Data 26. 英雄たちの再来
Data 26. 英雄たちの再来
俺達の、勝ちだ……。
「Iruka! 生きていたのか!」
「アイテムのおかげさ……」
正式サービス開始日に、勝手に流されていた俺の顔が隠れた動画。
その時に運営に問い合わせた事でもらっていた、復活アイテム。
あれがなければ……。
あの動画は、ギルド【パンテオンの子羊】によって流されていたとSigさんは言っていた。
この騒動はもしやそいつらが……?
まぁいい、今考えても答えは出ない。
ともかく無事に村を防衛できたことを喜ぼう。
「全くよ! 本当にすげぇよ!」
「あれってブラックウルフの上位種だろ! 初めて見たわ!」
肩を組み、小突き合いながら俺たちは村へと戻る。
もしも俺一人だったら、仲間が漏れた敵を倒していなかったら。
連携をして序盤に余裕を持てていなかったら。
きっと、いや。
絶対に負けていた。
「皆のおかげさ。 連携や強化、回復に助けられたよ」
「うちのギルドこいよ! どこも入ってないんだろ!」
「ちょっと、なら私のところにきてよ!」
……。
「まぁ、当然無理にとは言わないけどな! 考えてくれ!」
「あぁ、ありがとう」
全く、俺を誘ってくれるなんて、この人達もSigさんも物好きな連中だ。
でも俺には……。
パンテオンとの因縁……Sigさんは何を伝えたかったんだろうか。
「あ、あ……!」
帰り道、仲間の一人が振り返って何かに気付いてうろたえだした。
「どうした? 何かあるのか……」
「!?」
振り返れば、魔物の軍勢の第三陣が遠くの森から行軍していた。
中位の魔物が何体もいて、中にはネームドクラスのようなやつも数体いる。
ゴブリンキングや黒狼の上位種のようなものはいないが……。
まずい、今の俺達じゃ……。
まず、村は確実に滅ぼされる……!
「一旦引け! できるだけ遠距離攻撃で敵の数を減らすんだ!」
勇ましいプレイヤーの声に、周りの皆はすぐに引いていく。
「俺は……!」
「Iruka、いくらお前でもあれは無理だ!」
……くそ、もうダメなのか?
「……」
俺たちが絶望の渦に飲まれる瞬間、激しい稲光が降り注いだ。
それは……希望の道標の様に光り、ほぼすべての敵を一掃した。
「好機だ! 残党を討ち取れッ!」
……。
……とこんな感じで、あの戦いを終えて。
俺達は電脳都市サルバトーレに帰還していた。
きっとあれは、正の稲妻だったんだ。
人為的なコントロールはほぼ不可能な、普通の稲妻の10倍ほどの威力を誇る神の力のような自然現象。
遠くにあるMariaの魔法によってできた雷雲から、それは放たれたんだろう。
俺が最初に黒狼の上位種であるグランドアークウルフを倒すとき頼みの綱にしていたものだが、それは想わぬ形で村を、俺たちを救ってくれた。
そして、俺の仲間たちが増援として来てくれた。
MariaやAkiさん。 ヒーくんにSigさん。
ワルキューレの面々。
俺達は、イルカ村を守り通すことができたんだ。
そして……
「逢魔の災厄突破! おめでとう!!!」
サルバトーレの街全体に、盛大な花火が打ちあがる。
運営のサプライズによる、打ち上げの仕切り直し。
街全体でプレイヤーの打ち上げパーティーが開催された。
――――――
薄暗い祠へと謎の集団が集う。
「全く、してやられたぜ。 あいつはバケモンだな」
「お前、しっかりと役割を果たしたのか?」
「こいつは、ちゃんとやっていたさ。 俺が見張っていた」
軽快な言葉遣いをする男を訝しむが、その集団へと属する一人はそいつを見張っていた。
「収穫はあったな。 やはりこいつがIrukaか。 そして、魔物共が向かったこの地には、重要な何かが隠されている」
「……」
「お前のおかげだ。 これからもその調子で頼むぞ」
「ま、ほどほどにやらせて貰うわ」
――――――
「夜明けです! プレイヤー達により、逢魔の災厄を突破しました!!」
CSOの開発チームの一人がそう告げて、所長の武蔵 弓照は胸を撫で下ろした。
その安堵は広がる様にチーム員へと伝わり、今度こそ危機を乗り越えたのだという実感が皆の胸に沸いていた。
「プレイヤー達を転送し、サルバトーレに集めるんだ」
「プレイヤー達はサルバトーレで催されたパーティーに夢中です。 イベントについての問い合わせもごく少数に収まっています」
「そうか、君たちももうゆっくりしていい。 今日は業務終了だ。 お疲れ様」
弓照は立ち上がり、部屋を出ていく仲間たちへと告げる。
「これからも、力を貸してくれ。 未来のために」
「もちろんです!」
「ずっとついていきますよ!」
世間へとひた隠しにされた真実を知る、ごく少数の精鋭チーム。
今回の想定外の事態を経て、プレイヤー達だけではなく開発側もより絆が深まっていた。
弓照は再び座り直し、疲れを鎮めていくように腰を深くおろす。
すると真っ暗だった目の前のパソコンの画面へと、急に通話の知らせが届いた。
「今回も、貴方の予測の範疇だったんですか? 意地が悪いですよ」
「そんな事言わないでおくれよ。 言ったろ? 私だって万能じゃないんだ」
「それは、失礼を。 私も少々気が立っていたようだ」
軽い挨拶のようなやり取りのうちに、弓照はIruka村での少年の戦いぶりを思い浮かべていた。
「あれが、貴方の切り札ですか?」
「そうとも。 この世界始まって以来の、私のお氣に入りさ。 幼いころから見てきたんだ。 可愛いだろう?」
システムを飛び超えて、新たな可能性を示す者。
それが弓照達の必要としていた存在だった。
「なぜあの子を?」
「興味があるのかい?」
「一人の研究者として、興味が沸かない方がおかしいでしょう」
「会ってみたらどうだい?」
「それは……名案ですね」
「ヤツらに対抗するためにも、守ってくれると助かるよ。 今回の件できっと、目を付けられた」
「ついに。 動き出したってわけですか。 これからもまた、骨が折れそうだ」
――――――
第二ノ求道。
集諦・是空ノ歪
――――――




