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Data 29. すれ違いの残暑見舞い



 8月30日。


 夏休みを一日残して、俺は兵庫県へと向かう電車に揺られていた。

 移り行く街と森の景色はまるで、時代や世界の切り替わりを目にしているようだ。


 あの運営からの招待状。

 俺はパーティーメンバーと一緒に行けないなら、見学ツアーへ行くつもりはなかった。

 しかし皆へと相談した結果、俺はMariaと共に参加する事になり、こうして県外へと赴いている。 


 Akiさんとヒーくんは……またの機会があればという事で、今回は見送りとなった。

 彼らには彼らの事情があるんだろう。

 残念だけど、いつか彼らともそういった機会があることを願おう。


 待ち合わせ場所の駅に着いた。

 ここから歩いて、開発会社の【アナートマン】へと向かう予定だ。

 それらしき人がいないか辺りを見回すが……時間はまだだ。

 急かすのも悪い。

 とりあえず待ち合わせ時間になって少ししたら、到着の連絡をするか。



――――――


Data 29. すれ違いの残暑見舞い


――――――



「あれ! 飛鳥馬くん!」


「宇佐美さん。 偶然だね」


 約5分後。

 クラスメイトの宇佐美さんと遭遇した。


「ホント! なんでここにいるの!」


「ちょっとこれから用事があるんだ」


「そっかぁ。 お話ししたいけど、私も用事あるんだよね……また学校で話そ!」


「あぁ、またね」


 ……彼女は駅の入口へと向かい携帯を取り出して、どこかへ連絡し始めた。

 すると、俺のポケットから着信の知らせが響いた。


「あ、Irukaです」


 俺は携帯を耳に当てて、応答した。


「へ?」


「え?」


 宇佐美さんは振り返って、こちらを見つめる。

 彼女の瞳の奥の瞳孔が、みるみる開いていくように。

 俺も同じ反応をしているのだろうか、謎の親近感が湧いていた。


「うっそぉおーーー!! めっちゃ偶然じゃん!!」


「あ……あぁ、俺も開いた口が塞がらなかったよ」


「改めて宇佐美ウサミ 真理愛マリアです! CSOでのMariaね!」


「俺は、入鹿イリシカ 飛鳥馬アスマ。 Irukaでやってる。 よろしく」


 Mariaは、宇佐美 真理愛さんだったのか……!


 まるで夢かと思うほどの偶然の確認を済ませ、俺たちは開発会社のアナートマンへと歩きだしていた。

 今日は暑いな。


「何か飲むかい?」


「お、氣が効くねぇー」


 俺達はコンビニで少し涼み、飲み物を購入した。

 彼女は心地よさそうにペットボトルを傾けた後、口を開いた。


「そういえばさ、なんでIrukaなの?」


「苗字の入鹿イリシカを、別の読み方に変えたんだよ」


「あ、そっか……! 私全然気づかなかったー」


 納得のいったようにそう言って、彼女はまた質問をしてくる。


「でもさぁー。 飛鳥馬は私に気づけなかったわけ? 名前おんなじなのにさー」


「あぁ。 正直、全然気づかなかったな」


 気付かなかったのはそうだが。

 俺は彼女の事を【宇佐美 真理愛】……。

 ではなく【宇佐美 真理】と思い込んでいたからだ。

 それでもMariaと名前は似ているが、ピンとこなかったのはそのせいかもしれない。


 この事は、隠しておこう。


「うーん、何か隠してるね」


 す、鋭いな。

 そのまま黙っていると、彼女から腕を首に回される。


「隠し事しないで言っちゃえよー!」


 な、なんかいつもよりテンション高いな。

 でも、それは俺も同じだ。

 不思議な偶然を共感した時、人間は自然とそうなるのかもしれない。

 

「実は、宇佐美さんの本名を、真理さんかと思っていたんだ」


「えっ。 そんだけ?」


「ご、ごめん。 宇佐美さん」


「……真理愛」


「……悪い、真理愛」


「よろしい! 今更、宇佐美さんなんて言われたらさ、むず痒いもんね」


 道中、真理愛さんと新たに仲を深めながら道を行き。

 俺達は開発会社の【アナートマン】へと辿り着いた。


 施設の外観を見た真理愛は嬉しそうな唸り声を上げた。


「すごーい! CSOのロゴもあるよ!」


「なんていうか、壮観だな……」


 自然と都市が融合した風景の中にその施設は佇んでいた。

 近未来的なデザインに加えて、水が流れる壁や台座が並んだり、外の広場には噴水やベンチが並んでいる。

 ゲーム開発会社、というよりはイベント会場や博物館のような様相だ。


 そんな景色に圧倒されながらも、俺たちはビルの中へと入り受付で見学ツアーの確認をする。


「見学ツアーですか? それは先日おこなわれましたよ」


 え?


「え? でも……このメールに、ほら」


「あら……連絡ミスでしょうか? 困りましたね……少々お待ちくださいね」


 受付のお姉さんもこちらを気の毒に思ったのか、電話して確認してくれる。


「まもなく責任者が参ります。 ベンチにおかけになってお待ちください」


「あ、ありがとうございます」


 俺達は、ベンチへと座りその責任者を待った。


「飛鳥馬。 ほら、公式サイトに見学ツアーの日程が書いてある……」


「ご、ごめん。 俺が確認しとけば……」


「いいって! 飛鳥馬がIrukaだって知れて、なんだかめっちゃ嬉しかったしさ!」


 俺が真理愛さんの事をもっと知っていれば、彼女がそうだと気づけたのだろうか?

 まるでゲーム内のMariaと同じように、優しく眩しい笑顔で俺を励ましてくれた。


 すると、責任者らしき人がエレベーターから降りてこちらへと向かってくる。


「え。 飛鳥馬、あの人ってもしかして」


「あぁ……」


 このゲームの開発者。

 そして、Christalクリスタル Salvatorサルバトール Onlineオンラインの生みの親。

 不可能と言われたフルダイブシステムを確立させた張本人……。


 武内タケウチ 弓照ユミテル……。



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