Data 65. 転輪の友
都市を守り切れなかった逢魔の災厄から、プレイヤー達は巨大な連合を組んでいた。
ありがたいことに、まずは逢魔の災厄を乗り越えることから始めようと多くのプレイヤーは判断したんだ。
次の逢魔の災厄は、必ず乗り切る。
この世界の住民のあんな悲しい顔は、もう見たくない。
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Data 65. 転輪の友
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今日も演習やより良い作戦のための会議を終えて、俺はリリスのいるティルナノーグへと来ていた。
現在そこには朱雀の杏ちゃんや、リリスの妹のリーリムも滞在している。
皆と会議を終えた後にここに通い、リリス達の横で作戦やプレイヤーの強化プランを考えて過ごすのが最近の日課だ。
「ギルドの方は、どうですか?」
「今のところは順調さ」
リリスの淹れてくれたお茶で心を落ち着けながら、俺は不安の種の一つであるKazuraの事を考えていた。
前回の残影をあいつが操っていたのだとすれば……次はどう動いてくるか……。
次の災厄の地はまだ判明していない。
ともかく、そこが判明次第、古代の遺産の在りかを特定し残影が出る場所を調べる必要があるだろう。
それまではプレイヤー達の連携や練度を高めるしかないか。
お茶を飲み干し俺を見る視線に気づき顔を上げれば、リリスが少し悲しそうに俺の顔を見つめていた。
「……どうした?」
「いえ……顔色が優れないご様子でしたので……」
心配をかけてしまったか。
彼女は俺を、どこまで心配してくれているのだろうか。
リリスはおそらく、俺の影の中にいる存在を追っているに過ぎない。
過去の遺伝子を持つ俺だからこそ……。
「Kazuraの事を考えていたんだ」
「……」
「そんな顔しなくていいよ。 リリスの大事な人の意思は、消させないさ」
俺には、過去の英雄の意思や願いをもった遺伝子が刻まれている。
この世界の人類を破滅から退ける。
それが今の俺の願いだ。
数日程の時が経ち、魔物の出現する傾向から次の逢魔の災厄の地が判明した。
その場所は……【円融の都・八重垣】。
霊峰・転輪に在していた女神様が、俺に最終決戦の地だとお告げを下さった場所だ。
これからの動向を決めるため、数々のギルドを合併させた連合軍は、各ギルドの代表と補佐の計2名を選出しプレイヤー達の拠点サルバトーレの会議室に集っていた。
会議は滞りなく進み、プレイヤー達の強化。
ギルド間の連携の確認と演習。
前回発生した残影の出現を抑えるため、八重垣での調査を行っていく事になった。
もちろん、この世界が本物だという事や古代の遺産の事は俺達しか知らない。
ただ前回の不審な大量発生には何かギミックがあると、多くのプレイヤー達は考えている。
本職さながらに会議の舵取りをしていたSigさんは、一先ずの方針が可決した事を纏め始めた。
「大方は決まったな。 それで、他に何か意見したいことはないか?」
Sigさんが悟られないように俺へとアイコンタクトを送る。
事前に示し合わせた通りだ。
「一つだけ、意見をしたい」
「Iruka。 なんだ?」
「八重垣の調査は俺達に任せてくれないか?」
「Irukaの纏めるヴァルプルギスは情報収集にたけた者も多ければ数も多い。 怪しい点を探るにはうってつけだろう。 私は無論だ」
Sigさんの言葉に対し、多くのギルド代表者が賛成していく。
よし、一先ずは良い流れだ。
八重垣は……この世界の秘密。
俺達の世界の真実が眠っている。
それを今まで以上に念入りに探らせてしまえば多くのプレイヤーが、この世界の真実に気付くかもしれない。
共に戦う仲間が……ほとんどいなくなってしまうかもしれない。
そういった一抹の懸念を防ぐために、Sigさんをはじめ、武内さんや奈瑠美さん、仲間たちに相談し俺達がそこを調べる特権を持つことにしたわけだ。
「では、これで決まりか……」
「ちょっと待てや。 それはお前らに虫が良すぎねぇか?」
Sigさんが可決しようとした途端、俺の意見に対し反対の声が上がった。
個人の力を高める事を優先している武闘派ギルドの代表者だ。
「さっきSigさんが言った通りだ。 俺達は情報収集能力に長けている」
「あぁ。 正直前回の作戦は見事だったと言う他ねぇ。 ……実際にポイントはお前らが一番稼いでいたんだ。 俺も素直に称賛したさ」
……。
「一部の失態を除けばな」
「あれは……」
武闘派ギルドの代表は俺たちの痛いところを突き始め、失態を周囲へ知らしめるよう饒舌に語り始めた。
「お前らが最前線を陣取った事で、それに負けじと他のギルドも前に出始めた。 都市の防衛が薄くなったんだよ」
「いつも通りに防衛しておけば、被害は出たがおそらく守りきれたはずだ。 軍師気取りか知らねぇがな、不測の事態も考えてから偉そうな口を聞け」
「これはゲームなんだからお前らは余計な事しないですっこんでればいいんだよ。 自分の利益だけ考えて美味いところを独占すんじゃねぇ」
……そうだ。
いつも通りの防衛なら、都市を守りきれたかもしれない。
被害を最小限に食い止めるためにしたことが、裏目に出たのは事実だ……。
返す言葉が見つからない……。
「お言葉だがな。 言わせてもらうぜ」
俺が意気消沈し沈黙が訪れると、俺の友人が声を上げた。
「確かにそこの筋肉兄貴の言う事はもっともだ。 俺達は失敗した」
「けどよ、お前たちにギルドを纏めて作戦や連携をたて各所の情報を調べる事なんてできるか?」
「お前らみたいなギルドに任せれば利益を独占するかもしれない。 だが、Irukaは違うぜ」
「自分のギルド員じゃない初心者プレイヤー達にも、講習会の参加を促してたんだ。 それは逢魔の災厄を皆で乗り越えたいからなんだよ」
……。
「口を開けばベラベラと……俺たちが利益を独占したとして、情報収集には人数が多いに越したことはないだろうが」
「それも間違ってんな。 複数のギルドが情報収集に参加すれば、情報は錯乱して確実なものを精査するのにも時間がかかる。 お前たちみたいな、利益を優先するやつらならなおさらだ」
「てめぇ……喧嘩売ってんのか? 俺達がいつ自分の利益を優先したのか言ってみろ」
『避難誘導だぁ? ポイントの足しにならねぇだろ。 今が稼ぎ時だ!』
前回の災厄の時の動画か……いつの間に撮っていたんだ。
都市を守り切れなければ、報酬は入らない。
だからこそプレイヤー達は逢魔の災厄を乗り越えるために、都市を守りこの世界での実力を高める事ができる。
この世界を守るために、そういう風にCSOは運営されている。
武闘派ギルドの自分たちの利益優先の態度が公にされて、先ほどとは別の沈黙が周囲を支配し始めた。
「……」
「おっとダンマリになっちまったな。 ま、こういう事だ。 俺達は情報収集もできれば、統率力も高い。 ここにいる皆は俺達以外の適任がいると思うか? 遠慮なく言ってくれたまえよ!」
最後に俺の友人はそう締めて、全ての代表者が俺たちに同意してくれた。
そして、八重垣の秩序が乱されないように無事に俺たちが情報収集の代表者となった。
ティルナノーグへと共に戻り、改めてその友人へと礼を言う事にした。
「Sukune。 助かったよ、ありがとう」
「お前が珍しく黙っちまったからよ……俺も腹が立っただけだよ。 気にすんな」
全く、彼が友人で良かった。




