Data 27. 古の隠し部屋
「Iruka、無事で良かった」
「Sigさん達のおかげですよ」
逢魔の災厄を退けた打ち上げパーティーで街中がどんちゃん騒ぎをしている最中。
俺はSigさんと人の気配がない小高い丘で、昨日の話の続きをしていた。
「それより、君はパンテオンと本当に何の関係もないのか?」
「俺には、心当たりが全くありません」
「そうか……この動画は、いったい誰が撮ったんだろうな……」
兄妹を守るため、俺がゴブリンと一戦交えるこの動画の出どころ。
それには心当たりがある。
「Sigさん、実は……」
俺は話した。
この日、正体不明の不気味な男が村の子供を攫おうとしていた事。
間一髪で子供を取り戻して、そいつと対峙して……。
睨み合いの末に、ヤツは身を隠し退いたことを。
「なるほどな……」
「何か、分かったんですか?」
「そうだな。 今回のような不意の逢魔の災厄、そしてβテスト時の君へのゴブリンの襲撃。 おかしいとは思わないか?」
「そうか……!」
「気付いたか」
どちらもイルカ村を起点にし、魔物の群れが関与している。
そして、あの運営の焦ったような反応。
今回の件も、前の件も……まさか運営の外部から手が加えられたものだったのか……?
正真正銘、人の手が加わり引き起こされた【事件】だったっていうのか?
「おそらくだが、君の考え通りだろう」
「Sigさんの方こそ、何者なんですか?」
「いずれ、君にも素性を明かそう。 その時を迎えるために、私も尽力するさ」
……。
「今のは、半分答えじゃないですか?」
Sigさんは遠くを見て軽く笑った。
すると……。
「ちょっとー! 二人で何話してるの!!」
「一緒に踊りましょう!! ほら、ヒーくんもモタモタしない!」
「うわ、Aki! 強引すぎだよ!」
行こう。
仲間たちが呼んでる。
「俺達も行きましょう」
「そうだな……!」
俺達は共に苦難を乗り越えた喜びを分かち合っていた。
生きている。
ここは運営が用意した電脳世界かもしれない。
でも俺達は、平和を感じ合い、苦難を共にし、喜びを分かち合い、生きてる。
今はこの喜びを、皆と分かち合おう。
こうして、時間はすぐに過ぎていった。
ログアウト後、このまま打ち上げの余韻に浸りたくもなるがとりあえず身を起こすか。
!?
起き上がる瞬間のほんの一瞬。
時間にしては静電気よりも刹那的な刺激。
だがその痛みは、俺の内臓を確実に飛び上がらせ震わせた。
「錯覚か……」
巨大な黒狼に貫かれた腹をさすると共に、今日もまた新たな一日が始まった。
――――――
Data 27. 古の隠し部屋
――――――
逢魔の災厄を乗り切って、あれから数日。
俺に続けて、Mariaは新たな上級職へ転身していた。
「いっけー!!」
凄まじい暴風と共に、氷の嵐が吹き荒れる。
植物のモンスターは炎や氷に弱い。
良い判断だ。
「ナイスだ!」
熱砂地帯の大型のサボテンモンスター達はMariaの魔法によって朽ち果て、消えるように大地へと溶けていく。
<メガサボテンボールの討伐に成功しました>
「これが、大魔法士の力ですね……!」
Mariaは魔法使いから大魔法士へと転職した。
彼女の火力に期待したいところだが……。
「試し打ちも終わったし、後で聖職者にもどろっと」
彼女はこれから聖職者の上級職業を取るつもりらしい。
「では、サルバトーレへ戻りますか!」
「あぁ」
海に面する始まりの街からは3方向の行き先がある。
今日はその一つ、熱砂地帯に在する都市へ到着して俺たちはプレイヤーとして教会へキャラデータを登録。
そうする事で、サルバトーレからこの街へワープできるようになる。
現在は仲間と共にこうやって各所を巡り、行先の解放を行っている最中だ。
<Irukaさま。 お時間をいただいてもよろしいでしょうか?>
リリス、どうしたんだ急に。
これまでとは違い、プライベートな相談事があるような問いかけだ。
<イルカ村付近の神殿跡地にある洞窟へお越しいただけないでしょうか?>
分かった。
皆に聞いてみるよ。
<まずは、お一人で来て頂きたいのです>
そ、そうか。
もしかして、この前の逢魔の災厄と関係があるのか?
<……それは>
分かった、行くよ。
ついてから説明してくれるんだよな?
<もちろんでございます>
「この後はどうしますか?」
「俺は少し用事があるんだ。 皆は?」
俺の言葉に対し、空気はお開きモードと移り変わっていく。
そうして、皆がログアウトした後に、イルカ村へとワープを行った。
基本的に都市の教会へのワープは可能だが、村の教会へは不可能だ。
しかし、この前の逢魔の災厄で飛ばされてから、何故かイルカ村はワープできるようになったんだよな。
「ようこそ、Iruka殿。 今日はどうされましたか?」
村長、教会でお祈りしていたみたいだ。
「ちょっと予定がありまして。 遺跡の神殿は変わりありませんか?」
「あそこですか。 魔物と戦闘した痕跡があるとか……儂は直接見ていないので詳しく分かりませぬが」
「なるほど、じゃまた」
「Iruka殿! もてなしの準備をして待っていますぞ!」
「今回は遠慮しときます!!」
「おぉ、行ってしまわれた」
村長の嘆きを振り切り、俺は神殿跡地へと向かった。
確かに……この前できたばかりのような地面の抉れや瓦礫崩れがある。
洞窟へ近づくたびに、それは増えていく。
いったい、この先に何があるんだ?
<そのまま最奥へとお進みください>
あぁ、分かった。
ゴーレムと戦闘した広間を通り抜けて……。
扉を潜って部屋に入れば行き止まりだ。
片隅にほんの少しだけ、生活感のある部屋。
ゴーレムは、ここで眠っていたのか。
<部屋の片隅にある本棚へ、上から3段目。 左から6冊目。 本を開き9ページ目の言葉を唱えてください>
これは……!
「開け、護摩……!」
本棚がスライドして、地下へ続く階段が現れた。
俺は固唾をのみ込み、真っ暗闇の向こう側を見つめてしばらく唖然としていた。
このまま行って、俺は戻ってこれるのか?
そんな疑念が胸の中をよぎった直後、通路の両脇に設置されていたオーブが光りだし果てない闇を照らしてくれた。
<灯りをともしました。 足元にお気をつけてお越しください>
優しい灯りと声……。
(リリス、今行くよ)
見知らぬはずの階段を一歩一歩下り、俺は奈落を照らす光の道を歩み続けた。
「扉……」
……よし。
俺は冷静さを保てるように、一呼吸入れた。
「開け、護摩……!」
「それは、必要ありません……!」
あ、そうですか。
扉を開けた瞬間、見知らぬ女性が俺へとしがみついてきた。
人間の姿をしている。
しかし、俺の視界の真横に位置する女性の頭部には威厳を感じさせる壮麗な角。
真下には、しなやかで立派な尾が緩やかにゆらめいていた。
「リリス、なのか……」
「この日を、ずっとお待ちしておりました……!」




