Data 32. 極秘の頼み事?
「やった! アルン!」
ヒーくんとの連携で、序盤の敵を倒した蒼き子狼、名を【アルン】。
嬉しそうに尻尾を振り回す彼は、前足を広げお腹を見せている。
「アルくんカワイイね~」
「癒されますわ……!」
MariaとAkiさんは共にアルを撫でまわしている。
この子狼とヒーくんは良き相棒となれそうだ。
彼は一旦、吟遊詩人をやめて召喚士へと転職していた。
その件を経て、彼も今まで持てなかった勇気がもてたみたいだ。
そしてその物語は、夏休みが明ける1日前の出来事だった。
――――――
Data 32. 極秘の頼み事?
――――――
<貴方に、お願いがあります>
「リリス、どうしたんだ?」
<この前の逢魔の災厄から、新たな精霊が生まれました>
逢魔の災厄。
多くの魔物が押し寄せる災害。
その影響で、強大な精霊が魔物となってしまうこともあるらしい。
精霊は本来、自然や動物を守るための存在、そして自然を崇拝する人間とも共存し守っていたという。
そして、魔物となった精霊が討たれた時……また新たな精霊が生まれる。
それが、この世界の自然の循環となっているらしい。
「強大な精霊が、魔物に……」
<私はここを離れることができません。 ですから>
リリスは、古代都市ティルナノーグを守っている。
それで俺に頼みごとをということか。
<貴方に、精霊を保護して欲しいのです>
「何かのクエスト、ミッションなのか?」
<……はい>
……まぁ、いいか。
――――――
俺はリリスとの会話を思い返しながら、一人林道を行く。
イルカ村のかなり先の森を抜けた場所に、その新たな精霊はいるという。
<お気づきですか?>
「もちろん」
付けられているな。
雑な尾行だ。
パンテオンの子羊の下っ端辺りが、俺がリリスに何かを任されているという情報を掴んだのか?
「……」
俺は巨木を盾に敵の視界から隠れたであろう瞬間、その巨木の枝へ飛び乗った。
もしこのゲーム内で、何者かが悪事を働いているなら、なぜ俺を狙う。
あの日の……βテストの時のイルカ村での夜の事を、根に持っているのか?
俺は尾行者が木の下に来るのを待った。
「あれ? どこに……?」
フードを被るそいつの姿が現れた瞬間。
俺は上から飛び降り、そいつを地へと組み伏せた。
「うわっ……!」
「なんで俺を狙う。 目的はなんなんだ」
「ぼ、僕です! フードを取って!」
……俺は促されるままに、尾行者のフードを取った。
その素顔を見た俺は、あわてて彼から退いた。
「すまない、ヒーくん。 いったい、どうしたんだ?」
「僕の方こそ……ごめんなさい。 Irukaくんの強さの秘密を知りたくて、ついてきてしまったんです」
皆ログアウトしたかと思ったんだが、油断していたな。
ヒーくんは俺がログインして、一人の間に何をしているか調べようと思ったわけか。
彼は、逢魔の災厄から、自分は役に立っていないんじゃないかと思い詰めていた。
もちろんそんな事はない。
彼のバフや観察眼がなかったら俺たちは壊滅していた場面も多い。
だが彼の中では、ずっと後衛にいてAkiさんや俺に守ってもらい、真理愛に敵を倒してもらう状況を気にしていて。
そんな自分を変えたいと言っていた。
「今日、その一歩を踏み出さなきゃ、僕は……ずっとこのままなんじゃないかってそう思ってしまって……」
彼は以前、言っていたな。
あまり学校で上手くいってないと……。
夏休み最終日の今日。
何も変えられない事を彼は焦っていたのかもしれない。
「それじゃ、一緒に行こう」
「はい……!」
森林を抜けて、最寄りの村へ着いた。
リリス、精霊はどこにいるんだ?
<この村の先にある荒野です。 そこで生まれ保護されているはずです>
保護……誰にだ?
リリスは問いに答えることもなく。
そのまま歩いていると、おじいさんの村人から声をかけられた。
「おや、旅人さんかね。 今日はよく見るねぇ」
「こんにちは、この村は精霊を祀っていると聞きましたが。 精霊は生まれ変わったんでしょうか?」
「そうだねぇ。 もうすぐ生まれ変わると思うよ。 この前の逢魔の災厄でここが無事だったのも精霊様のおかげじゃよ」
「そうですか……ありがとうございます」
「冒険者さまに幸あれ」
十字を切られて見送られた俺たちは、リリスの言う荒野を目指した。
森を抜けたその場所には、ところどころに木が茂り岩山や洞窟が点在している。
「荒野はやっぱり、こうやな」
「……あはは」
……先へ進むか。
しばらく歩くと、何か鳥のようなものがときたま空を飛んでいる事に気づく。
鳥にしてはやけにでかいな。
ボーっと眺めていると、それはこちらへ近づいてくる。
「で、でかいな」
「……すごい! あれは!」
竜だ。
大きい翼に、煌びやかな鱗。
インド象くらいの大きさだろうか?
よく想像されるファンタジーの竜よりは小さいかもしれない。
だが間近で見るとすごい迫力だ。
でかいトカゲがいきなり空飛んで来たらびっくりするようなものだろう。
<そんなものと我々を一緒にしないでください>
ご、ごめん。
<この子はまだ幼体ですね。 好奇心が旺盛なんでしょう。 むやみに人を襲う事は、問題児を覗いてありません>
た、たまにはあるのか。
「こんにちは」
俺は挨拶をして、顔を近づけてくる小竜の下あごを撫でた。
すると、小竜は気持ちよさそうにして猫の様に喉を鳴らした。
ははは、可愛いやつだ。
「す、すごい」
「ヒーくんもやってみなよ、この子はきっと優しい子だ」
彼は恐る恐る手を出した。
小竜は彼の手に自ら下あごで触れた。
「わぁ……すごい……!」
俺達はめったにない経験に心を躍らせていた。
VRMMOは夢があるな。
こんな風に架空の生き物とも触れ合えるなんて。
小竜との戯れを楽しんでいると、遠くから何かが走ってくる。
「コラーッ!! 離れなさい!!」
小竜はその声に驚き、どこかへと飛んでいった。
「ちょっと、アンタ達。 どっからきたのよ」
俺達の目の前に立ったのは、活発な中学生くらいの風貌の女の子。
しかし、彼女の頭の側面とお尻には……。
リリスと同じように角と尻尾が生えていた。
「竜人ですね。 始めて見ました……!」
「それより、アンタ達。 あの子を攫おうしてたんじゃないでしょうね!」
「ご、誤解ですよ!」
「ふーん。 どうだか……」




