Data 58-A. 逸脱者 Part1
「指導者の名前はキリスト。 私の……主です」
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Data 58-A. 逸脱者 Part1
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この世界のかつての指導者に仕えた存在。
それがリリスの正体。
……リリスが俺を慕う理由。
俺を守ろうとしていた理由。
それが、ようやく腑に落ちた。
「俺は、その遺伝子を受け継いでいる……?」
俺の問いに、リリスは淡々と答えていく。
まるで、こんな日が来ることを分かっていたかのように。
「はい。 貴方はあの人の意思を継いだ存在。 そして、この世界を変える事のできる、希望です」
八重垣で言われた、俺たちの中にいる新たな指導者。
それは……俺の事だったって言うのか?
「待ってくれ。 それは、俺には荷が重すぎないか?」
「その答えは、あなた自身が感じているはずです」
俺自身が……?
「今までの戦局は、貴方や貴方たちにしか乗り越えられません。 戦いの中でそう感じていたはずです」
確かに、絶体絶命のような戦局も俺たちは共に乗り越えてきた。
この世界で生きているという実感。
そして、この世界でもやっていけるという確信。
それがその答えだっていうのか。
「そしてもちろん。 希望はIrukaさまだけではありません。 彼を中心とした貴方たちの力も重要なのです」
「四天霊である私たちの主と、その奥様やご友人。 多くの英雄たち。 その全てが、逢魔の災厄を打ち払う一つの希望となるのです」
やっと実感した。
今まで感じていた俺たちの責任感は、道徳観や単純な感情から生まれたモノ。
だけど、俺たちは……本当にこの世界を守るために、ここへきたんだ。
ここに、いるんだ……。
避けられない運命が、確証へと変わった。
「それが、私がIrukaさまに仕える理由。 私の存在意義です」
リリスのその言葉を最後に。
俺たちは、戒めのような決意を胸に残したままに解散した。
俺たちが出会ったのは、必然だったんだ。
このCSOの世界を守るために、ここへきたこと。
逢魔の災厄を祓うために、手を取り合ってきたこと。
その全てが……決まっていた事だったのではないか?
胸の中に芽生えた強い違和感を残して、一旦解散となった。
「今は、誰もいないか……」
その日の深夜。
多くの事があって皆は疲れたのか。
俺の他には、知り合いは誰もログインしていなかった。
暗闇の道を行き、トンネルを潜り抜けて俺は日付が切り替わる前と同じ場所へと向かっていた。
「Irukaさま。 お待ちしておりました」
「リリス」
古代都市ティルナノーグへと入った途端。
俺が初めてここに来た時と同じように、リリスが目の前へと存在していた。
少しの間、互いの目を見つめ合い沈黙が続いた。
その後、リリスは奥地へと俺を案内していく。
辿り着いた場所は、彼女が眠っていた場所。
そして、武内さんにこの世界が本物であると告げられ、リリスが先ほど自分の存在理由を語ってくれた場所だ。
「教えてくれ。 本当の事を」
武内さんの言ったように、この世界は本物だ。
そして、俺たちは英雄の遺伝子が組み込まれ逢魔の災厄を祓うためにここにいる。
リリスはかつての指導者の従者であり、俺がここへ来ることを見越していたかのように目を付け。
俺が狙われていることまで知っていた。
そのどれもが本当の事だろう。
だが、それはあまりに出来すぎている。
俺は彼らの説明を聞いてから、底知れぬ運命を感じていた。
まるで、今までの偶然が予定調和のように感じていたんだ。
武内さんやリリスは、何かを隠している。
「それは……」
俺の問いに対して顔を伏せるリリスの無機質な表情には、どこか悲しみが浮かび上がっていた。
申し訳なさそうに下を向く彼女を見つめてしばらく。
奥の物陰から、新たに足音が聞こえてくる。
「それには、私が答えよう」
声の主を隠していた陰が、灯りのあるこちらに近づいてきて段々と晴れていく。
その顔は、俺が良く見知った顔だった。
「この世界では、初めましてになるかな」
「奈瑠美さん……」
姿を現したのは俺が幼い頃から知る、近所のお姉さん。
俺が小さいころから気にかけてくれて。
俺へさまざまな事を教えてくれて。
俺の足を診てくれていた。
俺へとメモリーカードを渡して。
そして、俺をこのCSOの世界へと送った張本人だった。
彼女はいつもみたく緊張感という言葉をあずかり知らぬような、気楽な素振りだった。
「あまり驚いていないね。 予想通りだったかな?」
「いえ。 昨日から驚きの連続で、麻痺しているだけですよ」
俺の答えに彼女は軽く笑い、優しい微笑みで口を開いた。
「さて、最初に問いたい。 この先の疑念に足を踏み込めば……君は永遠に何が真実かを見極め続けねばならない」
「疑念に捕らわれ続け、思考の迷宮へと無我が彷徨う事になるかもしれない。 それでも聞きたいかい?」
……俺は、この先の真実が知りたい。
「もちろん。 知りたいです」
「そうか、君はどうだい? 隠れてないで出ておいで」
奈瑠美さんは俺の後ろへと声をかけた。
誰かいたのか?
しばらくの沈黙の後、俺がこの世界に降り立ち最初に出会った。
そして、同じクラスの同級生が姿を現した。
「……Maria、きていたのか」
「あはは、バレちった」
彼女も俺と同じく何かおかしいと感じていたそうだ。
誰にも悟られないようにログイン通知をオフにして、ここへ向かってたところ俺がログインした知らせが届き、跡を付けてきたという。
自分がいては真実が語られないと思い、身を潜めていたらしい。
この先の真実を知れば、Mariaも共に逃れられない苦難を受ける事になるのではないか?
俺は引き返そうかどうか迷い、彼女を見つめた。
すると彼女は笑い、問いの答えを返すかのように言ってくれた。
「私も、覚悟はできてるつもり」
「素晴らしい心意気だね。 それでこそ、君を選んだ甲斐があるよ」
「私を、ですか……?」
奈瑠美さんは、その場にテーブルと椅子を召喚し、俺たちへとそれに座る様に促す。
その傍らでは、リリスが静かに茶器を並べてくれていた。
何もない虚空から、無機物を召喚した……。
いや、俺には……まるで、無から何かを産み出したように見えた。
これは、目の錯覚だろうか。
「君たちは、お茶は好きかな? リリスの淹れてくれるお茶は心が落ち着くからね。 ゆっくり話そうじゃないか」
全くこの人は、いつもマイペースだな。
俺たちはこの先に何が隠されているのか知りたい。
真実を知らなければ、俺たちはこれから生きる上で嘘の選択しかできない。
そう感じたんだ。
……俺はMariaと顔を見合わせた。
「奈瑠美さん。 気遣いは無用です。 もったいぶらないで、教えてください」
「そうかい……そこまで生き急ぐ必要はないかと思うけどね。 ホントにいいのかい?」
「もう夜も遅いし、明日も学校ですから」
俺の答えに奈瑠美さんは笑った。
その微笑みは、小さいころに見た、とても優しい微笑みと良く似ていた。
「では、話すとしようか」
……。
「実は私は、この世界の神。 と呼ばれている存在なのさ」




