Data 35-B. 新たな開拓者 Part2
Data 35-B. 新たな開拓者 Part2
「ワタクシにやらせてもらえませんか?」
Akiさんはやけにやる氣に満ちているな。
俺やヒーくんのように、彼女にも何か思うところがあるんだろうか。
AkiさんはKazuraを見つめ、パーティーリーダーである彼の返答を待った。
「まぁ、いいだろう。 危なくなったら加勢するからな」
「ありがとうございます」
Akiさんは紅眼熊と向き合い、勝敗は一瞬で決した。
敵の突進に合わせて身をひねり交わし、一撃をたたき込む技。
それに武闘家の攻撃スキルを組み合わせ、紅眼熊は再起不能になった。
レッドアイをこうも簡単に……。
強すぎるな、これが神童か。
Kazuraさんたちもそれを見て驚いている。
「心臓部を強打し、一撃で再起不能にしたのか。 外部ではなく内部へと衝撃を与える技巧。 発勁か」
……今のを見抜いたのか?
Kazuraさんはかなりの慧眼だな。
「たまたまでございます。 それに、教科書通りの技ですから……」
確かに、今の紅眼熊は予想しやすい動きだった。
だが鬼気迫る状況で冷静さを保ち、的確な動きで的確な一撃を与える。
それが一番難しいんだ。
「謙遜する事ないさ。 たまげたよ。 君は怒らせないようにしよう」
皆Akiさんを称賛し照れる彼女をからかっていると、Kazuraさんが口を開いた。
「きな臭いな」
「何がですか?」
「今のレッドベアーだけなら、すぐに討伐されているはずだ」
確かにそうだ。
あの一体だけならば、プレイヤーではなくNPC冒険者でも対処できそうだ。
なのに、目撃例は一体のみでのクエスト要請……。
「もしかすると、やつらは徒党を組んで警戒されないように一体づつ姿を現していたのかもしれない」
「一体目が斥候……ということですか?」
一体目が陽動をし、こちらが手を焼きそうならば撤退して行商を見逃す。
すぐに壊滅できそうならチームで襲うといった感じか。
ある程度、行商人を通せば警戒もされなくて済む。
魔物の中でも知能が高い狡猾な判断だ。
「その通りだ。 これは思ったより大変そうだ。 気を引き締めよう」
……魔物にそんなことが可能なのか?
そんな疑念がよぎったが、俺はイルカ村を襲った強大なブラックウルフを思い出した。
まぁ、そんな事もあるか。
<Irukaさま。 お気をつけください。 この任務、何かおかしいです>
リリス、分かった。
彼女の言葉により身を引き締めているとパーティーリーダーのKazuraさんが先導してくれる。
「やつらの痕跡を辿ろう、群れを成している場所があるはずだ」
詳しいな、彼は。
しばらく歩くと、人目に付きにくい崖の下に紅眼熊の群れが蔓延っていた。
いわゆるモンスターハウスというやつに近しい光景だ。
「なんだ、これ……」
「これは、俺たちでも厳しいかもしれないな」
「そうですね。 どうしますか?」
「もちろん、こうさ」
……?
一瞬だけ、何が起こったのか分からず俺は思考が停止した。
「おわぁっ!!!」
Kazuraに背中を押され、俺は崖下に落ちた。
こりゃぁ、まずいですね。
レッドアイ達は一斉におれの方へと顔を向けて唸り出した。
流石にゲームオーバーか?
「ワタクシもいますよ」
「Akiさん!」
降りてきてくれたのか。
本当に彼女は、俺が危ない時にいつも手助けしてくれる。
頼りになる人だ。
ここを乗り越えると腹をくくった途端、上から声援のような挑発が飛んでくる。
「さ、どこまでできるか高みの見物と行こうか!」
このやろう。
乗り越えるだけじゃ足りないな。
後であいつの頬骨粉砕してやる。
「行くぞ!」
「御意……!」
Akiさんに声をかけ、俺たちは連携し紅眼熊を相手取っていく。
――――――
Akiは高揚していた。
これは今まで彼女が経験したネームドモンスターの討伐や逢魔の災厄よりも絶望的な状況だ。
しかし、武道の世界で憧れを持った存在と二人で手を取り合いこの状況に抗っている。
そして彼女は笑っていた。
まるで生を実感するように。
(これが……本当の実戦……)
強大な敵に囲まれ、教科書通りの動きでは対処できず、応用が求められる戦い。
(Irukaさんが引っ張ってくれる……)
応用の慣れないAkiにとって、Irukaがこちらを気にしながら連携を取ってくれるのは今の彼女にうってつけだった。
Akiはそれをみるみる吸収し、自分のものにしていく。
敵に追い詰められるほどに、息が一回切れるたびに、お互いの連携は研ぎ澄まされていく。
今までの戦いより絶望的なこの状況が、Akiをさらなる境地へと引き上げるトリガーとなっていたのだ。
そして、敷かれたレールから外れ、新たな道を切り開いたかのようにAkiの力が覚醒した。
(私は、強くなって翔を守りたい……!)
【プレイヤー:Akiが新たな職業、侍へ到達しました!】
――――――
「ナイスだ! Akiさん!」
いいぞ!
上級職業:侍。
強力な一撃と、堅牢な防御剣術を得意とするであろう剣士の上級職。
Akiさんの特性と今まで磨いてきた剣士と武闘家の職業が合わさって、新たな職業を開拓したんだ!
彼女の新たな力のおかげで、俺たちは何とか生き延びていた。
しかし……。
「まだまだ状況は絶望的か……」
俺は崖の上へ顔を向けて睨みつける。
……今のうちに笑っとけ、後でお前の携帯食に下剤混ぜてやるからな。
リリス、敵はあとどのくらいいるかわかるか?
<たくさんいますね。 後ろに上位種も控えています>
これは流石に終わったか?
「ッち……! 嗅ぎつけられたか」
「貴様、待てッ!!」
その声は……!
「二人ともよく頑張ったな。 私も混ぜてもらおう」
「Sigさん!」
ギルド【Walküre Tears】のリーダー。
Sigridさんだ!
なぜいるのか分からないが、ここまで心強い応援はない。
「後から、君たちの仲間も来る。 勝つぞ」
「「はい!」」
希望が見えてきた……!
こうして、俺たちはSigさんのパーティーメンバーや、Mariaとヒーくんの応援もあって窮地を切り抜けることができた。
皆はAkiさんの新職業に目を光らせている。
「Akiちゃんすっごーい! 新しい職業じゃん!」
「良かったね、Aki……!」
「皆さまのおかげです!」
Kazura。
あいつは……いったい……。
まさか、俺たちは最初からハメられていたのか?
俺が皆の輪から離れて思い詰めていると、凛としたエルフの女性騎士から声をかけられる。
Sigさんだ。
「お疲れ様。 危なかったな」
「Sigさん達のおかげですよ。 なぜここが?」
「Mariaから連絡が来たんだ。 彼女自身も良く分からないといった様子だったが……」
Mariaに謎の連絡が?
「Iruka。 それで、君たちと共にいたやつの名前は分かるか?」
「はい。 確かKazuraと名乗っていました」
「Kazuraか……やはりダメか」
プレイヤー検索?
俺もSigさんと同じくプレイヤー検索を行った。
「……」
胸の鼓動が早くなる感覚を憶えながらも、パーティーログや招待ログを確認していく。
……。
【Kazuraというプレイヤーは存在しません】
――――――
~学園交流掲示板~
CSOの上位ランキングプレイヤー
1:Irukaってやつがウチの生徒らしい
2:マジで? 逢魔の災厄でめっちゃ活躍した人でしょ?
3:Iruka……漢字に直したら……。
4:確かMariaって人と同じパーティーで……合点がいったわ。
しかもこの前の体育で、すごい動きだったぞ。 コーチに負けてたけど
5:学校でもあの二人最近仲良いよな。
そういうことか。
6:あんま個人特定する真似はやめようぜ。
ルール違反だろ。 掲示板も使えなくなる。
一応管理者に報告しとくわ。




