Data 28. 古代の遺産
「この日を、ずっとお待ちしておりました……!」
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Data 28. 古代の遺産
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しなやかな黒髪を纏め上げたメイド服の淑女。
彼女は俺にしがみつき耳元で囁いた。
暗い部屋だ。
視認できる光源は左右の壁にかかった仄かな灯り。
足元へと彼女が放った、ランタンが瞬いているだけだった。
そんな暗い部屋で、俺はかける言葉も見つからず。
ただ、悲しそうに鼻をすする彼女の背中を慰めるようにさする事しかできない。
彼女は、リリス……なんだよな。
俺が口を開きかけた途端、彼女は俺から離れて身を繕い上品な振る舞いで挨拶をした。
頭の側面から生えた威厳のある角に、しなやかな尻尾が揺れている。
竜人……なのか?
「お初にお目にかかります。 私はリリス。 貴方の従者となるため今日まで過ごしてきました」
「……俺の?」
「はい」
「なんで俺なんだ?」
「それは、貴方の中に眠る遺伝子があるからです」
なるほど、ゲームの設定か。
クリスシステムによって、俺たちは過去の英雄の力をインストールして発現している。
おそらくその事だ。
「それにしても、君がこんな姿だったなんて……サポートAIじゃなかったのか?」
「それも含めて、ご説明しましょう」
床へと放り投げていたランタンを拾い、彼女は歩き出した。
「私は、永い間、眠りについていたんです。 【逢魔の災厄】を退ける英雄たちが来るその日まで」
俺たちプレイヤーを待っていたのか。
彼女は先ほど泣いていたとは思えないほど冷淡な表情で、話を続けていく。
「眠りながらも私は電脳デバイスを有し、意識を保っていました」
「私は貴方の存在に気づいて、接触を試みました」
「そして逢魔の災厄が近づき、最近やっと眠りから覚めたんです」
最近まで眠っていたのは分かった。
「なら、もっと早く教えてくれても良かったじゃないか」
「そうしたかったのですが……貴方の中に余計な疑念を抱かせれば、逢魔の災厄で街も村も守り切れなかったかもしれませんから」
なるほど。
確かに、リリスをサポートAIとして頼ることができたから冷静に状況を把握できた部分もある。
だから、災厄を終えてから会うタイミングを見計らっていたのか。
「私は、貴方と会う事を心待ちにしていましたが、ここを離れるわけには行きませんでした」
「さっきの戦闘の跡はそれで……」
遺跡の神殿に会った戦闘の跡。
あそこだけではなく、ゴーレムのいた地下洞窟にも形跡があった。
「はい、逢魔の災厄で魔物はこちらにも流れ込みました」
この場所を守るために動けなかったというが……。
なぜだ? なぜ魔物はここを。
逢魔の災厄は都市や文明を狙うはずだ。
そして……何故かイルカ村も狙っていた。
「その理由が、これです」
彼女は灯りを灯した……。
「な、なんだこれ!?」
俺がやけに広いと思っていた、この地下空間。
最初は部屋かと思っていた。
しかし彼女が歩き始め、この場所は防空壕か何かだと思っていたんだ。
それは飛んだ見当違いだった。
煌びやかな灯りが、広大な地下空間を照らしていき、真の姿があらわになった。
「古代都市・ティルナノーグです」
ティル・ナ・ノーグ。
常若の国と呼ばれる、神や妖精の楽園……。
「これが、この地へと魔物が攻め込んだ理由です」
「……こんな場所があったなんて、リリスはここを守っていたのか」
「この前のゴーレムの暴走で扉が開かれ、魔物はその匂いを嗅ぎつけました」
もしかして、彼女は重大なミッションの役割を持つ、特殊NPCだったのか……?
「でもなんで……序盤の災厄では、ここは狙われなかったんだ?」
「それは……力を隠していたのでしょう」
逢魔の災厄を終えて、安心した瞬間を狙ったのか。
神殿へと進軍するにはイルカ村を落とした方がスムーズになる。
狭い道で待ち伏せされて一気に迎え撃たれれば、魔物達もたまらないという事か。
「でも、多くの魔物を隠す。 そんなことが可能なのか?」
「可能です。 悪しき存在達が、魔物達をコントロールしています」
!?
やはり、βテストのゴブリンに、逢魔の災厄のズレ。
それは誰かが手を引いた人為的な事件だったのか?
そしてそれを画策したのは、パンテオンの子羊なのか……?
「私にも詳細は分かりかねます。 ですが、ここが滅びれば人類は討つ手をなくすでしょう」
「それは、何故だ?」
「ここは、貴方たちの世界とここを繋ぐ重要な拠点なんです」
災厄を防ぐプレイヤーが、この夢の世界へ来るための拠点……。
俺達の現実と、この夢を繋ぐ一端を担っているのか。
……ここは、どこかサルバトーレに似ている。
それが関係しているのか?
「それが、貴方一人を呼んだ理由です」
「助かるよ。 この事は、秘密にしておいた方が良さそうだな」
きっと、この夢の世界を悪用しようとしている存在がいるんだ……俺達の現実世界に。
まだ確証はない。
でももし本当にそんなやつらがいたら、それを知れば俺の周りの友人が危険な目にあってしまうかもしれない。
深入りはしない方が良いだろう。
「それと同時に、周りの人を信用しすぎないでください。 誰が潜んでいるか分かりませんから」
「あぁ、分かった」
周りの人か。
NPCもこの件に噛んでいるのか?
やはりこれは、ゲーム内のミッションじゃないんだろうか。
それに、もしも本当にそんなやつらがいるならば。
これは運営が対処する問題じゃないのか?
「運営はこれを知っているのか?」
「はい、もちろん知っています。 貴方を呼んだのは、私の独断です」
そういえば、彼女は俺の従者になるためと言っていたな……。
「遺伝子は……全プレイヤーにあるはずだ。 なんで俺個人を?」
「そ、それは……」
それは……?
「あ、貴方に、会いたかったんです……」
冷淡な表情で説明を述べていた女性は、微かに頬を染めた。
「そ、そうなんだ」
かくして外部に漏れてはいけない事を、俺は知ってしまった。
きっと、彼女はガードプログラムか何かでエラーが起こったのかもしれない。
後で運営に連絡しておくか。
~新規コンテンツ体験会の招待状~
入鹿 飛鳥馬 様
この度はイベント【逢魔の災厄】の上位入賞おめでとうございます。
飛鳥馬さまのご尽力もあり、逢魔の災厄を退けることに成功しました。
これはChristal Salvator Onlineにおける、新規コンテンツテストプレイの招待状となります。
それに加え、同時開催の開発会社アナートマンの見学ツアーに無料でご招待いたします。
CSOにおける、開発の取り組みや、社内環境などを見学する事ができます。
ツアーの途中には、社内のカフェテラスで優雅な昼食も楽しめます。
ぜひ前向きにご一考ください。
良いお返事をお待ちしています。
・これは逢魔の災厄【個人ランキング、パーティーランキング】3位までの入賞者へと送られています。
・パーティランキング4位である飛鳥馬さまへは、イルカ村での戦いにおいて運営の協議の結果、特別優待枠として本メールが送られています。
・パーティーメンバーのご同行も歓迎いたします。
何かご不明な点がございましたら、以下の番号までおかけください
0120-838-8689




