Data 66. ターゲット
Data 66. ターゲット
霊峰・転輪の麓にある円融の都・八重垣。
今朝、八重垣の調査を担う事になった俺たちのギルドは、一先ず俺が使者の代表として挨拶に向かう事にしたんだ。
次の逢魔の災厄が起こるとされるその地へ向かい、俺は日差しと風を切りながら予定をおさらいしつつも馬を走らせていた。
CSOで俺たちプレイヤーは各都市に点在する教会を通しワープする事ができるが、八重垣にはその教会はない。
逢魔の災厄が起こることや、俺たちが八重垣を守るために協力する事を伝えないと。
「お待ちしていました」
都市の入り口には、護衛を付けた巫女の女性が到着を待っていてくれた。
以前共に山頂を登って、青龍を落ち着かせるために共闘した八千代さまだ。
「八千代さま。 分かっていたんですか、俺が来ることを」
「この都市で災厄が起こると、貴方も良く知るであろうお人から一早く伝令がありましたから。 そしてその戦いが最後になるであろうお告げも……」
「そうだったんですか。 それはいったい……」
「……貴方へと、奈瑠美と名乗っている御方でございます」
奈瑠美さんの飛ばした隼により、この地にも既にそのことは伝わっていたようだ。
彼女は八重垣とのコネクションもあったのか。
疑っていたわけではないけど……やっぱり奈瑠美さんは元々こちらの世界の存在なんだな……。
「こちらへ、どうぞ。 ご案内します」
俺は八千代さまと彼女を守る護衛と共に、この前訪れた神社を目指す。
この地でやはり彼女は神聖な存在として知られているのか、道中は尊敬や羨望の眼差しで住民からの注目を浴びていた。
穏やかな空気が流れる神社に到着し、境内の奥にある社務所の部屋へ入っていく。
「護衛は入りません。 貴方たちは、外で待っていてください」
「しかし……」
「もう隠しても仕方ないので言いますが、こちらのお方は転輪の意思を継ぎし化身とも言える存在です」
「かしこまりました……!」
そうして、俺の対面に座った八千代さまから穏やかな微笑みが消えた。
人が変わったかのように凄然としたその表情は、この都市を守るための決意を感じさせる威厳が溢れていた。
「では、お聞きしましょう。 貴方のご用命を」
「ご察しの通り、逢魔の災厄の事です」
俺は話した。
今回の逢魔の災厄で残影が生まれる懸念はないか調査できないか。
この最後の戦いで、共に逢魔の災厄を乗り越えるために協力体制を取りたい事。
「その事はもちろん、こちらからもお願いしたいくらいですが。 ですが、一つ懸念が……」
「懸念?」
「貴方もご存じの通り、古代の遺産は地中深くに眠っています」
以前、彼女が話していた。
この霊峰・転輪は、マグマが重なる事を利用して巨大化したお山だ。
そして、それは地中へと眠る古代の遺産を固く封印するため。
この地中へと繋がる唯一の通路は、古の時代から立ち入りが禁止されていて今ではその通路も古代の遺産と共に封印されているという。
「……なるほど」
「この事は保留にし、一旦会議の場を設けましょう。 貴方が先ほど到着したことで、元老院達への知らせも届き彼らも準備しているはずです」
俺が来るお告げがあってから会議の準備もしていたのか。
今後の方針はスムーズに進められそうだ。
「彼らの準備が整うまで少し時間がありますね。 こちらで休憩していただくことも可能ですが、どうされますか?」
「俺は、少し街中を見てきます」
「かしこまりました。 約一時間ほど経ちましたら準備ができていると思います」
彼女に見送られて俺は街へと出た。
さて、 杏ちゃんからのお使いだ。
そば麦屋に持ち帰りの準備を頼みに行くか。
今注文しておけば八重垣から帰る頃には、用意してくれているだろう。
足を運び夕刻の店内へと入ろうとした途端。
「待ちな!」
威勢のいい声が店の中から響き渡った。
それと同時に怪しい人物が店から飛び出しぶつかってきた。
布で顔を隠したそいつは、一瞬俺の顔を見てすぐに走り去りその背中は夕暮れの景色へと消えていく。
「兄さん、怪我はないかい?」
「問題ありません。 何かあったんですか?」
「食い逃げだよ……求道者さまかと思ったんだが、違ったみたいだね」
「なるほど」
店員さんの言葉を聞いて、俺は直ぐにそいつの消えた方向を追いかけた。
あいつが、俺達と同じプレイヤー?
俺達プレイヤーはマナー違反があれば管理システムから弾かれ強制的にログアウトされる。
違法行為はできないようにエインヘリヤルに組み込まれているんだ。
店員さんが食い逃げ犯を求道者じゃないと思ったのはそれが理由だろう。
俺達はこの世界で違反行為をする前に弾かれるからだ。
だがそのシステムの穴を抜ける事のできる存在達を俺は知っている。
カルデアの連中だ。
組織の頭は潰したが、メンバー全員を逮捕、または所在地の割り出しや個人を特定したわけではない。
残党がこの地を狙っているのだろうか?
もしあいつがカルデアのメンバーだった場合、次の逢魔の災厄でやつらが暗躍している可能性がある。
「……」
高台へと昇り周囲を見回すが、ヤツの影は既に見えなくなっていた。
逃がしたか……。
俺は、店に戻りヤツを逃がした事を伝えて代わりに料金を支払おうとしたが止められてしまった。
「兄さんは、この前もウチに来てくれたよね? 小さい嬢ちゃんを連れてさ」
「はい、その子の好物なんでお使いにきたんですよ」
杏ちゃんやSukune、Mariaとここに来たことを覚えてくれていたみたいだ。
「まさか姫巫女さまの顔見知りってアンタの事かい……?」
「さぁ、どうでしょうね」
俺達に関係があることはあまり公にしない方が良いだろうか?
一応秘密にしておこう。
「……今回は私に奢らせてくれよ。 少しでも美味いと思ってくれたら、どうかこの地を頼むね」
「任せてください」
ここが次の逢魔の災厄の地となったことは、民の間でも噂になっているのかもな。




