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Data 25. 開花の一歩



Data 25. 開花の一歩



 大ボスのような黒狼が天へと咆哮し、開戦の狼煙をあげた。

 プレイヤーたちは、目に見えて動揺している。


「くそ!」


「どうすりゃいいんだ!?」


 無理もない、先ほどの戦いにより俺たちに残されたリソースは少ない。

 魔力やアイテムもだいぶ消耗している。


 これは……賭けだ。


「皆、村の中へ!!!」


 俺の掛け声によって何か考えがあると感じてくれたのか。

 皆はバリケードや外壁を飛び越え、村の中へ入っていく。


「おい、Iruka!」


 さきほど剣は破壊されたが、盗賊職で使っていた短刀を持ち合わせていて良かった。

 短刀へと指で文字を刻み、俺は一人、村の外でタイミングを待った。


 炎よ!


(火炎魔術・炎陣壁)


 地へと短刀を突き刺して、数メートルの火薬ラインに炎が吹き渡り直線上に延びていく。

 村の城壁のラインへと数百メートルの火炎の防壁を展開した。


「炎の壁……!」


「な、なんだこれ……魔法なのか!?」


 村へと突進していた黒狼の多くは、火炎の障壁に巻き込まれ燃えていく。

 少し村へ入ったが、皆なら問題なく倒せるはずだ。


「Iruka!」


「俺は時間を稼ぐ。 俺がダメだった時は、頼む!」


「くそっ! 入り込んだ敵は任せろ!」


 さきほど冷たい風が吹いていた。

 ……地平線へ微かに黒みがかった空の景色、遠くへと雷雲ができているはずだ。


 きっと、Mariaや俺の仲間たちが始まりの街で戦っている。

 上手くいけば増援も来てくれるはずだ。


「さぁ、こい……!」


 さきほどの炎の壁を警戒したのか、敵は配下の黒狼を俺へと向かわせた。

 随分慎重だな。

 そのおかげで時間稼ぎができる……!


 黒狼の牙を短刀で受け止め、身をひねり攻撃を躱し俺は時間を稼いでいく。

 仕留めると判断したのか、それとも牽制か、新たな黒狼が俺へと向かってくる……!


(縮地・快)


 現実で使っていた俺の縮地が強化されたスキル。

 突進してきた相手は意表を突かれ、俺の接近に対処できていない。

 1体。


 すぐに剣を引き抜き回転切り!!!

 2体。


 そして、剣技:中級・刺突。

 3体目。


 あの頃は3体相手するのには俺の手では足りなかった。

 けど、今の俺ならこの軍勢にも渡り合える……!


 全員で仕留める判断に切り替えたか。


「つぅっ!」


「Iruka!!!」


 数体倒し、よろめいた隙を付かれ腕を噛まれる。

 HPがみるみる減っていく……!


 だが、俺にはまだ切り札がある。


 今日で丁度、正式サービス開始から1か月目だ!!


 リリスいるか?

 追憶のクリスタルを使用したい。


<少々、お待ちください……いけます。 追憶のクリスタルを使用しますか?>


 あぁ!


<上級:魔法剣士マジックナイトへの転職を選択できます。 すぐに、転職、しますか?>


 頼む!!!


<System Error.> 

魔法剣士マジックナイトへの転職に失敗しました。  新たな職業へと、派生します>


 まばゆい光が俺を包み込む、その光によって嚙みついていた黒狼は弾かれた。


 先ほどの仲間の言葉で思い出した。

 上級職への転職。

 追憶のクリスタルを解放してそれができるのは、今日だ。


<おめでとうございます、Irukaさま。 魔術剣士ルーンナイトへの転職に成功しました>

【プレイヤー:???が新たな職業、魔術剣士ルーンナイトへ到達しました!】


「Irukaが上級職になったぞ!」


「ルーン、ナイト……? 新職業だ!」


 魔法剣士マジックナイトではなく……魔術剣士ルーンナイトか!

 今までのステータスが大幅に上がるとともに、きれかけていた体力や魔力も回復した。


 これは、新たな職業に転職する際の一度きりの切り札。


「仕切り直しだ!」


 周りの黒狼は片づけた。

 これが上級職業……!

 これなら……!


 俺は禍々しいオーラを放つ巨大な黒狼と渡り合っていく。


「その理を逸脱した力、捨て置けぬ」


「喋れるのか……!」


「それが、人間の傲慢さよ」


 強い!!!

 これが黒狼の上位種……!


「なぜ村を、人を狙うんだ!」


「それに気付けぬ事が、今の結果だ」


 まずい。

 こちらは防戦一方だ。

 おそらく上級職になっていなかったら、僅か数手でこちらが仕留められていた。

 

 剣戟と爪牙を交わし、俺たちは一旦距離を取った。


 これは……!

 いつものように指で剣へと文字を刻むように、まじないを施した。

 何の反応もなかった今までとは違い、浮かび上がった文字が光の文様となり魔術の力を増幅させるように剣へと溶けていった。


 続けて調合した僅かな火薬袋を敵へ投げ、魔法剣で炎の跳ぶ斬撃を飛ばす。


(火炎魔術・粉刃滅破)


 炎の飛ぶ斬撃は火薬袋に当たり、爆発を引き起こした。


 しかし、それは敵の引き起こした吹雪の魔法によりかき消される。


「ダメか」


「禍々しい力よ」


 頬を伝う汗と、空の雷雲から聞こえる地鳴りのような音。

 それが、俺が今生きている事を実感させ戦いの高揚感を引き立てる。


(魔法剣・炎刃)


 俺は再び近接戦へ持ち込み、やつは炎に対抗するため壮烈な氷を牙と爪へと纏わせた。

 よし、狙い通りだ。


 やはり、こいつはすさまじく強い。

 ヤツとつばぜり合いの様に剣を交わすたびに、命を刈り取られる錯覚に陥る。

 俺の攻撃は一切届かず、力を消耗させられていく。


 気を抜けば、一瞬でやられる……!


「……」


 俺の命日を知らせるように、空の轟音が激しくなる。

 まるで俺に合図をおくってくれるように……。


 今だ……!


「小僧、捕まえたぞ。 ここで死ねッ!」


「それは、こっちの台詞だ」


 剣を持つ二の腕を噛まれた。

 降り出した雨に体を討たれながら、俺は片方の腕で文字を刻んだ。


(黒魔術:氷柱……)


「む!? 貴様ッ、悪あがきを!!」



――――――



 剣技と魔術を用いて黒狼と渡り合っていくIrukaの姿を見守るプレイヤーの一人は、ある噂を思い浮かべていた。

 それは不思議な魔法を使い、最前線から離れて人々や村を守っていたNight・Casterの噂だった。


「俺たちは、思い違いをしていたんだ」


「なんのこと?」


「Night・Casterは魔法使いじゃない」


「……」


「正しくは、Knight・Caster。 魔法剣士マジックナイト……いや、魔術剣士ルーンナイトだったんだ……!」


 やがて激しい戦いの中、Irukaは黒狼に捕らえられた。


「Iruka!!」


 Irukaと共に村を防衛したプレイヤーが、叫んだ。

 魔王のような覇気を放つ黒狼の爪によりIrukaは死んだ。


「あの氷柱は……! そうか!」


 しかし、猫に噛まれた鼠は最期の牙を残していた。

 それは黒狼の躰へと、雨を固める事で立てられた氷柱の避雷針。


 Irukaが地へ伏した瞬間、空が怒る様に光る。

 激しい迅雷が空から降る牙の様に、黒狼へと降り注いだ。


「グゥ……!」


 しかし、黒狼はまだ生きている。

 その強大な存在は呻き声をあげ、耐え凌いでいた。


 降り出していた雨により、炎の障壁は消えプレイヤー達は固唾を飲み意を決した。

 あるプレイヤーは剣を取り、構える。

 あるプレイヤーは杖を取り魔法を唱えた。

 あるプレイヤーの瞳の奥には、失くした希望が再び立ち上がっていた。


「貴様ら、滅ぼしてくれる……!」


「……」



――――――



「貴様ら、滅ぼしてくれる……!」


「滅ぶのは、お前だ」


(氷雷魔術:超電導)


「貴様ッ!?」


 油断した黒狼へと触れてヤツの体内に帯電した電流を解き放った。

 その電流はゴブリンの時とは違い無限に生み出されていく。


 ヤツの躰に立てられた氷柱。

 そして、爪や牙に残る氷魔法の残骸。

 それらが連鎖反応をし氷晶をすり合わせていた。


 地上のマイナスエネルギーと氷晶の摩擦によるプラスエネルギーが半永久的に引き寄せあい雷を生み出し体内を流れ続ける。

 

 俺達の、勝ちだ……。



<森林の覇者:グランドアークウルフを討伐しました>



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