Data 41. 狙われた英雄
「まだ召喚のバグは直ってないみたいだな」
ヒーくんは、召喚士に転職してからというものの精霊を呼び出す召喚に苦戦していた。
契約したはずの精霊、子狼の【アルン】。
最初の内は呼び出しに成功していた。
しかし、何度呼んでもアルンは姿を現さなくなっていた。
「愛想を……つかされてしまったんでしょうか?」
「気にすることないさ。 ただのバグだろうし」
「……そうですね。 運営にも問い合わせてありますし、氣長に待ってみます」
――――――
Data 41. 狙われた英雄
――――――
「うーん。 君の足はいつ直ってもおかしくないんだけどねぇ……」
「俺も不思議です。 走る事だけはなんで上手くいかないんだろう……」
今日もまた、本気で走ることを失敗して奈瑠美さんの前で大ゴケしてしまった。
ランニング程度ならできるし、最近また行きはじめた道場でも動きはほぼ問題ない。
時折、頭へとあの激痛がチラつくこともあるけど……普通に動かせている。
「前にも言ったけど、やっぱり氣長にやっていくしかないねぇ」
「そうですね。 日常生活に不便はないから、まだ良かったなって思ってます」
まぁ、そのうち直るだろう。
「それより、明日は……初めてパーティーで集まるんだろう? あれを持っていくといい」
……。
……なんだ、昨日の夢か。
夢の中で奈瑠美さんから昨日と同じ言葉を受け、足に残る違和感と共に目が覚めた。
一定のリズムを刻む電車の心地よさで、いつの間にか眠っていたようだ。
だんだんと夏の暑さは退いてきたが、まだ電車はエアコン盛りだ。
俺は移りゆく街並みを眺めつつもとある場所へと向かっていた。
さて、CSOではもうじき2回目の大規模イベントが始まる。
前回と同じ逢魔の災厄だ。
今回は周囲へ気を配りながらイベントを進めよう。
CSOで暗躍している謎の組織……そいつらが、魔物を操りイベントを妨害しているのかもしれない。
いったい、なんのために……。
そして、プレイヤーの力量を上げるために実装される新規コンテンツも最終テストの段階へと入っていた。
俺はそのテストプレイの調整役としてお呼ばれされて、アナートマンへ再び顔を出そうとしているところだ。
時間は13:30分。
駅へと着いたが待ち合わせ時刻の14:00より大分早くなってしまったか。
今日は……俺たち皆で。
AkiさんやHigurashiさん、そして真理愛も含めたいつものメンバーで集まる予定だ。
俺を呼んでくれた武内 弓輝さんからも快く歓迎の言葉をいただいている。
早く着くに越したことはないけれど、少し浮かれてしまった。
というのも事実だ。
ホントは、電車も同じはずの真理愛と一緒に行くつもりだったんだが……。
『乙女は色々準備が大変なの!』
と言い、俺とは別で後から行くと言っていた。
結局、集合時刻も同じなのに、準備とはいったい何なんだろうか。
と考え駅の近くで待っていると、メールの着信が届いた。
真理愛か。
――――――
~招待状~
逢魔の災厄の英雄Irukaへ。
この場所へ一人で来い。
誰にも連絡をするな。
添付:地図 写真
―――――
それを見た瞬間、先ほどまでの愉快な気持ちはすぐ塵となって吹き飛んだ。
メールへと添付された写真は、真理愛が密室に閉じ込められているものだった。
俺は言う事をきかない足を何とか必死に動かし、息を切らしながら添付された地図の場所へ、捕らえられている真理愛がいる場所へ向かった。
そこは、駅から数百メートル程の薄暗い路地裏。
奥には不気味な廃ビルが立ち並んでいた。
当然、俺は一人だ……。
警察に言えば……真理愛が危ない。
大事な人を人質にされた状況で、俺は彼女の無事を優先し案じる事しかできなかった。
……行くか。
俺は一呼吸おいて、ビルの中へ一歩踏み出した。
「来たか」
CSOと服装は違うが……フードを被った、不気味な男……。
その素顔は、陽の光を遮る暗闇とフードの陰で完全に隠されていた。
「真理愛は……無事なのか?」
「あぁ、お前が大人しくすればな……」
なんとか一先ずは……大丈夫そうか?
だが、これからどうする?
俺はどうすればいいんだ?
胸の鼓動が弾け飛びそうなほどに、速度を上げていく。
その鼓動に思考をかき乱されているのが自分でもわかる。
「とりあえず、眠れ」
「!?」
いつもだったら気付くはずの背後の足音に、俺は倒れてから気付いた。
そして俺が倒れるのとほぼ同時に、電撃の迸る音がしていたことも。
スタンガン……。
これは、絶対に悪戯なんかじゃない……。
薄れ行く景色と視界が俺の意識を飛ばしていくまどろみの中で、目の前の男はフードを脱いだ。
お前は……。
助けてくれたんじゃないのか……?
尾藤……。




