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Data 71. 霊魂を運びし神



「こんにちは。 奈瑠美さん」


「よく来たね。 入っておいで」


 彼女にそう言われて部屋に入れば、いつもと変わらない表情で俺を迎えてくれた。

 この世界だけではなく、俺たち自身がまやかしだった。

 そう聞かされてから初めて俺たちの世界で顔を合わせたけど、彼女のそのいつもの雰囲気がざわついていた俺の心を落ち着かせてくれた。


「さ、最後のチェックだ。 君の足を見せてごらん」


 彼女へと今までしていたように足を見せる。

 誘拐されて鷹司 巳葛と対峙したあの日から、俺の足は……イップスは完全に治っている。


 そういえば最初は……このイップスを治すためっていうのがCSOにログインする理由だったんだっけ。

 だが今は、別の理由で。

 あの世界に迫りくる災厄を祓うために俺たちは一致団結している。


 不思議だ。

 これもエインヘリヤルがもたらした運命何だろうか。


「奈瑠美さん。 本当は、別の理由があるんでしょう?」


 彼女が最後に、俺を呼んだ理由。

 それはきっと足を診るためじゃない。


 俺にしか言えない大事なことが、何かあるんだ。


「全く。 君ってやつは、勘が鋭いね」


 彼女は軽く笑い、本題へと入った。


「円融の都・八重垣で聞かされたろう? 災厄を祓った時、新たな指導者と真の理想郷が姿を現す」


「そして君は、かつての指導者の遺伝子を継いでいる」


「最後の戦いを終えたら……」


 ……。


「入鹿 飛鳥馬。 私と共に、ヴァルハラへ還らないかい?」


「奈瑠美さん。 俺は……」



――――――


Data 71. 霊魂を運びし神


――――――



 逢魔の災厄が始まる夜。


 最後の戦いの地である円融の都・八重垣へと、プレイヤー達が集まり始めていた。

 当然、俺は作戦のために早めにこの地へ足を降ろし、仲間たちと最後の作戦の復習をしていた。


 準備は万端だ。

 後は最期の災厄を迎え撃つだけ……。


 しかし、俺達の数はいつもより多くない。


「やっぱり、少ないな。 予定通り作戦を変更するか?」


「そうしよう」


 俺達の軍師であるSukuneがそう言い、皆彼へと同意した。


 あの写真のニュースが世間へと流れてから……。

 【CSOの世界がほぼ確実に本物である】

 それをテーマにした会見が、カルデアを裏で操っていた防衛省 サイバー防衛局長 鷹司タカツカサ 軽魔カルマを交えて開かれることになった。


 逮捕された彼は、己の無実を証明するようにカルデアを操っていた経緯を話した。

 カルデアの目的は、自分たちのこの世界を守るためにCSOという世界を利用していた事。

 そして、地下の仮想闘技場など世間的に批判されるものは、全て息子の鷹司 巳葛が勝手にやっていた事だと供述したんだ。

 続けて……。


 CSOの世界が本物である。


 この言葉が正式な発言として、大衆に知られることになった。

 逢魔の災厄が降りかかるこの世界を守ると意気込む者。

 そんな話は信じていないままゲームとして楽しむ者など。

 信じてない人、信じる人も様々だったが、彼の言葉によって学校や公的機関は全面的にCSOのログインの禁止をしはじめた。

 この世界へ来ることで、俺たちの世界や体にどんな影響を及ぼすか分からないからだ。

 俺のギルドなどは高校生プレイヤーが多かったから、家族からログインを止められるメンバーも多く正直かなりの痛手だ。


 だが、収穫もあった。


『Iruka。 これが理由だったんだな……協力するよ』


 CSOに必死だった俺達とウマが合わなかったメンバーが、懸命に協力してくれることになったんだ。

 人数が減り戦力は減ったけれど、俺たちは新たな絆を深め、そして連携を高め合っていった。


 皆で話し合い、戦力が少ない時の手は打ってある。

 戦力差的には厳しいが、この都市を守るためには戦う以外の道はない。


「真理愛……」


「……ううん。 へーきへーき」


 最後の戦い。

 いつも目にしていた逢魔の災厄が始まる風景が、いつもとは違うように感じる。


 最初は、ただのゲームだった。

 これはゲームで、俺たちはこの剣と魔法の世界を楽しんでいた。

 

 でも違った。

 いつの間にか、本物であるこの世界を揺るがす戦いに巻き込まれていたんだと分かり。

 自分たちの存在がまやかしであることを知り。


 最後の結末を知った。


「俺がなんとかするよ」


「……ありがと」


 俺の手を握り返してくれた真理愛の心から伝わる手の温もりはまやかしなんかじゃない。

 俺達は……。


「くるぞ……!」


 監視の一人が声を上げた。

 敵襲を継げるその声に、胸の中で再び覚悟を誓った。


「行くぞ!!!」


 士気を高めるための俺の声に、仲間たちが氣合の入った鼓舞を響かせ返した。

 俺達は、生きてる……。


 俺達は、生きている。

 ここで生きているんだ。

 だから最後まで生き続ける。



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