Data 31. 始業式開けの千変万化
夏休みが明けた。
とうとうこの日が来てしまったか。
始業式の9月1日。
校長先生が全校生徒の前で熱い陽射しに目を細め恒例の演説が始まった。
……。
アナートマンで体験した新規コンテンツ。
それは上級モンスターやボスクラスの魔物との模擬戦を電脳都市サルバトーレで行えるというものだった。
定期的に開催予定のイベント【逢魔の災厄】を戦い抜くために利用して欲しいとのことだ。
模擬戦はプレイヤースキルの向上、そしてスキルやアチーブメントの獲得に繋がったり……する予定らしい。
そして、リリスの件。
あれを武内さんへと聞きそびれていた。
気になって開発会社のアナートマンへ連絡したけど……管理AIのエラーです。
という旨の返答がきた。
エラーならばきっと、リリスが俺だけを呼ぶというようなおかしな事はないだろう。
「というワケでね。 夏休みで得た経験を活かし、これからも励んでください」
今日のために考えたであろう残暑見舞いのようなスピーチを聞きながら、俺は先日の見学ツアーを思い起こしていた。
スピーチも終わり、俺たちは教室へ戻り学校での行程を終えた。
時刻は11:00。
明日から、通常授業か。
――――――
Data 31. 始業式開けの千変万
――――――
「飛鳥馬っ! 今日も夜するでしょ!」
「あぁ。 いつも通りに」
……なんだ。
ざわついていた教室が静まり返った。
俺が彼女と、真理愛と話すのがそんなに意外だったろうか?
「今日もいっぱい頑張ろうね! 私、めちゃ氣合い入ってっからさ!」
「これは、ぐっすり眠れなさそうだ」
真理愛はアナートマンへ見学して、武内さんに気に入られてからモチベーションが高いな。
それより……。
おいおい。
皆はなんで、俺達を見てるんだ?
「えっーー!?」 「おいおいどういうこった!」
「宇佐美さんってやっぱ大胆なんだ!」 「夜も眠れないほど……」
「へ? ち、違うって!! 誤解だからー!!!」
夏休みボケしていた俺の頭もだんだん冴え渡り、ようやく状況を理解した。
つまり、これは……おかしな誤解を生んでしまったということだな。
これまた暑さにやられたような高校生らしい会話が飛び交う中、真理愛の友人の一人が皆を宥めた。
「皆、動揺しすぎ。 二人はゲームしてるだけだっての」
「なーんだ、期待して損した」 「そんなこったろうと思ったわ」
「まりまりにかぎってありえないか!」 「宇佐美さん、ああ見えて清楚だもんね」
誤解は解けて、皆は落ち着きを取り戻した。
全く、冷や汗で溺れ死ぬかと思ったわ。
「まったくもー……でさ、飛鳥馬もこれから遊びいこうよ。 後でスーくんもくるよ」
「俺は馬の様子見てからだけどな」
宿祢も一緒か。
俺も特に予定はないしな。
「俺も行くよ」
友人の【倉橋 宿祢】を待つために、俺たちは学食で時間を潰すことになった。
ついでにランチもそこで取るらしい。
「なんか意外、飛鳥馬くんってさ。 あまり人と関わらないかと思ってた」
「俺も、少しは前向きになったんだ」
真理愛の友人である【烏丸 咲月】さん。
彼女はクールで人間の本質を見抜くような目つきをしている。
その強き女性を連想させる風貌から、他の生徒から恐れられているように感じるけど……。
クラスメイトは皆、彼女の正義感が強いことを知っている。
元々、真理愛と彼女は、不良生徒の尾藤 鎌たちのグループに属していた。
いじめられていた生徒【日暮 翔】。
尾藤が彼にちょっかいをかけるのを止めていたりしたが、自分たちまで同じように見られるのが嫌で真理愛と彼女はそのグループから離れていった。
その後、尾藤たちのそれはエスカレートしていき……今ではこの通り、という経緯があったはずだ。
「それにしても、今日は他の友達は用事かい?」
「正直に言うとさ、飛鳥馬くんがくるって言ったら他の子たちはやめとくって」
お、俺のせいか……これは、申し訳ないことをした。
「アンタが気にする必要ないでしょ。 鎌たちに目付けられるの怖がってるんだよ」
「烏丸さんは、やっぱり優しいなぁ」
「べ、別に優しくしてるわけじゃないって。 当たり前でしょ。 あと、私も咲月でいいから」
「俺も、飛鳥馬でいいよ。 よろしく」
俺達が親睦を深めていると、真理愛が料理をもってニコニコして戻ってきた。
「咲月って優しいけど素直じゃないからさ、飛鳥馬も面倒見てあげてね」
「あぁ、もちろん」
「なんで私が見られる側になってんだか」
俺達は昼食を取り、宿祢を待っていた。
すると、予期せぬ来客と遭遇した。
「おっ、まりまりじゃーん! 俺達と遊びいこうぜ!」
尾藤 鎌とその取り巻き達か。
相変わらず騒々しいやつらだ。
「私は、咲月たちと遊ぶから。 また今度ね~」
「つれねぇなぁ。 咲月もいいだろ?」
……男子生徒の一人が、咲月の首に腕を回した。
「ちょっとやめてよ」
先ほど穏やかな目をしていた咲月を見ていたからか、割と本気で嫌がってるのが分かる。
「やめろって、嫌がってるし」
「あ? お前、また足折ってやろうか?」
なんだこいつ。
鼻の穴に唐辛子突っ込んだろか。
「だってさ尾藤。 こいつに出来ると思うか?」
「はぁ? 何言ってんのコイツ? なめてんの?」
……。
「……やめろ、もう行くぞ」
「おい、鎌!」
尾藤は俺達を小さく横目で見て、歩いていった。
俺達に絡んでいた取り巻きの一人は、俺を一瞥して尾藤についていく。
この前の謝罪が本音か少し疑っていたけど、停学中に尾藤は反省していたみたいだな……。
「ふぅ~ヒヤヒヤしたよ。 飛鳥馬ありがとね」
「飛鳥馬のあの話……やっぱホントなんだ」
俺が骨折しながら殴りかかる尾藤を捌いていた話。
宿祢が俺は悪くない事を知ってもらうため、クラスの皆へ話していたものだ。
「飛鳥馬、ありがと。 けどさ、自分が悪者になる様な振る舞いはもうしなくていいよ」
取り巻きのヘイトが俺へと向くようにしたことは、咲月にはお見通しだったようだ。
鋭かった咲月の目は優しいモノへと変わり、俺へと微笑んでくれた。
真理愛は……
「え? 今のってそういうことなの?」
俺の行いに気づけなかったようだ。
ま、そういうこともあるよな。
咲月はきっと、人一倍周りの事をよく見ているんだ。
「飛鳥馬って、そういうとこあるような気がしてたんだよね」
「なんで咲月の方が詳しそうなのー!?」
そうして、俺たちは合流した宿祢と共に街へと繰り出した。
「驚いた、咲月もCSOやってるのか」
「まぁ、少しね。 兄貴がそういうの好きだから」
なるほど、兄貴がやっていない間に借りてコツコツプレイしているらしい。
βテストは持ち主以外の利用に厳しかったが、正式時には一つのデバイスでも別の個人アカウントを利用できるようになったんだ。
それでか。
それを聞いて真理愛は少し悲しそうに、口をとがらせる。
「一緒にやろーって言ってるけど、全然アカウント教えてくれなくてさぁ。 私じゃついていけないしって……」
「咲月となら、俺も歓迎だよ」
「じゃ、ちょっと真面目に考えとく……」
Akiさんやヒーくんも歓迎してくれるはずだ。
「なにそれ! 私が誘っても揺らがなかったのに~!」
真理愛は悔しそうに咲月へと抱き着いた。
女子はこういうスキンシップが多いんだな。
そうして時は進み、先ほど学食で尾藤と出会った事を宿祢へと話すと、彼は新たな話題を持ち出した。
バッティングセンターで真理愛と咲月が意気揚々とバットを振り、ボールを夕焼け空に染まりそうなネットへ打ち返すのを眺めながらも。
俺は宿祢の話を聞いていた。
「そういえばさ、日暮 翔。 学校に来ていたんだってよ」
「日暮は尾藤と鉢合わせたけど、尾藤は目を背ける日暮に対して、一言謝罪してそのまま歩いてったって話だぜ」
「クラスでは歓迎されて、日暮は上手くやっていけそうだとよ」
……そうか、良かった。
彼にとって相当な勇気がいることだったろう。
とりあえず、踏み出した一歩は報われたようでなによりだ。
それに、先ほどのあいつの態度。
「そうか、尾藤も反省したのかもな」
「……」
ホームランの的へとヒットし、喜ぶ真理愛の声は日暮の空を祝っているように聞こえた。
その光景へ混ざろうと、宿祢は缶ジュースを飲みほして立ち上がった。
「尾藤には、気を付けろよ」




