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Data 34. 改新の一撃



Data 34. 改新の一撃



 体育の時間。

 今回の体育は選択授業。

 学年合同で行われ、俺はとある男子生徒と組んで念入りなストレッチを行っていた。

 今日は俺も久々の体育だ。

 足が思うように動かないから危険という事で今まで見学になっていたからな。


「あの、入鹿イリシカくん。 あの時は本当にありがとう。 そしてごめんなさい」


 尾藤ビトウ レンに虐められていた生徒【日暮ヒグレ カケル】。

 彼は、始業式から学校に復帰して登校を続けているらしい。


「いいって、怪我は完治したんだ。 君が元気になって良かったよ」


「まだ、本気で走れないって聞きました。 僕のせいで……」


 日暮が本当に学校にこれなかった理由。

 それは、俺が彼を庇ったことが原因だ。

 俺はその後、尾藤に一杯食わされて馬から転落し骨折。


 日暮れは責任を感じ、学校へこれなくなったということらしかった。


「あれは俺が勝手にやったんだ。 気にしなくていいさ」


「……」


「翔って呼んでもいいか? 俺も飛鳥馬でいいよ」


「は、はい! よろしく……飛鳥馬くん」


「よろしく、翔」


 翔との因縁めいた関係も解消されて、どうにか仲良くできそうだ。


 さて、今日の体育は選択授業。

 剣道だ。


 本気で走り続けることはできなくても、一瞬の踏み込みなら俺も本気で脚を使える。

 怪我やイップスもだいぶ良くなっているから、参加の許可が下りたわけだ。


 ストレッチの時間が終わり生徒たちは先生たちの前に集合する。


「今日は特別コーチがいらしゃってるぞ。 さ、自己紹介を」


「ご紹介に預かりました。 鷹司タカツカサ 巳葛ミカドです。 ここの卒業生で、今は趣味でときどき剣道を教えています」


 爽やかな優男の自己紹介に、外から道場を眺めていた女子たちが黄色い歓声を撒き散らした。

 その中には真理愛も混ざっている。


 そして、そんな男を見てきたのは自分だと、体育教師は鼻高々に語り始めた。


巳葛ミカドは、俺が見てきた中で一番素質がある。 個人戦に出てれば、全国もいいとこまで行ったと思うんだがなぁ」


「よしてください。 全国じゃ僕も勝ち抜くには厳しいでしょうね」


「ほらな、勝てないとは言わないんだよ」


 彼の目まぐるしい活躍で強敵を倒し、団体戦はかなりいいとこまで行って敗退したらしい。

 確かに、彼は隠してるかもしれないけど佇まいが達人のそれだ。

 幼いころから染みついた癖で動きを確認していると、彼と目が合ったような気がした。


 そして自己紹介を終えて授業に移っていく。

 まず、各々ペアで基礎練習だ。

 各ペアを先生や鷹司タカツカサコーチが、順番に見て回っている。


 その間、俺は翔へと基本的な体の使い方を教えていた。


「いいぞ。 慣れれば動きも鋭くなってくる。 まずは反復練習の繰り返しだ」


「飛鳥馬くん……やっぱりあの噂は、本当なんですか?」


 俺が武道の心得があるのが不思議なのか、彼は尾藤と俺の噂を確認してくる。

 殴りかかる尾藤を捌いていた話か。


「あぁ、まぁ……あの時はたまたまだ」


 今思い返せば、あの時の尾藤は何かに執り付かれたようだった。

 一発目の大振りをいなして、それからは明らかにおかしな動きだった。

 再び俺へと殴り掛かってきたが、あいつの目の先に見えていた存在は、俺ではないような……。

 そう感じたんだ。

 

 だから、俺が対処できたのもたまたまだ。


「翔はなんで剣道を?」


「それは……僕の道標がものすごく強い剣士なんです」


「へー。 見てみたいな」


 翔もどこかで納得できる自分になろうと頑張っているんだな。

 俺も前向きに、この足と向き合おう。


 翔に触発されていると、鷹司タカツカサ 巳葛ミカドコーチが俺たちの元へ来た。


「君……さっきから良い動きをするが、何かやっているね」


「日本古武道を少々……」


「ふむ、面白いな。 先生!」


 鷹司タカツカサコーチは何かをひらめき、先生へと相談している。


 そんなこんなを経て授業の後半。

 突発のエキシビションマッチが行われることに。


「これは軽い手合わせみたいなものだ。 怪我しないようにな」


 先生はそういって、ある生徒を前に立たせた。


「尾藤。 巳葛ミカドの武道精神を少し分けて貰え」


「……」


 尾藤はほんの少し嫌そうな顔をして、何も答えず淡々と前に立った。

 ……まるで身体に染みついた動きの様に。


 両者挨拶を交わし、竹刀を交えていく。

 尾藤は学校内でのでかい態度からは想像もつかないほど、慎重に、そして警戒して動いている。


 これは……。

 武道の心得がある者なら分かると思うが、尾藤は心のそこで怯えているように見えた。


 そして、お遊びの様に技を見せた鷹司タカツカサコーチによって決着がついた。


「ありがとう。 またやろう」


「ありがとうございました……」


 ……。

 そして、もう授業も終わるのかと思った瞬間、先生が俺を指名した。


「さ、次は飛鳥馬の番だな」


「俺ですか?」


 全く、この人は。

 俺が入学する時もスカウトしてきたが、勝手に決めちゃって厚かましいというかなんというか。


 俺は先ほどの尾藤の様にしぶしぶと鷹司タカツカサコーチの前に立った。


「よろしく、遠慮なく打ち込んでくれ」


「よろしくお願いします」


 とは言ってもな。

 これは軽い組手だし……。


「やる気がないみたいだな。 なら、君の本気を引き出そう」


 彼はそう言って、挑発しおちょくるように俺へと竹刀を振る。

 俺も負けん気は少しはある方だから、なんか悔しくなってきたな。


 それに、さっきの……なんで俺は真理愛の事を。

 雑念を振り払い、俺は相手の竹刀を弾き返した。


 ドウ


 竹刀を弾かれた彼は、俺のドウを足裁きで回避し俺の脳天を狙ってくる。


メン!!!」


 剣を叩き落とす。


 小手コテ


 俺は側面へと躱し、小手を狙った。

 しかし、彼はそれを予想していたように俺へとドウを放つ。


ドウ!!!」


 剣筋が、見えない。


 ……。


「勝負あり!」


 先生が声高らかに告げて、勝負は終わった。

 鷹司タカツカサコーチが俺へとドウを寸止めした景色に、生徒たちは熱狂的な歓声を上げる。


 俺の負けか。


「いやぁ、強いな君は。 想像以上だ」


「貴方こそ、手加減していたでしょう」


「手加減じゃないさ。 君と相打ちになるリスクを減らしただけだ、真剣なら互いに死んでいたろうね」


 俺が最後に敵わないと判断して、相打ちを狙っていたのもお見通しだった。

 喝采の拍手を受けていると生徒の一人が質問を告げる。


「コーチ。 入鹿くんは、声を上げていませんでした。 あれはいいんですか?」


「あぁ。 本来は声を上げないといけないなんて事はないんだ」


 そう、剣道は攻撃時に声を上げなければ一本の判定がポイントにならない事がある。

 だから皆、声を上げているだけだ。


「卑怯なんてことは全くないから、彼を非難しないでくれ。 それに、彼は剣道ではなく日本古武術の使い手なんだ」


「おいおい、まじかよ」 「剣道じゃないのか……!」 


「今回は僕が得意なルールに付き合ってもらったんだ。 彼に拍手を!」


 よく言う。

 剣道以外の技術を持っているのは、彼も同じだ。

 きっと……本気の斬り合いなら、殺されていたのは俺の方だ……。


 彼の技術や底知れない本性を垣間見た気がして、俺の背中へは微かな悪寒が走っていた。



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