Data 38. 苦渋の決断
Data 38. 苦渋の決断
熱砂流域地帯アスカアラム。
相変わらずの熱気だ。
ここは年中夏の盛りだな。
「あっついねー」
「もう少しでつくみたいですよ」
しかし、この世界は厳格なルールが敷かれているな。
様々な行動ができて自由度が高いのに、ルールによる制限が多い。
当然、アポなしの来訪は警戒されお偉い人との会話も難しいわけだ。
こんな風に俺たちは王様との謁見は叶わず、それなら暑さを凌げる場所で楽しもうとある場所へ向かっていた。
少し歩けば庶民用に作られた華やかなウォーターガーデンが、酷暑に悶える俺達を出迎えてくれた。
「プールだ~!」
Mariaがいの一番に水の中へと飛び込み、俺たちを呼ぶ。
続けてAkiさんがヒーくんの手を引いてダイブ。
輝く水しぶきにまみれて、俺たちは当の目的を忘れ笑い合っていた。
無邪気なペンギンのように戯れてしばらく。
大分満喫したなと俺たちが休憩していると、品格漂うお爺さんが現れた。
「皆様、少しお時間をよろしいでしょうか? 私は陛下の使いであります」
「陛下の?」
皆で顔を見合わせ、俺たちは話を聞くことに。
少し歩いて、王室ご用達のホテルへと到着した。
豪華なVIPルームのような場所へ通されて、使いのおじいさんは話し始めた。
「皆様、この度は私共の都合でこのような場所へ足をお運び頂き感謝いたします」
決まり文句のような謝罪と、応答の応酬を行い……。
おじいさんは本題へと入った。
「実はですな、さきほど貴方たちを警戒した理由は……他の求道者さまから怪しい接触がありましてな」
王城で謁見が叶わなかったのは、それが理由だったのか。
納得する俺達の反応には見向きもせず、警戒するように周囲を少し見渡しおじいさんは話を続けていく。
「街中で発する誘拐事件。 その解決を自分たちに任せて欲しいと彼らは言っていました」
「そして、解決の暁には自分たちと同盟を組んで欲しいと言い出しました」
同盟?
「自分たちを一国家として扱って欲しいという話です。 断れば、逢魔の災厄もどうなるかは分からないと……」
次の逢魔の災厄はこの地。
アスカアラムだ。
それに誘拐……。
怪しい点を感じたのかAkiさんも口を開く。
「まるで、自分たちなら確実に誘拐事件を解決できる。 そして、それ以上の事もできるというような口ぶりですね」
「はい、その通りでございます。 おそらく誘拐事件もその手のものが関わっているかと……。 この地へ来訪される求道者さまは少なく嘆いていたところ、皆様がお越しになったのです」
なるほど、それで俺たちに何とかして欲しいということか。
俺たちは皆で顔を見合わせた。
「分かりました。 できるだけやってみます。 王様へは?」
「もちろん。 早速、謁見へ向かいましょう」
ちゃんとした国からの依頼だと、証明してもらわないとな。
<Irukaさま。 どうかお気を付けください。 私の感知もヤツらには効きません>
リリス、心配しすぎだよ。
<……はい>
――――――
謁見の末、国からの依頼だという確認も取れ……。
まず俺たちは、誘拐事件の犯人を突き止めるために囮捜査を行う事になった。
「こういうのって憧れてたんです! ワタクシに任せてください!」
Akiさんの申し出もあり、俺たちは彼女へと囮役を任せる事に。
これはミッションだ。
本当に連れ去られるなんてことはないだろう。
俺たちがNPCへ触れられないのと同じで、NPCも俺たちへ触れることはできない。
だから誘拐なんてのもミッションだろう。
NPCが誘拐犯を求道者と思い込んでいるだけのミッションだ。
俺たちはそう結論を出した。
仮に連れ去られたとしても、それはミッションの仕様だろう。
「では、散歩してまいります」
Akiさんは囮になるため、暗い夜道を一人彷徨う。
そして、俺たちは建物の屋上から双眼鏡を用いてそれを伺っていた。
退屈だな。
Mariaも暇なのかうな垂れている。
「中々来ないねぇ」
「全くだ。 何か条件があるのかな」
溜息交じりに俺が声を発した時、ヒーくんが何かを発見した。
「二人とも! あれを……!」
俺たちは急いで彼の言う方向を双眼鏡で覗き込んだ。
するとAkiさんが謎の人物に後ろから口をふさがれそうになり、覆いかぶさられる瞬間だった。
「計画通り俺が行く。 二人は観察を……!」
もしもの時のために二人には標的やAkiさんを確認してもらう。
俺は二人の誘導に従い、攫われるAkiさんを付ける。
滅多なことなんてないと思うが……Akiさんが危ない場合は助太刀する予定だ。
『Akiちゃんからのチャット切られたよ! なんで!?』
『何か妙です。 話してるみたいですよ!』
どういうことだ……?
俺は全速力で屋根の上を駆けてAkiさんの側に辿り着いた。
そして、俺の目の前へと謎の男が立ちふさがる。
「Akiさん!」
「Irukaがきたか」
ヤツらと同じフードの男……。
この前も俺は名前を呼ばれたな。
認知されているのか。
「Akiさんから離れろ」
「おいおい、俺はなにもしてないぜ。 なぁAkiさん」
「はい……」
……襲われていたんじゃないのか?
「お前。 あまり俺たちを嗅ぎまわるな。 それと、こんなゲームやってもろくな事にならないぞ。 早くやめちまえ」
<Irukaさま。 ヤツの言う事を聞く必要はありません>
「あいにく、このゲームを始めてから調子がいいんだ」
「まぁ、そうだよな。 とりあえず、誰も彼もあまり信用しすぎるなよ」
こいつ、いつかリリスに言われたことと同じようなことを……。
<ここは引きましょう。 周囲に敵がいるやもしれません>
「そのサポートAIとかいうのもな」
……リリスを?
ヤツはウインドウを操作するような素振りを見せる。
「まてッ……!」
ログアウトしたか……。
「Akiさん、大丈夫かい?」
「は、はい……」
俺たちは泊っていたホテルへと再び集まっていた。
そしてAkiさんへ先ほどの男とのやり取りを尋ねる。
「Akiさん。 いったい、何があったんだ?」
彼女は不気味な出来事を思い返すように、ゆっくりと話し始めた。
「はい……口をふさがれそうになって、本当は囮のために捕まらないといけなかったのですが、私は条件反射で紙一重で躱してしまいました」
「でも、あのフードを被った存在は、警戒する私を宥めて何事もなかったかのように話し始めたんです」
「チャットを切るように言われて……そして、これを渡されたんです……」
彼女はそう言って、折りたたまれた紙を机に広げた。
これは……地図?
端には【カルデア】と書かれている。
カルデア……。
「誘拐された人たちが閉じ込められている拠点だと……言っていました」
あいつは、誘拐犯じゃないのか?
それに……あいつはきっと、プレイヤーだった……。
なら、なぜこれを知っていたんだ?
俺の頭が様々な疑問を生み出していく中、MariaがAkiさんへと不思議そうに尋ねる。
「でも、なんでチャット切ったの?」
「……それは貴方たち……Irukaさん達の素性を知っていたんです」
……。




