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Data 23. 災厄の夢



 打ち上げが始まり、1時間程。

 ワルキューレの面々とも大分打ち解けたな。

 

 女性比率の高いこのギルドにMariaやAkiさんは是非とも加入して欲しいと、ワルキューレのメンバーからせがまれている。

 正直、俺は一人でも良い。

 皆がギルドに入りたければそうしても良い。


 そう思っていたが、二人とも断りしばらくは俺達と共にいてくれるそうだ。


「パーティーは楽しんでいるか?」


「Sigさん。 招待してくれて感謝してますよ」


「そうか、少し夜風を浴びにいかないか?」


「ええ。 もちろん」



――――――


Data 23. 災厄の夢


――――――



 俺たちはこっそりとギルハウスの屋内を抜け出した。

 広々としたバルコニーの片隅からは、サルバトーレの夜景が宵闇の空を照らしていた。

 クリスタルの放つ煌めきが蠟燭の灯に反射して街を照らし、雲間に見えるオーロラが街を守る結界の様に揺らめいている。


「うわぁ……」


「作り物とはいえ、何度見ても感動してしまうな」


 何回かサルバトーレに来ているが、こんな景色は初めて見た。


「少し君に聞きたい事があってな」


「……なんですか?」


「君は、パンテオンの子羊とは……どんな因縁があるんだ?」


 パンテオンの子羊。

 このゲーム一番の大規模ギルドだが、関係なんて流砂の一粒ほどもないだろう。

 ついこの前、イベントで狩場を追い出されてSigさん達と出会った。

 それだけだ。

 その事は、彼女も知っているはず。


「この前、説明した通りですよ」


 Sigさんはウインドウを開きとある動画データを俺へと見せる。


「この動画。 君だろう?」


「それは、正式サービスの……」


 このゲームが始まってすぐに、街に流されていた動画。

 俺がゴブリンから幼き兄妹を守っている動画だ。


「とある筋から手に入れた情報なんだが、この動画はパンテオンが流したという報告があった」


「……え?」


「その反応は、本当に知らないのか」


 彼女は、心から俺を心配するかのような。

 そして得体の知れない存在を前にした時のような懐疑心が混ざる瞳で、俺の目の奥を見つめ続けていた。


「君は……何者なんだ?」


<Irukaさま!!! すぐに戦闘準備を!!!>


「リリス!?」


「ど、どうした?」


【緊急クエストを発令します!!! 再び逢魔の夜が到来しました!!!】


【プレイヤーの皆さまは速やかに戦闘準備を行ってください!!】


【間もなくサルバトーレに在する皆様を転送します!!】


【繰り返します!!】


 リリス……君は。


「Iruka、何か知っているのか!?」


 転送システムが起動し、俺たちは明滅する光に包まれた。


「うわっ!? Sigさん!!」


「Iruka!!」


 ……。

 転送が終わった……。


 目を開けば、そこは俺の胸像が建てられ、俺のプレイヤーネームを冠した村だった。

 周囲には数人程度のプレイヤーがいる。

 そして、ごく少数の魔物が視界に入った。


 考えるのは後だ。

 幸い数は多くない。


 すぐに接近し、村人の家を狙う魔物をプレイヤーと協力し倒した。


「おぉ、Iruka殿。 それに求道者様がた……!」


「村長、なぜ村が?」


 逢魔の災厄は文明の規模が大きい都市を狙う。

 村は……襲われないはずだ。


「それが、私たちにも分からんのですじゃ」


 おそらく、被害状況の在る場所へ俺たちプレイヤーは送られたんだ。 


「俺たちができる限り守ります。 早く避難を!」


「兄妹が、村の広場で待っているのです!」


「避難場所は!? 俺に任せてください!」


「儂の屋敷ですじゃ!」


 俺は中央広場へと全力で走った。

 なぜだ……胸の奥がざわついていく。

 恐怖する村人。

 いきなり転送され、焦るプレイヤー達。

 体温を感じる、俺のアバターの胸の鼓動。


 まるで、覚めない悪夢の中にいるような感覚が俺の頭を支配していた。


 落ち着け。

 林の心・徐の呼吸。


 いた。


「く、くるな!!」


 ゴブリンが幼き兄妹へと棍棒を振り下ろす。

 させん。


 ゴブリンへと短刀を投げこんだ。

 よし、ヒットだ。


 絶命したゴブリンは前のめりになり、このままじゃ兄妹はゴブリンの下敷きになる。

 怪我をしないように念には念を入れるか。


 ゴブリンが倒れる前に、助走のままに回し蹴りで突き飛ばした。 


 そして、目をつぶり続ける兄妹の頭へと手の平を添える。


「よく守った、お前は立派な兄だ」


「に、にーちゃん!!」「いるかにーちゃん!」


「二人とも本当に頑張った。 村長の屋敷へ行こう」


 妹を背負い、兄を激励し俺たちは村長の村へと走った。

 幸い侵入した魔物は多くない。


 だが、村の外では防衛戦が始まっているかもしれない。

 急ごう。


「おぉ、お前たち! 無事じゃったか!」

 

「そんちょう!」「そんちょー……!」


 よし、ここには少し戦えそうな村の自衛隊もいる。

 さっきのゴブリンのような小物なら、ちょびっと漏らしてもなんとかなりそうだ。


「頼みましたぞ! Iruka殿!」


「任せてください」


 見たところ強力な魔物はいなかったが……。


「にーちゃん! おれ……」


「そんな顔するな。 村は俺たちが守るさ」


 願わくば、グラントレントやギガントゴーレムのような魔物が出ない事を祈ろう。



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