Data 22. 突然変異
宿祢も用事があると言って、俺たちは夕方には帰宅。
シャワーを浴びて軽く30分ほど仮眠した後に……。
イベントの高揚感が止まないままに、俺はCSOへとログインしていた。
すごい活気だ。
初めてのイベントを終えて達成感を分かち合っているのか。
サルバトーレは、打ち上げをしているような人達で溢れている。
集合場所に向かえば、既にAkiさんとヒーくんの姿があった。
そして何かを中心に謎の人だかりができている。
「Irukaさま、こんにちは」
「早いな、二人とも」
「お恥ずかしながら、ワクワクしてしまいまして……」
「俺もだよ」
初めてのイベントで俺たちは、共に街を守り切ったという達成感を得ていた。
道行くプレイヤー達とも、皆仲間であるという意識が芽生えてきている気がする。
「ところでMariaは?」
「実は、あの人だかりの中心が……」
ヒーくんが言うには、午前中にMariaは【☆属性魔法の使い方☆】という動画を出していたらしい。
そのゲーム内動画が反響を呼び、人氣者となっているそうだ。
俺がログアウトしている間に動画を撮影し、二人も付き合ったみたいだ。
「Mariaさん! イベントでの姿カッコよかったです!」
「一緒にパーティーやらない!?」 「魔法専門ギルドに入りませんか!?」
少し困っているようにも見えるが、満更でもなさそうだ。
ワルキューレの面々も待たせているかもしれないし、待ち合わせしているSigさんも時期に来るだろう。
ここは止めに入るか。
「皆さん落ち着いて、Mariaは俺達と約束があるから、ごめんなさいね」
「な、なんだおまえ」「Mariaさんを独り占めする気か?」
しまったな。
彼らには俺が横やりを入れただけの人間に見えているようだ。
「いや、だから約束がですね」
……な、なんだこいつら。
人の話を聞かず、非難轟々の嵐が吹き始めた。
本格的に困っていると、エルフアバターの凛々しい美女が俺たちを守るように前に立った。
「静まりたまえ!!!」
「え……? ワルキューレのSigritさん!?」
「いかにも、私はSigrit。 皆の気持ちは分かるが、彼らとは先に私たちが約束をしているんだ。 賢明な皆なら正しい判断ができるだろう」
「確かに、強引すぎたかも」「Mariaさん、すみません」
すごいな、場の空気が一瞬で変わり皆を説得してしまった。
そしてSigritさんの覇道を表すように、人だかりが割れて道が切り開かれた。
「み、みんなごめんねー! 声かけてくれてありがとね!」
「Mariaさん、天使だ……」 「俺、初めて恋に落ちる音を聞いたぜ」
「SigritさんとMariaさんて繋がりがあったのか」 「一緒にいる男は、まさかMariaさんのパーティー?」
俺たちは注目を浴びながら、人だかりを抜けた。
「まさか、Night・Caster!?」 「実在したのか!?」
Night・Caster。
いつしか真理愛が言っていた正体不明の存在。
夜の魔法使いか。
「実はさ……」
Mariaから耳打ちをされる。
どうやら、俺たちのパーティー内にNight・Casterがいるという噂が立っているようだ。
Mariaが属性魔法を習得できたのも、その存在が背後にいたからという話も出ているようだ。
俺達のパーティにNight・Casterなどいない。
全く、人は噂に流されやすいな。
「さ、ここが我々のギルドハウスだ」
Sigさんの案内で、俺たちは彼女たちのギルドハウスへと到着した。
巨大な屋敷のバルコニーにそびえる長いポールからは、龍の文様が記された巨大な旗が掲げられて揺らめいている。
「すっごーい! これ全部Sigさんたちのおうちなの!?」
で、でけぇ!!
サルバトーレには購入可能なギルドハウスがいたるところにある。
その中でも、これはまごうことなき大豪邸だ。
「パンテオンのはもっと大きかったぞ」
Sigさんはそう言って俺達を招き入れた。
顔見知りとなったワルキューレの面々と挨拶を交わして……。
そしてギルドを率いる長として、Sigさんは高らかに声を上げた。
「みんな!! この度は共に逢魔の災厄を乗り越えたことを嬉しく思う!!」
この場の皆を労うように、彼女は言葉を繋げていく。
「前々から知り合いだった者。 新しくこのゲームで出会った者。 皆との絆が深まった!!」
「これからも仲間として、共にこの世界を楽しもう!!」
「イベントギルドランキング1位達成に!! 乾杯だ!!」
「「「かんぱーい!!!」」」
そう、ワルキューレはギリギリでギルドランキング1位を獲得できた。
後半にネームドモンスターが数体ほど現れ、それが良い結果につながったようだ。
街の後門へ彼女たちが来たのは正解だったな。
そして極めつけに……。
「ゴーレムを倒したのが効いたようだ。 君たちのおかげだな」
「Sigさんの人望や、ワルキューレの皆の力ですよ。 良いギルドですね」
俺達と共にゴーレムを倒したポイントがかなりでかかったみたいだ。
あの時はSigさん+俺達のパーティーで倒したわけだが。
パーティーポイントは俺たちが総取り。
そしてギルドポイントや個人ポイントは全てSigさんへと入った。
ちなみに、俺たちのパーティーランキングは4位だった。
「それにしても……君たちはギルドには入らないのかい?」
俺たちは顔を見合わせた。
想いは同じようだ。
「一先ず、このパーティーでこの世界を歩きたいんです」
「そうか、私たちはいつでも歓迎だ」
ワルキューレのギルドハウスで、俺たちは災厄を乗り越えた喜びを分かち合っていた。
――――――
「ようやく、一段落着いたようだ」
「お疲れ様です。 弓照所長」
開発チームの管理室で部下から一杯のコーヒーを差し出された男。
武内 弓照。
イベント【逢魔の災厄】を終えて、想定より穏やかに難所を終えたことに彼は安堵していた。
口に含んだコーヒーの苦味を感じる暇もなく、その平穏を飲み込む。
チームの仲間を見渡し、部下は緊張感が解かれたように口を開く。
「なんだか、あっけなかったですね」
「あぁ……」
何か引っかかる。
そんな言葉が脳裏をよぎり、弓照の心の底をかき乱していた。
このゲームで陰謀を企てる連中がやけに静かだったからだ。
しかしその懸念は、ただの杞憂にすぎず。
こうして【逢魔の災厄】は終了したのだ。
「……ん? なんだこれ?」
「どうした?」
「逢魔の災厄は終わったはずじゃ? バグかな?」
「……!?」
突然、開発室にけたたましいサイレンが響き渡る。
致命的な事態が起きた時に発動する緊急警報。
弓照の中に溜まっていた疑念の吹き溜まりが、勢いよく弾け飛んだ。
「告知だ!!! 街を守らせろ!!!」
「貴方も見ているんでしょう!? この状況を打破するための切り札があると言っていた!! それは今のはずだ!!」
弓照は突然大声を出し、虚空へと語り掛けた。
「彼は……そうだね。 【Walküre Tears】にいるようだ」
――――――
Data 22. 突然変異
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