Data 51. 雇われの協力者
Data 51. 雇われの協力者
この世界が本物だと知ってから、俺たちはこのゲーム……いや。
このCSOの舞台であるヴァルハラを、今までのように楽しめなくなっていた。
「なんとか倒したな」
「あぁ……」
戦闘を終えて一番に確認する事は自分たちがどれだけ強くなったかだ。
すぐにログを確認し、アチーブメントやスキルの獲得を確かめるが……収穫なしか。
俺たちは次の逢魔の災厄までにどれだけ強くなることができるだろうか。
もし今まで以上に手に負えない敵が来た時。
きっと……この世界の住人を守り切れずに死なせることになってしまう……。
「おいおい、暗いなぁ。 せっかくの良い景色なんだから楽しもうぜ」
「……」
彼の言葉を聞いて山岳地帯から周りを見下ろせば、のんびりした雲間から日差しが降り注ぎ草原や村々を照らしている。
「CSOってすげーよな。 俺たちは知らない世界で、知らない間に足を降ろして楽しんでたんだもんな」
リーリムが彼の言葉に口を尖らせる。
「アンタって、能天気ね」
「辛気臭くしたって何にも変わらねぇしな。 だったら能天気の方がよっぽど得してるぜ」
この世界で生きるリーリムには悪いが……確かにそうかもな。
俺たちはどうやったって俺たち以上にはなれない。
自分に苦行ばかり強いても、その先に本当の実りはない。
だったら強くなることだけにこだわらず、色々な視点をもって考えるべきだ。
強くなるという一点の事だけを見つめてしまえば、それだけ視野が狭まる。
進歩がないことに焦り、もがき、底なし沼にハマったように先へ進めなくなる。
反面余裕を持てばその視点から新たな道が見つかる事もある。
彼のように心に余裕を持つことは大事なことだ。
「と言ってもさ。 今や俺も大事な存在が安全になったから言える事だけどな」
「確かに……私たち、強くなることだけにこだわりすぎてたかも」
Mariaも俺と同じ考えのようだ。
俺たちが辛気臭くしているから気遣ってくれたのだろうか。
「これから隅々まで回ってさ、いろんな場所を見に行こうぜ」
「そのためにも、私たちにできる事をやろうってことね!」
「そうそう!」
今日初めてSigさんが雇った彼と合流したけれど……。
彼がいてくれると空気が良くなるな。
いつもは明るいMariaまでもが暗い時、その霧を俺たちでは中々祓えない。
「助かる、Sukune」
「それを言うのは俺の方だって」
デスゲームで俺と死闘させられた友人、倉橋 宿祢。
彼の妹は持病で入院しており、莫大な費用が必要となっていた。
その病院が鷹司家に与するグループだった事から、費用の免除を持ち出された宿祢は鷹司 巳葛の口車に乗ってしまった。
だがその一歩先が落とし穴だったんだ。
カルデアの事を知った宿祢は、抜けてしまえば妹に何が起こるか分からないといった強迫観念からヤツらに協力せざるを得なかった。
ストレートに人質とされたわけではない。
だが……。
『妹の費用はいいのか?』
宿祢への脅しの言葉は、その一言だけで有用だったんだ。
この世界の住人が死んでも平気な顔をしている犯罪者シンジゲートのカルデア。
そして、そのバックにいるであろう強大な公的権力者。
自分の妹に何かがあったら……そう考えたら組織を抜けるなんてことは彼にはできなかったはずだ。
「Iruka。 あの時、俺は死を覚悟してた。 けど救ってくれて感謝してる。 ありがとう」
「リリスのおかげさ」
「あぁ、もちろんそれも分かってる」
今では、宿祢の妹は無事だ。
彼女は鷹司の息がかからない安全な病院に移され、その費用も警察のCSO監視という調査に協力する代わりに免除されるという待遇を受けた。
組織に身を置きながら俺へとカルデアの存在に気づかせたり、自ら警察に通報し自分は身をくらます立ち回り。
そういった彼の情報操作が評価された結果でもある。
そして宿祢も……あの組織に関わった一員として今は警察の組織へと身を置いている。
彼の境遇を理解してくれているからか、事情聴取のための重要参考人としての扱いではあるけどそこまで重いものではない。
「罪滅ぼしって自分で言うのもなんだけど、これから俺も協力するよ」
「あぁ、よろしく」
俺はSukuneと手を取り合った。
するとMariaも手を重ねて来る。
「これで仲直りだね~!」
嬉しそうなMariaの眼差しを向けられて、リーリムも俺たちの手の上に自らの手を重ねた。
「し、仕方ないわね」
「よし、頑張って山頂を目指そう!」
「「おー!」」
眠るリリスを目覚めさせるために、俺たちは山の山頂を目指していた。




