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Data 43. ホンモノの恐怖心



Data 43. ホンモノの恐怖心



「アルン……なのか?」


 暗い独房の中で寝転がっていた子狼。

 そいつは息を切らし立ち上がり、俺の足元へと寄ってきた。


「心配してくれてるのか? ありがとう……」


 この存在が俺の知る子狼でも、そうでないとしても。

 今はここを切り抜ける事を、真理愛を助け出すことだけを考えよう。


 とりあえず、この子はアルンと呼ぼう。

 俺の手を舐めて嬉しそうな表情をするアルンに心を癒され冷静さを取り戻すことができた。


 アルンのいた部屋をよく観察するとあるものを発見した。

 あれは……CSOへ入ることのできるデバイスのヘッドギア。


 今は考えても埒が明かない。

 潜ってみるか。


 俺はデバイスを装着するが……。


「ダメか……」


 特殊なロックがかけられていて、入ることができない。

 このまま何もできず……真理愛が……。


「わうん」


「アルン……そうか……!」


 アルンが、俺のポケットへ鼻を近づけて何かを訴えてくる。

 俺のポケットには……あれがある。


 βテスト開始時、奈瑠美さんが託してくれたメモリーカード……!



『それより、明日は……初めてパーティーで集まるんだろう? あれを持っていくといい』


『あれってなんですか?』


『CSOを始める時に君へ渡したメモリーカードさ。 プレイデータなんかを保存してるから、コンテンツのテストに役立つはずさ』



 奈瑠美さん……。


 俺の予感はアルンの行動によって確信めいたものに変わっていた。

 このメモリーカードをデバイスにセットし……。

 もう一度潜ってみよう……。


「開け、護摩……」


 いけた……!


<飛鳥馬さま、お待ちしておりました>


 リリス……!

 今までも彼女に助けられてきたが、今日ほどその声が心強く感じたことはない。


 リリス、俺の状況が分かるか?

 この部屋を脱出したい。


<なんとか確認済みです。 今ロックを解析中です。 しばらくお待ちください>


 頼んだ……!


<戦闘準備をお願いします。 これより、システムロックの防衛が発動し魔物が召喚されます>


 真理愛……待っててくれ……!



――――――



「Aki……ここは?」


「私も分かりません……いったい……」


 周囲を真っ暗な闇がつつみ、一つの青いモニターが光る電脳空間へと、二人は降り立っていた。

 見知らぬ場所で顔を合わせるが、いつもと同じ仲間のアバターを見ることでほんの少しの安堵を得る。


 AkiとHigurashiはCSOの開発会社であるアナートマンへと辿り着いていた。

 待ち合わせ場所にこなかった、飛鳥馬と真理愛。

 その二人へとメールや留守電を残して、アナートマンへと連絡する手段を持たないため先に向かっていた。


 そして、そこへ到着したと思えばすぐにゲーム内へのログインをせがまれた。

 二人をゲーム内へ誘導した存在は、開発者の武内タケウチ 弓輝ユミテル

 挨拶もほどほどに、二人はその空気に流されるままゲームへとログインしていた。


 見知らぬ電脳空間で戸惑う二人に、武内が率いる開発チームの一人が通信を通し声をかけた。


『開発チームの烏丸カラスマです。 二人とも、調子はどうですか?』


 突然響いた声に二人は少しだけ心臓の奥が跳ね上がる。


「「大丈夫です」」


 しかし、優しそうなその声に僅かに落ち着きを取り戻し、二人は声を重ね烏丸へと応答した。

 烏丸はゲームに早々にログインしてもらった概要を手短に説明していく。


 それは、事前に聞いていた新規コンテンツのテストではなく、突如開催されたイベント、2回目の【逢魔の災厄】へ参加して欲しいという事だった。

 二人はいつも通り落ち着いて戦い、村人や街を守って欲しいと伝えられる。


 そして、烏丸は最期のメッセージと激励を送る。


「それでは、君たちを転送する。 場所はさっき言った通り【アスカアラム】だ。 魔物の様子も今までとは違う、気を付けて」


「は、はい……」


 Higurashiの心臓は、暴走したように音を鳴らし続けていた。

 なぜこんな状況になっているのかは分からないが、ただごとではない。

 これから、自分たちや飛鳥馬、真理愛、それにAkiはどうなってしまうんだろうという不安が彼の脳内へと警鐘を鳴らしていた。


 そんなHigurashiの姿を見て、Akiは彼の手を握った。


「翔。 私がついてるから」


 Higurashiは幼馴染のAkiの手が震えている事に気づいた。


(また、僕は……いつも……)


 自分はいつも誰かに助けてもらっている。

 それなのに、自分はこんな肝心な時でさえも、彼女へ頼りっきりになるのか?

 そんな悔しい想いが胸の中に渦巻き、彼は今まで助けてくれた人達を思い出す。


 その出来事が、彼の勇気へと変わっていく。

 翔は強くその手を握り返した。


「Aki。 もしも何かあっても、僕が守るから」


 直後に、二人の視界を眩い光が包み込んだ。


「……」


 二人が目を開くとそこは、アスカアラムだった。

 しかし、彼らの見慣れた情景はない。


「そんな……!」


 街は魔物が侵入し、この世の絶望を前にしたかのような悲鳴や動揺の声が上がってた。

 穏やかに人々が行き交う街の姿はどこにもなく、住民が逃げ回り、仲間の求道者や国の防衛軍が悪魔のようなそれらと戦っていた。


「助太刀します!」


「助かる……!」


 AkiとHigurashiも加わり、街へと侵入した魔物を葬っていく。


(いつもより、強い……!)


 Akiは前衛として魔物と戦う中で、敵のその強さに違和感を憶えていた。

 今までの逢魔の災厄や魔物と違う。

 剣を交わし、プレイヤー達と連携し何とか対処していくが、敵の動きから凶暴性や知性が上がっていた事を感じていた。


 だが、こちらも続々とプレイヤーが送り込まれている。

 急な逢魔の災厄の告知がされ、現実側にいたプレイヤーが次第にログインしこのアスカアラムへと向かっている事を確信していた。

 段々と魔物を押し返し、気付けばプレイヤー達は有利をとっていた。


「外で防衛だ!」


 街中の安全は保たれたが、まだ戦いは続いている。

 城壁の外では別のプレイヤー達が押し寄せる魔物の波を塞き止めていた。


「いいぞ! 一気に押し返せ!」


 勇ましいプレイヤーが声を上げた。

 それを合図に呼吸を合わせ、魔物の軍勢を押し返し徐々にプレイヤーが優勢となっていく。


 しかし、彼らが勝利の予感を得たのは、ただの束の間の喜びに過ぎなかった。

 プレイヤー達の疲労や集中力が切れかかる頃、新たな軍勢が現れ始めた。


「ネームドの軍勢……」


 強力なネームドモンスターの軍勢に対し、プレイヤーたちは心を殺されたかのように息を潜める。


(まずい、皆の士気が……もしかして、誰かが意図を引いて……?)


 まるで図ったかのような強敵の来襲に、Higurashiは底知れぬ恐怖と共に違和感が沸き上がっていた。

 一人のプレイヤーの動揺が波紋のように広がっていき、自分たちが天変地異の中にいるかのような錯覚に陥る。


 プレイヤーの一人が圧倒的な魔物の集団から逃げるように後ずさり、踵を返そうとしたとき。


「皆! 諦めないで!!」


 メガホンシステムにより皆を励ますような女性の声が天から響き渡った。

 それと同時に、強力な属性魔法が宙を舞い一撃でネームド数体を葬る。


(この魔法は……!)


 それはHigurashiやAkiが良く知るパーティーメンバーの魔法だった。


 プレイヤー達はその光景に微かな光明を見出したが、それでも敵の勢いは止まらない。

 僅かに産まれた微かな希望は、混沌の波に飲まれていく。


「恐れるな!! 我ら【Walküreワルキューレ Tearsティアーズ】が助太刀する!!」


 今度は馬へと跨る勇ましい女性の声が響き渡った。

 そして、それだけではない。

 彼女達と彼女を慕うプレイヤーが強力な援軍のように勇ましい声を重ね、最前線へ走っていく。


 心の中に生まれていたプレイヤー達の本物の恐怖は振り払われ、希望を繋げるように続いていく。



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