Data 67. 幻のような仇敵
Data 67. 幻のような仇敵
円融の都・八重垣の重鎮たちも混ぜた会議は滞りなく終わり。
俺達と八重垣は逢魔の災厄を共に退ける事が決まり、軍隊として多くの人間がこの地に滞在できることになった。
こんな時のために、彼らも準備をしていたらしい。
「しかし、末恐ろしいですな。 食料やエネルギー供給のいらぬ莫大な戦力。 これが、古代の遺産の力というわけですか……」
元老院のまとめ役の翁が、この世の行く末を憂うように言い放った。
この世界の住民からしたら、確かに恐ろしい面もあるだろう。
俺達はサーバープログラムのエインヘリヤルがある限り、理論的には半永久的に行動できる。
逢魔の災厄を退けるためとはいえ、この世界のどの軍隊にも引けを取らない存在達が大量に押し寄せるんだ。
そんな俺達は古代の遺産が繋いだ世界から、幻想としてこの世界に存在している。
と彼らに説明をしている。
もし真実を話せば、俺たちは災厄を祓った後に消されてしまうかもしれない。
だから彼らは俺たちそのものが、まやかしの存在だと言う事を知らない。
……。
俺の顔を見た八千代さんは焦ったように割って入る。
「おじい様。 Iruka様は転輪王の化身となるお方ですよ」
「これは失礼した。 肉体は幻想とはいえ、あなた方の魂はそこに生きている。 ただの戦力と揶揄するのはいささか過ぎた発言でしたな」
……生きている、か。
「【災厄を全て祓いし時、新たな指導者により封印が解かれる。 その時、真の理想郷が再び姿を現すだろう】 この言い伝えが真実になる日も近いかもしれませんな」
「緊急事態故にご報告します!」
外を見張っていた方が、突然会議室の扉を開き叫んだ。
一瞬にして場の空気が変わり、張りつめた緊迫感が全員の身を硬直させた。
「騒々しいな。 何事だ?」
「古代の遺産への通路が開かれたとの報告がありました!」
「なにッ!? 確かか!?」
「特殊部隊サンガからの申告です。 部隊は一人の人間によって制圧されたとの事です」
「良く知らせてくれた。 直ちに別部隊に報告し古代の遺産に繋がる祠には防衛隊を配せ。 そして緊急避難訓練と称し民を避難所へ集めろ」
「ハッ!」
古代の遺産を狙う奴がいるのか。
やはり、昼の食い逃げ犯を放っておいたのはまずかったか?
彼らには話していたが、特殊部隊の守りを信頼していたからそのまま会議へと移行したんだ。
「Iruka様。 申し訳ありませんがお力添えを……」
「もちろん。 時間が惜しい、先に向かいます」
「かたじけません」
会議室を飛び出し、祠のある方向へ向かうが……嫌な予感がする。
顔を隠したあいつ……Kazuraの幻影なのか?
古代の遺産に目を付けリリスと交戦、杏ちゃんなどの四天霊を狙い……。
そして、今回も八重垣へと眠る古代の遺産が狙われている。
カルデアは、まだ残っているのか?
「……」
祠の前に辿り着くと周囲には特殊部隊の人たちが倒れていた。
良かった、まだ息はある。
気絶させられているだけだろう。
救護は別の人間に任せ、俺は先へ進もう。
気を引き締めて口当てを着用し、真っ暗闇の祠の中へと入れば仄かな灯りが奥を照らしていた。
ヤツが、先へ進んでいるのか?
近づいて捉えるために気配を悟られぬよう、静かに数十メートル走った。
すると、突如として道標の灯りが消えた……気付かれたか?
辺りに集中すると、横から誰かの気配を感じた。
自分へと向けられた殺気の刃を霊剣・八重垣で防ぐ。
続けざまに霊剣へと炎を灯せば、ヤツの姿が見えた。
「昼に会ったな。 ここで何をしてるんだ?」
「……」
そば麦屋でぶつかってきた顔を隠した男。
そいつの応答を待つが、返ってきたのは沈黙と洞窟に吹く静かな風の音だけだ。
……朱雀と始めて会ったあの山岳地帯にいた男。
あいつの姿と目の前のそいつが一瞬だけ重なって見えた。
「答えてもらおう」
俺達は剣を交じり合わせる。
やはり、こいつは……生きていたのか?
戦っていく中で、肝を冷やす思いが暴走したブラックホールのように広がっていく。
「……」
「これまでだ」
やつの足取りが重くなった。
俺は風上のポジションを維持して戦っていた。
ヤツも俺と同じように布で顔を隠し大雑把に口元も覆っているが、余計なものが入らないようにした俺が着けているものとは違う。
布の隙間から俺が蒔いた痺れ粉を少しづつ吸い込んでいるはずだ。
今や体が思うように動かなくなっているのは動きから明らかだ。
俺が近づこうとすると、目の前の存在は不気味な薄ら笑いを響かせた。
「借りは必ず帰す。 楽しみにしていろ」
やはり、そうだ。
こいつは……。
「!?」
ヤツは最後に、俺の持つ炎が灯った霊剣へと火薬袋を投げつけた。
小さい爆発が起こり、それは辺りに巻かれていた粉や舞い上がった砂塵に共鳴していき拡大していく……!
「なんとか、やり過ごせたか」
周囲の環境だけではなく、俺の特性や戦況を逆手に取り粉塵爆発を起こすとは。
土の多い場所で助かった。
そのおかげで、すぐに土壁を展開し何とか凌ぐことができたが、問題はあいつだ。
倒れ込んだそいつは煤だらけだが周囲へと、岩が飛び散っている。
火薬を蒔いてすぐに岩陰に隠れてやり過ごしたのか。
「……」
心臓の鼓動が外側から聞こえるような感覚と共に、俺はヤツへと近づき、顔を隠している布を剥いだ。
「こいつは……!」
Kazuraじゃ……ない……。
目の前に眠るそいつは、会議で俺達と口論になった武闘派ギルドの男だった。




