Data 35-A. 新たな開拓者 Part1
「前から気付いていたけど、Akiさんは本当に強いな」
「Irukaさまには及びませんわ」
CSOにあるサルバトーレの鍛錬場で、少人数の見物人から俺たちは拍手を送られる。
お互いの動きを確認したくて、俺たちは誰でも使える鍛錬場へ足を運んだ。
Akiさんはジョブチェンジし【武闘家】の動きの確認のため。
俺は彼女の力になりたいというのもあった…。
しかしそれだけではなく、学園で鷹司 巳葛という実力者に後れを取った事が心根に引っかかっていた。
目の前の彼女と手合わせすれば何か掴めると思ったんだ。
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Data 35-A. 新たな開拓者 Part1
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「Irukaさまはやっぱり、天満七星流を伝授されていますね」
「やっぱり、Akiさんもか」
天満七星流。
武に限らず、あらゆる道や術を取り入れて発展させてきた日本古武術の流派。
俺はその達人から教えを受けていた。
ちなみに、俺がお世話になっている奈瑠美さんはその姉弟子でもある。
……まてよ、Akiさんがアバターと同じような少女ならば。
俺はその存在に心当たりがある。
去年、若くして天満七星流の基礎免許皆伝に至った神童がいたという。
「まさか、Akiさんって」
「お恥ずかしい。 基礎を納めれば、誰でも可能ですわ……」
彼女は、花も恥じらう少女の様にかしこまった。
基礎免許皆伝とは、天満七星流はあらゆる道や術を取り入れ発展させるため終わりはない。
だからこそ、あらゆる道を納めるために基盤となる教えや道がある。
その基礎の教えを全て修了した者に、基礎免許皆伝が贈られるんだ。
俺は、途中でやめてしまったから……。
それに、誰でもできる事じゃない。
皆伝に至るまで並々ならぬ努力があったはずだ。
「いやいや、とんでもなくすごいよ」
「そんな……」
彼女はそこに触れられたくはないんだろうか。
俺が褒めるとコンプレックスを刺激されたように、物静かになってしまう。
「しかし、なんで武闘家に?」
「Irukaさまは、魔法剣士を目指して魔術剣士になっておられましたから」
そういえばそうだったな。
俺は最初は魔法剣士を目指していた。
だが、転職できたのは魔術剣士。
CSOはゲーム内の法則に限らず、俺たちの現実の行動や技術、振る舞いもスキルやアチーブメントに繋がる。
きっと、天満七星流の教えがそういう結果を生んだんだと思う。
俺の予想では、剣に文字を刻む行為に加えて、魔法ではなく魔術という系統へ舵を切ったからだろう。
「だから、私も。 新たな可能性を切り開きたく思ったのです。 希望の七流星のように……」
「……Akiさん、俺に気付いていたのか」
希望の七流星。
新たなものを取り入れこの流派を発展させてくれるだろう、という思いを込められて俺に与えられた二つ名だ。
今思うと恥ずかしくて仕方ない。
「私は基礎を納めても、自分なりに昇華する事が一切できませんでした。 だから、Irukaさまへ憧れているのです……」
「なんだかむずがゆいな。 Akiさんみたいにすごい人なら、きっとできるよ」
ちょうど、ある程度の運動の許可は下りたし、日課の走り込みも続けている。
俺もこれから、また武道を少し頑張ってみようかな。
Akiさんと改めて互いを認め合えたような氣分になっていると、俺たちのやり取りを見ていたプレイヤーが声をかけてきた。
「君たち、すごい体裁きだね。 現実でも何かしているのかい?」
「僅かに武術を嗜んでおります」
Akiさんは僅かどころじゃないだろう。
「良かったら俺たちとクエストにいかないか? 今日は友人が少なくて戦力不足でな」
「私は構いません、Irukaさまさえ良ければ」
そうだな。
今日は真理愛もヒーくんもログインが遅くなると言っていたし。
「俺も問題ないです、よろしく」
「俺は【Kazura】。 君たちがいれば百人力だな。 よろしく頼む」
俺たちは彼のパーティーと互いに自己紹介をして、握手を交わした。
Kazuraさん、彼は随分と気持ちの良い好青年だ。
彼が予定していたクエストを受けて、俺たちは炎暑酷暑の蔓延る地へと赴いていた。
ここは、【次の逢魔の災厄】が起こると指定されている場所。
次のというのは、逢魔の災厄は街を順番に狙ってくるイベントらしい。
この前の災厄は始まりの街であるクリスタウン。
「やはり、ここは熱いな。 まずは一杯やるか」
そして次は、この街。
月神を祀る熱砂流域地帯【アスカアラム】が災厄の的になるだろうと言われている。
広大な高原や砂漠の中にある、オアシスのような交易都市だ。
様々な都市部の間の地域に築き上げられており、交易の中継地点となっているため行商人が多く行き来している。
「暑いからこそ、ここの冷えた酒は格別だな」
砂漠の色合いに溶け込んだペルシャ式のような建造物が並んでいる。
その街並みを木々のカーテンや爽やかなせせらぎを成す水路が彩っていてクリスタウンとの文化の違いを感じさせる。
「おや? 君たちはお酒はいいのかい? 奢るぞ」
「俺たちはお酒は苦手なんですよ」
「ほう、未成年かな。 まぁ、気にしなくていい、誰にも好き嫌いはあるからな」
「助かります」
休憩も終わり、俺たちは目的地の荒野の山岳地帯へ。
ここに行商人を狙う大型の魔物が出るという。
その退治に赴いたわけだ。
目撃例は一体のみだが逃げ足が速いという。
「早速出たな。 下位のレッドアイだ」
紅眼熊。
アスカアラムで神聖視されている月神の使いと言われる月熊が魔物化したという存在だ。
魔物となり紅い眼になってしまったら、討伐して供養する習わしらしい。
中位にハイレッドアイ、上位にアークレッドアイが存在する。
これが行商人を襲っていた魔物なのか?
「ワタクシにやらせてもらえませんか?」
「ヤツは下位だが強力だぞ」
「お願いします」
Akiさんの瞳には熱い闘志が宿っていた。




