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Data 42. 揺らいでいく境界線



Data 42. 揺らいでいく境界線



 ……ここは。


 耳が異常を感知したと勘違いするほどの静けさに包まれて、俺は目を覚ました。

 見回せば、ここは地下の監禁部屋のような……独房。

 両手首には太めの結束バンドが固く結ばれている。


 一旦、記憶を整理しよう。


 俺は【アナートマン】へと向かう途中だった。

 皆と駅で待ち合わせをしていた。

 真理愛が捕まっていると連絡があり……。

 そして、ビルで捕らえられて……。

 今、目を覚ました。


 俺は……ハメられたのか?

 アナートマンの代表、武内 弓輝に?

 いつもの皆に?

 尾藤に? 宿祢に……?

 真理愛に……?


 自分の情けなさからくる疑念を振り払うように首を横に振った。


 真理愛は今、不安の中で捕まっているはずだ。

 彼女を疑うなんて、どうかしている。

 それに、宿祢も……彼は俺の友人だ。 


 ……林の心・徐の呼吸。


 目を閉じ精神を統一し、呼吸を整えた。

 よし、まずはここを出るチャンスを伺おう。


 いずれ、見張りが来るはずだ。

 その時が好機だ。


 それまでに、この両手首を一まとめにした結束バンドを外す。


 両手首を拘束されたまま、靴紐の結び目を何とか解いてその紐を結束バンドの間に通す。

 そして、その紐を再び結び合わせて、結束バンドに勢いよく擦り付け摩擦を産み出していく。


 細い結束バンドなら、俺は直ぐにでも千切ることができた。

 拘束された両手首の間を、己の躰の中心へと思い切りぶつければいい。

 それは、俺が先生から教わった事。


 そして今やっているこれは、摩擦熱。

 ヒモをこすり合わせ摩擦熱を起こすことで、結束バンドを溶かし斬ることができる。

 幼い頃、奈瑠美さんに教わった事だ。


 俺が行動を始めてから、隣では何かが鳴いている……。

 動物の鳴き声……? イヌ科の動物だろうか?

 あのバラエティショップでの鳴き声が脳裏を過ったが、今はいい。


 よし、あと少し……!


「おい! 何やってんだぁ!?」


 まずい、見張りか?

 俺は今やっている事を見られないように、背中を向けている。

 結束バンドを斬った後は、まだ繋がれているフリをして見張りを油断させ、この独房に誘い込むか。

 若しくは誰も来ない場合は紐を駆使して外の鍵を取るかと考えていたが……。


 これがバレたら全てパァだ。


「ひゃははは! こいつ自家発電してんのか?」


 しめた……! バレてない!

 それに、このアホな笑い方……。


 今はお前の勘違いに乗ってやる。


「き、キモチイ~……!!」


 くそ、こんな事させやがってからに。

 こいつ後でぶっ飛ばす。


「おい、俺に見せてみろよ!」


 いいぞ、独房に入ってきた。

 それと同時に、俺は結束バンドを溶かし斬り解放された。


 ヤツが俺の肩へと触れた瞬間。

 俺は身をひねって即座に振り返り、両足で相手の頭を挟み込む。


「ひょ?」


 ヤツが間抜けな声を上げるのと同時に。

 俺は腰をひねりヤツを地へと伏せた。

 続けて結束バンドを斬り自由になっていた両腕で首へチョークをかけ、そのまま締め上げた。


「しばらく寝てろ」


 俺は尾藤の取り巻きである銀覇シルバーをそのまま独房に閉じ込めて、なんとか脱出する事が出来た。

 だが、この独房がある大広間そのものへ……電子ロックがかけられている。

 ここから出るにはどうすればいいか考えないとな……。


 ヤツを寝かせたのは失敗だったろうか? と扉の向こうで気絶する同級生を見つめた。

 シルバーは俺の様子を見に来たんだろう。

 きっと、こいつらが俺を捕まえたんだ。

 もし両腕を別の物で結ばれていたら……こいつらがアホで助かったな。


「わぉん……」


 隣の独房から鳴き声が……。

 そういえば、隣に動物がいるんだったな。

 何か隣の部屋に手掛かりは……。


 独房の窓から中の様子が見れそうだ……。


 !?


「待ってろ……!」


 そんなハズはない。

 自身の目の錯覚だと疑う気持ちと、今見た現実を疑えない気持ちが、胸の中でせめぎ合う。

 シルバーの持っていた鍵で扉を開けて、俺はしっかりとこの現実へと目を向けた。


 目の前でへたり込む、その子狼は、俺が見覚えのある存在だった。


「アルン……なのか?」



――――――



(おかしいな……)


 新規コンテンツの調整をおこなっていたCSOのシステムを作り上げた武内 弓輝。

 彼は胸の中へ違和感を憶えていた。


 なぜなら、自分たちが呼んだ少年少女が約束の時間を過ぎても到着していないのだ。

 少し遅れるくらいならよくあるだろうと、弓輝は思い込んでいた。

 しかし、そうしてコンテンツの調整へと再度取り掛かり、気付けば2時間は過ぎていた。


(連絡を取るか)


 彼は携帯をとり、連絡を入れようとしたところ。

 悪夢が始まるかのように、開発チームから警報のような呼び出し音が鳴る。


(なに……!? 早まったのか……?)


 それは、完全に想定外の出来事だった。

 彼の中に育まれていた胸のざわめきは、その警報により膨れ上がる。

 弓輝は携帯を己の耳へと近づけ、早足で開発部署のシステム管理室へと向かっていた。


「まさか……!」


 自分が会社へと呼んだ少年は電話へと出なかった。

 この警報はその疑念を裏付けるかのようなものに感じていた。


 そして、弓輝の携帯から日常的な着信音が鳴り響く。

 今の彼にとってその連絡は、何よりも不穏なものに感じた。


『失礼します。 サイバー犯罪対策課の朝霧です。 武内 弓輝さまで間違いないでしょうか?』



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