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Data 30. 捕らえられた特異点



Data 30. 捕らえられた特異点



 未開の技術を築き上げた異端の天才、武内タケウチ 弓照ユミテルさん。

 CSO開発会社であるアナートマンの社内で、俺はMariaと共に彼の行く道を着いていく。


 手違いで見学ツアーの日程がズレたが、彼の好意で俺たちは社内を見学。

 そして新規コンテンツのテストプレイへと参加させてもらえる事になった。


「ホントにすまないね。 ワタシからもオフィスへ連絡していたんだが、上手く伝わってなかったみたいだ」


「いえ。 ご多忙の中、武内さんに直接案内してもらえるなんて……」


「そうかしこまらないでくれよ。 ワタシはIruka、いや。 飛鳥馬くん。 そして君たちのパーティーを高く評価しているんだ」


 彼は俺と、そしてMariaを見てそう言った。


「私たちをですか? すごい! 武内さんからも認知されてるんだ! ね、飛鳥馬!」


「あぁ、少しびっくりした」


 武内さんが直接客人を迎えるのは、やはり珍しくて楽しいのか。

 テレビのインタビューの時とは違う、僅かに弾んだ声のトーンで俺達を案内してくれる。


「どうかな? ここは夢の世界を観測するチームが働いている場所だ」


 不思議だ。

 ゲーム会社と言えば、パソコンが並びデスク作業が大半をしめるだろうに。

 ここの研究チームはパソコン以外の電子機器がたくさん活用されている。


「君たちも知っている通り、このゲームは人々の深層意識にある夢へと接続したもの」


「しかし、そこで自分たちの特性や技術。 世界の法則を駆使している人間はそう多くない」


「君らのパーティーは、自然とそれを行っているんだ。 その夢の世界で生きているように」


 ……俺たちは、ただ。

 ゲームを楽しんでいるだけ。

 彼の言うような事を気にしたことはなかった。


 真理愛と同じように、俺は口を噤んで研究チームの様子を眺めていた。


「現実でできる事は夢でできなかったり、その逆もまた……」


「まるで、自分の存在がどこにあっても変わらないように振舞える存在は多くない」


「それは、この世界でも同じだ。 秩序と混沌、社会と道徳、物質と精神」


「だから、人は仮面を被る。 この社会で対応して生きるために、本当の自分を隠して、騙し続けて生きる事を強いられているんだ」


「ワタシは、心から自分が自分のままでいる世界。 それを皆へと知って欲しいという思いもあって、このゲームを完成させた」


「現実とまやかしの境い目は、君たちはどこにあると思う?」


 あの夢の世界で、このゲームで味わえる生の実感。

 自分が心から生きていると感じるのは、そういったしがらみから解き放たれていたから……だったんだろうか。


 彼の言葉への回答を模索していると、一早く考えがまとまったのか、真理愛は口を開いた。


「私は……どこにもないと思います」


「それは、どうしてかな?」


「世界がどこでも。 人と人の繋がりや心は、消えるものじゃないから……それを感じる事ができれば、どこだってそれは自分にとってのリアルなんだって……」


 自分で言って少し恥ずかしくなったのか、真理愛は場の空気を誤魔化そうとしていた。


「な、なんてね! 柄にもなく真面目もーどになっちゃったかも」


「いや、素晴らしい答えだ。 それこそ、私が求めていた回答の一つだよ」


 ……。


「飛鳥馬くん。 君はどうかな?」


 あの場所で感じる、俺の……あの生きているという実感は……本物だ。


「生きている」


「世間で噂になっていたあの夢の世界に降り立って、初めて俺はそう感じたんです」


「この社会で自分を騙しながら生きてきて、今まで感じる事ができなかった本物の感覚」


「辛くても苦しくても、楽しくても、美味しくても、綺麗でも……」


「正真正銘、夢の世界だけど、俺が感じた心は本物だったんです」


「そしてこのゲームを始めて、仲間と出会って楽しいという気持ちも」


「だから結局は俺も……Mariaと同じ感じです」


 ……真面目に語りすぎたか?


「君たちは本当に……素晴らしい……」


 彼の瞳の奥では、今まで観測しえなかった恒星をみつけたように輝きに満ちていた。

 社交辞令……じゃないんだよな?


「ワタシたちはゲーム内のシステムデータだけではなく、プレイヤーの感情の動きや、人との関わり合い、振る舞いも研究しているんだ」


「そうだったんですか……」


 奈瑠美さんが以前に言っていたVRMMOの社会貢献の深さ……。

 このゲームのデータもとることでそういったものに役立てているんだろうな。


「ワタシは君たちが誇らしいよ。 これからも是非、このゲームをプレイしてくれたまえ」


「もちろんですよ! こんな楽しいゲーム他に知らないし。 ね、飛鳥馬!」


「俺もそう思います」


 そうして、俺たちは他の場所を見学させてもらい、カフェで昼食を取り。

 武内さんが観察する中で、新規コンテンツのテストを終えた。


 気付けば、もう17時を過ぎていた。


「さて、タクシーを手配したからそれに乗って帰るといい。 またテストプレイの時に呼ぶかもしれないから、その時はAkiさんやHigurashiさんも連れてきてくれたまえ」


 そう言われて、俺たちは施設の外でタクシーを待っていた。


「なんか、すごかったね~。 ゲーム会社って皆こんな感じなのかな?」


「たぶんアナートマンは特殊だと思うよ」


「だよね。 なんかおかしな機械とかたくさんあったし……」


 ……なんだ、あいつ。

 屋上の人影が、俺達を見ているような気がした。


「どうしたの?」


「……あれは」


 俺が指をさすと、そいつはすぐに物陰に隠れた。

 人……いや、カラスだったか?

 太陽の逆光が視界を遮り、遠くてよく見えない……。


「なになに?」


「いや、気のせいだったみたいだ」


 まぁ、よくあることだよな。



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