Data 33. 勇気の芽
Data 33. 勇気の芽
「ふーん。 どうだか……」
新たな精霊の保護のためにやってきたこと。
小竜と敵対する気はなく、ただ戯れていただけだったこと。
もちろん彼女とも敵対する気はないこと。
訝しげな視線を向ける、ドラゴン少女へと。
俺たちは事のあらましを説明した。
「そう言って、私たちを騙す気なんでしょ」
「そんな事ないですよ……! Irukaくん、どうしましょう」
リリス。
なんとかならないか?
<少々お待ちください>
……30秒後。
「た、大変失礼しました。 あなたがたが使いの方だったんですね」
なんだ、この豹変ぶりは。
「私は【リーリム】と申します。 さ、こちらへ」
冷や汗を垂らしながら、彼女は俺達を見つめ。
先を歩き出した。
な、なにをしたんだ。
<少々お説教を。 貴方への敬意が足りていませんでしたので>
俺に何か言っていたのか?
<貴方が気にする必要はございません>
……リリスのこの俺への忠誠心は、いったいどこからくるのか。
「ここよ」
リーリムの案内で道を行くと、祭祀場のような様相をした祠へと到着した。
周囲の竜人たちは、旅人への挨拶なのか俺達へ十字を切っている。
さっきの村でもやっていたな。
逢魔の災厄を防ぐ冒険者に対する儀礼だろうか。
「ここは、里なのか?」
「違うわよ。 祭祀にかかわる竜人だけ、ここに駐屯する事があるのよ」
俺もその挨拶を返そうとするが、リーリムに止められてしまう。
「早く、行くわよ」
「あぁ」
<Irukaさま! 感知をすり抜けていた存在が中にいます!>
長い階段を登り祠へと辿り着くと、リーリムは突然声を荒げた。
「封印が破られてる……! ちょっと、誰よアンタ!!」
「っち、もうご到着か」
……!
フードを深くかぶり素顔を隠した男。
こいつを見た瞬間、あの日の夜が頭をよぎった。
こいつは、あいつの仲間か?
その男は懐から何かを取り出し、呪文を唱えた。
すると、リーリムは動きが硬直してしまう。
「くそ、こんなんで……」
男は卵の入った鞄を猛禽類の魔物へと持たせ、飛翔させた。
させるか……!
「させん」
魔物を止めようとしたが、謎の男に足止めされてしまった。
こいつ、できる……!
卵を追いながら相手にするのは難しいだろう。
「い、Irukaくん!」
「ヒーくん! ヤツを追ってくれ……!」
きっと、あの卵が精霊の元だ。
このままでは、また何か意図しない事件が起こるかもしれない。
そして、こいつらの目的を阻止すれば。
今まで不明瞭だった景色の先が、見える。
そんな気がするんだ。
「お前、Irukaか。 面倒だな」
「……パンテオンの子羊か?」
「……」
答えるわけないか。
――――――
「ま、まって!」
Higurashiは鳥の魔物を追い走っていた。
精霊の卵を取り返すために。
やがて、その鳥は森の中へ入り一人の人間の腕に止まった。
「ぷ、プレイヤーですか……?」
「……」
「た、卵を帰してください! 大事なものなんです!」
「お前は、どこまで知っている……?」
「え……?」
Higurashiは威圧感の籠る問いに気後れし、後ずさる。
そして、その問いの意味も、彼には何一つ理解する事はできなかった。
訳も分からぬまま謎の存在と見つめ合い、コンマの時間が秒へと変わる瞬間。
鞄の中の卵が光り出した。
「……!?」
「わぅん!」
狼のような存在が卵から生まれた。
僅かな瞬間、Higurashiの瞳と子狼の眼差しが交差していた。
「生まれたか。 手間だが、まぁいい」
謎の存在は鞄へと押し込むように狼を入れる。
産まれたばかりの狼は、助けを求めるように産声を上げていた。
その時、Higurashiの足はすくみ、誰も助けてくれなかった日々が脳裏へと描き出される。
(ぼ、僕は。 あの時、貰った勇気を、捨てたくない!)
最後に行った学校での一日を思い返し、それが彼の勇気へと変わった。
――――――
子狼を守るヒーくんへと刃が振り下ろされる。
くらえっ!
俺は投擲スキルを用いて剣を投げた。
「っ……!?」
動作中だってのに、あれを避けるか。
謎の男はログアウトしたのか、その場から即座に消えていった。
俺たちはヒーくんへと駆け寄って、共に来たリーリムが横たわる彼を抱き起こしていた。
「メガネ! アンタ大丈夫!?」
「すみません、お役に立ちませんでした……」
「ばか、上出来よ!」
子狼は心配そうに、自分を守ってくれた存在を舐めていた。
ヒーくん、乗り越えたんだな。
ボロボロな彼の表情は、今までで一番生きている顔をしていた。




