Data 37. 疼きそうな左眼
Data 37. 疼きそうな左眼
今日の学校も終わった。
これから奈瑠美さんに足を見てもらって、知り合いの道場へ行き……。
帰ってCSOにログインしよう。
今日は友人の宿祢は部活だし、真理愛や咲月はいつもの友人達とガールズトークだ。
俺は皆と挨拶を交わし、そそくさと一人帰路に就く事にした。
駅に着くと……
「あ、飛鳥馬くん!」
後ろから声をかけられた。
誰かに見られていると思っていたけど、最近のあの噂のせいだろうと放っておいたんだ。
振り返り確認してみれば、声の主は最近友人になった男子生徒だった。
「翔。 帰りはこっちなのか?」
「は、はい。 良ければ、一緒に帰りましょう」
「そっか、もちろん」
日暮 翔。
彼は過去を振り切り、しっかりと学校にきているみたいだ。
きっと克服したんだな、俺も見習おう。
そして同じ方向の電車へ乗り込み他愛もない雑談をしていた。
「飛鳥馬くん、本当にありがとう」
「ど、どうしたんだ急に」
「僕は、君の強さの秘密が分かった気がします。 それを見習えたから……こうして立ち直れたのも君のおかげです」
「う、うん」
静けさの澄み渡った電車内で、列車の駆動音と翔の声だけが響いていた。
人前でこんなストレートに言われるとなんだか恥ずかしいな。
話題を変えるか。
俺の最寄り駅と近いみたいだし……。
「そうだ。 翔」
「はい」
「道場に来ないか?」
――――――
俺はあの後、奈瑠美さんに翔を紹介して共に道場へ向かった。
リハビリがてらの軽い鍛錬の後に帰宅し……今しがたCSOへとログインしたわけだ。
「おいーっす」
ログインして早速、皆で購入したパーティーハウスへ向かうとSigさんとヒーくんの姿があった。
「やぁ、お邪魔しているよ」
「こんにちは、Sigさん」
MariaとAkiさんはまだ来ていないのか。
ヒーくんはどこか神妙な面持ちだ。
確か……俺がIrukaだという噂が流れた日からか、最近の彼はどこかソワソワした感じだ。
なんだろう、便秘だろうか?
CSOのフルダイブ中に便意を我慢してまでプレイする人が続出中らしい。
うんこを我慢しすぎて便秘になってしまう人も多いようだ。
そんな他愛もないことを考えていると、Sigさんは俺へと向き直り新たに口を開いた。
「ちょうど良かった。 この前の精霊を保護したという件でヒーくんにも話を聞いていたんだ」
あの時の精霊を狙っていた勢力。
やはりパンテオンの子羊なんだろうか?
「もしかして、あの謎の男たちの正体が分かったんですか?」
「それはまだ分かっていないんだ。 あの時、何か気になったことはないか?」
あの時、気になった事……。
「さぁ。 執拗に精霊を狙っていたってことですかね? あとは、謎の呪文で竜人族が動けなくなっていました」
「ふむ……精霊……いや、考えすぎか」
Sigさんはパンテオンの子羊や、Kazuraと名乗っていたあの謎の男の行方を追っているのか。
「アスカアラムでの件。 Kazuraについては本当に心当たりがないか?」
「あ、それで少し気になったんですけど」
Kazura……。
俺たちは熱砂地帯アスカアラムでやつにハメられた。
そして似たような出来事に心当たりがあるんだ。
βテスト時、Akiさんとヒーくんはパーティープレイヤーにハメられて、ゴブリンの拠点でやられてしまいデスペナルティを受けた。
あの件のあと、俺は思ったんだ……そいつとKazuraは同じヤツだったんじゃないか?
そして、あの夜対峙した不気味な男も……。
俺はその事をSigさんへと話した。
「確かに……どちらも魔物を利用し、操っているような印象を受けるな、災厄とも繋がりが……」
「何か分かりそうですか?」
まさか、二つの件は繋がっている……?
「現時点では何も……だが、良い情報だった。 感謝しよう」
俺たちはSigさんと別れ、パーティーハウスを出る彼女の背中を見送ると入れ替わりに挨拶を交わしてMariaとAkiさんが入ってきた。
「Sigさん最近忙しいみたいだねー」
「凛々しい大人の女性ですもの。 きっと、恋に仕事に、一時の営みも……あぁ、いけません……!」
何かを妄想しているAkiさんを放っておき、さて今日はどうするかな。
俺は魔術剣士、Akiさんは侍。
Mariaは既に魔法使いの上級職を持っている。
ヒーくんは、今は召喚士に慣れる事を優先し上級職業はゆっくり取るみたいだ。
当面の目標は皆、果たせているしこれといった予定はない。
皆で予定を考えているとMariaが何かを思いついたかのように切り出した。
「そういえば。 こんな噂、知ってる?」
「何の噂ですか……?」
Sigさんとの会話内容から緊張感を得ていたのか、ヒーくんは恐る恐るMariaへ尋ねた。
「闇の組織がCSOを拠点にしてるって噂」
「闇の組織……ですか?」
……。
「そうそう! 今まで噂でNPCを触れるとか、魔物をなんか操るとか、CSOアイテムの模造品が取引されてる、とか言われてたじゃん? それに闇の組織が関与してるって」
魔物を……。
「まゆつばもの、じゃないんでしょうか?」
Akiさんは不思議そうに、Mariaへと尋ねた。
当然の反応だ。
たかが一ゲームで闇の組織だなんて関わっているはずがないし、俺もそう思う。
「それが、謎のプレイヤーがアスカアラムの王様と接触したみたいな話でさ」
闇の組織として王様と接触か……思わず、疼いた左眼が暴れ出しそうになる。
まぁ、こういうゲームだからできることだよな。
「そういうロールプレイじゃないか? 本当にあったら面白いけどさ」
「でしょ? だから確かめに行こうよ!」
という訳で、今日はアスカアラムへ行く事になった。




