍であるSigridの叫びが響き、その一声で戦況は逆転していく。
天から舞い降りた増援は、ログインできなかったプレイヤーたちだった。
――――――
魔物の大群を足止めし、しばらく経った。
足止めしきれない膨大な大群は、一人ぼっちの俺を無視して八重垣へと向かっている。
俺がここで足止めするより、戻って防衛に加勢した方が良いかもしれない。
途切れた通信はやはり復帰していない。
おそらく敵の妨害だろう。
「魔物が……」
八重垣に戻るため、踵を返そうとすれば辺りが静まり返っていたことに気づいた。
魔物の大群はほぼ消えて、代わりに奥から強大な力を持つ数々の残影が一本道を作る様に跪いていた。
「……」
「……」
その一本道の奥から、一人の存在が俺の方へ悠々と歩いて来る。
総大将が姿を現したか……。
ヤツの足裁きは、初めて遭遇した時。
そして戦いの中で記憶しているものと全く同じ、隙のないものだった。
この世界に降り立って産まれた因縁に、ここで決着を付ける。
「入鹿 飛鳥馬。 お前を殺し、俺は……本物になる」
「やはり、生きていたんだな。 鷹司 巳葛……」




