Data 68. 消耗品
Data 68. 消耗品
電車の中で揺られながら、俺は昨日のことを思い返していた。
八重垣に眠る古代の遺産を狙っていた、武闘派ギルドのあいつ……。
俺に素顔を見られてすぐに目を覚ましたが、ヤツはこれまでの記憶がないと言っていた。
おそらく、嘘は言っていないだろう。
この前の口論からヤツは嘘が器用なタイプには見えない。
まさか、操られていたのだろうか?
ヤツが言っていた借りを返すとは、この前の口論のことじゃではなく……。
気付けば俺は、あの日の命のやり取りをした時の事を思い浮かべていた。
「……」
今は考えても仕方ないか……。
とりあえず、逢魔の災厄を乗り越える事を考えよう。
俺は電車を降り足を進め、目的地へと辿り着いた。
「アナートマンへようこそ、入鹿さま。 所長室へどうぞ」
「ありがとうございます」
俺は、アナートマンへと呼びつけられていた。
武内さんは何か大事な話があると言っていた……まだ俺達に隠している事があるのだろうか?
受付の方と挨拶を交わして、武内 弓輝さんのもとへ向かう。
ノックして部屋へと入れば、見知ったクラスメイトの顔があった。
「真理愛、きていたのか」
「うん。 私もちゃんと、あの世界の事知りたいから」
窓を眺めていた武内さんは振り返り椅子へと座り込んだ。
「さ、飛鳥馬くん。 君も座りたまえ」
真理愛の座るソファの隣へと腰を掛けると、彼はため息交じりの息を吐いて俺達へ問う。
「何度も同じ問いをしてすまないが、君たちは更なる真実を聞く覚悟があるかい?」
「俺たちの思いは、揺らぎません」
真理愛と目を合わせて共に固めた決意を吐き出すと、武内さんは操作していたノートパソコンを俺たちの方へと向けた。
『そうかい。 では続きは私から説明しよう。 この前、君たちに言いそびれたことをね』
「奈瑠美さん……」
通信ソフトのページが表示された画面から俺の良く知る声が聞こえてきた。
この前、俺たちの住むこの世界がエインヘリヤルが作り出した仮想現実だと知らされた。
真理愛はショックを受けてログアウトし、そのまま話は終わってしまったが……。
まだ、奈瑠美さんの話には続きがあったのか。
『その様子だと覚悟は二人とも出来ているようだね。 だが、改めてもう一度問おう』
……。
『君たちがこれを知れば、更なる重荷を背負う事になるだろう。 今まで背負ってきた重責が膨れ上がり……。 そして、それは簡単に解消できるモノじゃない』
『あのタイミングで話が途切れたのは、エインヘリヤルによる最後の慈悲だったのかもしれない』
『それでも。 真実を知りたいかい? 特に真理愛くん……君は以前、想像以上にショックを受けていた』
『今までのように知らずに幸せでいるか、新たに真実を知り、それを飛鳥馬と共に背負うか。 これは強制ではない。 選択するのは、君の自由だよ』
真理愛は、無理しなくていい。
あの話を聞いてから彼女は空元気を振りまくように学校に来ていた。
今でも、無理をしているのではないか?
時々、そう感じてしまうんだ。
「当然、私も聞きます。 何かあるってことくらい分かってたし、そのために今日はここにきたから」
「いいのか? 仲間の事なら、俺から言っておくこともできる」
俺が真理愛を心配するように言うと、彼女は真剣なまなざしで俺の顔を見つめた。
「仲間だからでしょ。 私たちで今までやってきたんだから……あんまり見くびらないでよね!」
「やっぱり、真理愛には敵わないな」
正念場での真理愛は心強い。
一度はショックを受けても、彼女はすぐに立ち直り俺達と共に戦ってくれている。
彼女はきっと、何があっても俺達と共に戦ってくれるだろう。
「という訳です。 教えてください、真実を」
『そうか……君たちはもう……。 では、話そうか』
奈瑠美さんは嬉しそうに俺達へと言い放ち、この前の続きを話し始めた。
『知っての通り、逢魔の災厄を防ぐためにこの世界は古代の遺産であるエインヘリヤルによって創造された』
『そして、逢魔の災厄やそれに与するものはエインヘリヤルを狙ってきていた』
『ここまでは覚えているかい?』
もちろんだ。
「はい」
俺達は、CSOの世界にある古代の遺産。
そのサーバープログラム【エインヘリヤル】が生み出した仮想世界の中で生きている。
逢魔の災厄やカルデアはエインヘリヤルを狙っていたんだ。
カルデア……やつらがエインヘリヤルを狙っていた理由は、この俺たちの世界を守るためだったのか。
それとも現実を支配するためだったのか、内部で派閥があったのかは不明だ。
『神が引き起こした逢魔の災厄をティルナノーグへと通してしまえば、エインヘリヤルは魔物達によって破壊される』
『それは、この世界の住人にとって死を意味する。 これが前回の話の肝だったね』
エインヘリヤルが滅ぼされれば、この世界も稼働し続ける術をなくし俺たちは死ぬ。
……というより削除されると言った方が確実だろうか。
俺達はあの世界を守るためだけではなく、自分たちの世界を守るためにも戦ってきたんだ。
『では、逢魔の災厄が無くなったら……今君たちがいるこの世界はどうなるか。 考えたことはあるかい?』
「……」
……。
「俺たちの世界は……まさか……」
『そう。 君たちの世界は……逢魔の災厄を乗り越えた後、消滅する』
……。
『この仮想世界を維持するのにもエネルギーがいるんだ。 そして、より永く稼働を続けるために災厄が収まればスリープモードとなり停止する』
『停止の際には、世界の膨大なデータ量を保存するエネルギーが足りずに、その時代の人間達は……消えてしまうのさ……』
『エインヘイリヤルの内部では、ずっとそれが繰り返されてきた。 逢魔の災厄を退け、それが来るたびに世界は消滅し再生されてきたんだ』
彼女の言葉によって思考が止まり、我に帰れば、俺は凍り付いた空間の中でただ虚空を見つめていた。
真理愛は……
「私なら、平気……」
何があっても覚悟していたみたいだが、当然少しはショックを受けているか。
だが、この前のような満身創痍といった様子ではない。
話を続けても大丈夫そうだ。
「つまりは……逢魔の災厄を乗り越えようが乗り越えまいが……俺たちは……」
……。
「俺たちは、消耗品だった……」
『悪く言えば、そんな感じさ』




