Data 63. 食い違う心
森の中の遺跡にあった残影の大群。
俺たちは新たに部隊を組み、遺跡にいた残影を討ち払った。
そして、その場所にあったサーバープログラムを、奈瑠美さんから貰ったプログラムをインストールし永久停止させた。
エインヘリヤルと似たサーバープログラム。
奈瑠美さんが言うには、かつて各地を守るために配されたエインヘリヤルの保険らしい。
そのサーバーには現在の俺たちのように稼働している仮想世界はなく、過去のデータを媒介に残影を産み出しているという。
長らく稼働していなかったそれを、何者かが無理やり起動させ。
逢魔の災厄で召喚された残影を動かした。
それが、現在の俺たちの推測だ。
だからこそ、これからも準備を念入りに行い、ギルドの練度も上げなければならない。
俺たちが遭遇した残影。
そして、今朝討伐した大群。
それらの力は大したことなかった。
だが、Sigさん達が苦戦していたようなレベルの敵が、あの大群で魔物と共に押し寄せたら……。
俺たちは……きっと負ける。
――――――
Data 63. 食い違う心
――――――
あれから決意を改め、今は小隊を組んだギルドメンバーの連携をコーチしている。
現在利用しているのはこの前に実装された、データ上の魔物との模擬戦を行えるシステム。
逢魔の災厄の対策に武内さんが開発したコンテンツだ。
「俺たち、強くなってる!」
「上級の魔物も楽勝になってきたな」
ヴァルプルギスのギルドメンバーが、上級の魔物を倒し自分たちの強さを実感してきている。
確かに、メンバーは少しづつ強くなっている。
だが、このペースでは正直遅い。
次の逢魔の災厄が始まるのは2週間後の予測。
その時に、いつもの魔物に加えて残影の群れが襲い来れば……街を守り切ることはできないだろう。
「皆、聞いてくれ。 前衛が攻撃を防ぐタイミングはもっと早い方が良い。 逢魔の災厄では敵は待ってくれない。 それに……」
「……」
「な、なんだ?」
俺が話し始めてから、ギルドメンバーはどこか気落ちした様子で俺の事を見ていた。
「あのさ。 ゲームなんだから、楽しくやろうぜ。 これじゃパンテオンと変わらないじゃん」
「いつもなら、それでもいい……。 だけど、今回は1位を狙うつもりでやってくれ。 連携の熟練度も上げておかないと、俺たちは……死……」
……だめだ。
夢中で反論して、ついいらない事まで言いそうになってしまった。
CSOの世界が本物である。
そして、俺たちの方が偽物の存在……。
もし、この秘密を知った時。
何人の仲間が共に戦ってくれるんだろうか?
「Irukaさ。 俺たちは楽しくやりたいんだよね。 上位狙うのもいいけど、それはそれでそっちでやってくれよ」
「今回だけは、従ってくれ。 好機なんだ」
「あのさぁ。 俺たちはそっちのやり方に充分付き合ってるだろ。 なんでもかんでも縛り付けるなよ」
……。
「Iruka。 この際だから言っておくけど、俺たちみたいなエンジョイプレイヤーの方がこのギルドで多いぞ。 このまま効率重視にしてたら俺たち抜ける事にするわ」
「……」
「なんだよ」
「それは、そっちの言う通りだ。 すまない。 少し方針を考えさせてくれ」
「まぁ、少し様子見るよ」
……。
今日は、ギルドの部隊連携の演習は早めに解散となった。
これから、ギルドの方針をどうするか……。
皆と会議だ。
「Iruka。 平気?」
「Satsuki。 見られてたか」
先ほど、俺が仲間と口論になりかけているのを心配してくれたんだろうか。
「何も心配いらないさ。 少し方針について食い違いがあったんだ」
「なら、いいけど……」
まだ何か用があるのか、彼女は何か言いづらそうにしては口を噤んでいる。
「何かあったか?」
「あのさ。 ……私たちが皆ログアウトしたら、時々最初のメンバーで集まってるでしょ?」
「あぁ……会議をしていて……」
「私にも教えて……!」
……Satsuki。
彼女が味方になってくれたら、かなり心強い。
だが、俺たちの重荷を彼女にまで背負わせていいのか?
「俺の一存では……」
「Mariaは良いって言ってたから……! 最近、兄貴も更に元気なさそうで、何か関係あるんでしょ……?」
Satsukiの兄はCSO開発者のアナートマン勤めのプログラマーだったな。
現在アナートマンは逢魔の災厄において、残影の対策を模索しているが、良い案が浮かばないと武内さんや奈瑠美さんが言っていた。
おそらくそれがプレッシャーになっているのだろう。
Satsukiも、俺たちの世界で生きている。
兄貴を家族として大事に想っているんだ。
その心には、嘘を付けない。
「なんとかしてみる。 一先ず、皆で集まろう」
既に皆が集まっているであろう場所を目指し、広大な地下空間を目指していくが……。
Satsukiの表情はどこか固いな。
自分だけ秘密にされているともなれば、そんなもんか。
だが、この先は彼女の想像以上の秘密が待っているだろう。
「さ、この先が集合場所だ」
「広い……!」
Satsukiを連れた俺は隠された古代都市へと入り、ティルナノーグの研究室へと向かった。
そこにはSigさんや、事情を知るSigさんの警察関係の部下でありWalküre Tearsの副リーダーの顔も見えた。
SukuneやMaria、Akiさんにヒーくんもいる、既に皆集まっているな。
「少し、遅れました。 すみません」
Sigさんをはじめ皆へと挨拶するが、皆はSatsukiの姿に少し驚いていた。
俺はこれまでの事情を説明した。
「そういうワケで、武内さんの了解が有り次第。 俺とMariaはSatsukiを仲間に加えようと思っているんだ。 皆は?」
「心強いけどよ、たぶんSatsukiが思った以上にこの先は辛いことが待ってるぜ。 それでもいいのか?」
Sukuneは最後に釘を刺す。
引き返すなら今しかない、そう言っているんだろう。
「友達なら、当然でしょ」




